図鑑No.86 クロオビトカゲギス(アビサル・ヘイロサー)
(※このページの下部にAIで生成した画像も合わせて公開しています)
第146話はこちら
https://kakuyomu.jp/works/2912051601029383292/episodes/11054822664792548553
──────────
1. 実在の「深海の底を這う黒帯の武人」
細長い、黒い体: トカゲギス科クロオビトカゲギス属。学名は Halosauropsis macrochir。名前に「トカゲ」と付くが魚で、ウナギに似た細長い体をしている。全長は最大90cmほど。体は灰色がかった黒から青みを帯びた黒で、頭のてっぺんや喉元も黒い。体の脇を頭から尾へ走る側線は、それを覆う鞘が濃く色づいている。
水の震えを聴く: トカゲギスの仲間は、水の揺れを感じ取る側線がとりわけよく発達している。側線の孔が、体の端から端まで並んでいる。長く細い胸びれをぴんと立てて構えることも多く、これも周りを探るためではないかと考えられている。
底を探り歩く狩人: 水深1,000〜3,300mほどの、大陸斜面の下部から深海平原の入り口あたりに棲む。水温は2〜4℃ほどの冷たい海だ。大西洋、インド洋の西部、そしてオーストラリア、ニュージーランド、日本の沖にまで広く分布する。海底のすぐ上に浮かんだり、底に身を休めたりして暮らす。トカゲギスの仲間は、じっと獲物を待つより自分から動き回るたちで、体をくねらせて海底すれすれを泳ぎ、平たい吻で砂泥を掘り返す。そうして泥の中に潜むゴカイ、小さな甲殻類、ウニやナマコの仲間などを探し当てて食べる。
古い古い一族: トカゲギスの仲間の化石は、白亜紀の終わり頃の地層からも見つかっていて、その頃の姿はもう今の仲間によく似ていたという。また、尾を失ってもたやすく生え替わらせることができる。
──────────
2. 作中の「深海の黒帯」
北西の宮を目指す尾根道の朝。陽だまりの窪地で朝餉をとる一行の前に、天使の拵えた二体の刺客が現れた。鎧の騎士はオトゥームが引き受け、もう一体の拳法使いの相手として、ユーガがこの深海の武人を呼び出した。
過剰進化(起こりを聴く側線): 指令は「――読め」。脇腹の黒い側線が紫に灯り、頭から尾の先まで一本の光の線が走る。拳が出る前、肩が沈み、足の裏が地を噛む。その時に生じるごくわずかな空気の揺れを側線が拾い、拳そのものではなく、拳の「起こり」を先に聴き取る。目には頼らない。
作中での活躍: 拳と肘と膝の連撃を、打たれる前にことごとくかわした。目潰しの砂煙を浴びても目を開けず、鞭のような尾で相手の軸足を払った。拳法使いが彫像のように動きを止めて起こりを消すと、ユーガの「掘り起こしてやれ」に応えて地面すれすれへ降りる。吻で土を掘り返して土埃を巻き上げ、相手を乳色の濁りに沈めた。潜水士の言う「シルトアウト」である。見えない中で足元を這い回られた拳法使いは、ついにこらえきれず、踵がわずかに浮いた。その起こりを逃さず、懐へ飛び込んで喉元を吻の一突き。とどめはコンが刺した。その戦いぶりを横目に見ていたオトゥームも、騎士を破るきっかけをつかんでいる。
──────────
名前は「黒帯」でも、本物の黒帯は脇腹を走る側線のほう。泥を掘り返して潜んだ獲物を引きずり出す、深海の底の狩りの技で、天使の拳法使いを一本取りました。待たずに探しに行く、攻めの武人です!
──────────
第146話はこちら
https://kakuyomu.jp/works/2912051601029383292/episodes/11054822664792548553