今回の話には、ヤマウズラが登場します。
……が、ここで一つ。
ヤマウズラ、日本にはいません。
今回登場させたのは、いわゆるヨーロッパヤマウズラ(Perdix perdix)です。
では、なぜ日本の森の話に、いないはずのヤマウズラを出したのか。もちろん、物語上の理由もあります。
でも、一番大きな理由は、私がヤマウズラという鳥が、めちゃくちゃ好きだからです。
そして、私にはヤマウズラが好きになった、もう一つのきっかけがあります。
それが、「梨の木のヤマウズラ(A partridge in a pear tree)」というフレーズです。
これは、イギリスの有名なクリスマスキャロル、
『The Twelve Days of Christmas(クリスマスの12日間)』の一節。
「On the first day of Christmas, my true love gave to me…」
クリスマスの1日目に恋人が贈ってくれたものとして、
A partridge in a pear tree.
――梨の木にとまる、一羽のヤマウズラ。
この言葉が、私は昔からなんだか好きなんです。
何がそんなに好きなのか、自分でもよくわかりません。
ただ、「梨の木」と「ヤマウズラ」という、
本来そこまで馴染みのない二つのものが並んでいる感じ。
しかも、ヤマウズラは基本的には地上性の鳥なので、そもそも「梨の木にヤマウズラ」という光景自体が、ちょっと妙です。
その妙な感じも含めて、好きなんです。
『The Twelve Days of Christmas』は、クリスマスから公現祭までの十二日間を題材にした、贈り物が一日ずつ増えていく数え歌です。
1日目はヤマウズラ。
2日目は二羽のキジバト。
3日目は三羽のフランスの雌鶏。
4日目は四羽の鳴く鳥。
……と、どんどん贈り物が増えていきます。
現在知られている英語版は1780年に出版されたものが初期の記録として知られていて、もともとは子どもたちの記憶遊びや、間違えたら罰を受ける「フォーフェイト・ゲーム」のような遊びだったと考えられています。
ところが、この歌には有名な「宗教的な隠し意味」があるという説もあります。
有名なのが、「梨の木のヤマウズラ=イエス・キリスト」という解釈。
「true love」は神を指し、ヤマウズラがキリスト、梨の木が十字架を象徴している――というものです。
さらに、
二羽のキジバト=旧約聖書と新約聖書
三羽のフランスの雌鶏=信仰・希望・愛
四羽の鳴く鳥=四福音書
五つの金の指輪=モーセ五書
……という具合に、十二の贈り物それぞれにキリスト教的な意味を当てはめていく説があります。
ただし、この「実はカトリックの教えを隠して伝えるための暗号だった」という説については、現在では根拠が乏しく、後世に作られた解釈と考える研究者も多いようです。もともとの歌が宗教的な暗号だったという確かな証拠はありません。
でも、私はそういうところも含めて、このフレーズが好きです。
本当なのか、後から生まれた伝説なのか。
どうして「梨の木」なのか。
どうしてヤマウズラなのか。
そもそも、なぜヤマウズラを木に乗せたのか。
いろいろ調べても、すっきり一つの答えにはたどり着かない。
でも、「梨の木のヤマウズラ」
という言葉だけは、ずっと頭に残る。
そして実際のヤマウズラも、私の好みにものすごく刺さる鳥です。
ヤマウズラは、いわゆる派手な鳥ではありません。
灰色や褐色、茶色を基調とした羽毛で、地面にいると周囲の枯れ草や土に驚くほどよく馴染みます。
ヨーロッパヤマウズラはヨーロッパからアジアにかけて分布し、農耕地や草地などで暮らす地上性の鳥です。
鮮やかな色で目を引く鳥とは違って、じっと見ないと、その美しさに気づきにくい。
でも、よく見ると羽毛には細かな模様がいくつも重なっている。
茶色や灰色の中にも、微妙な濃淡がある。
そして、その模様そのものが、周囲の風景に溶け込むための美しさになっている。
だから今回の話で、
«「あそこに、ヤマウズラがいる」»
と主人公が見つける場面を書きました。
主人公は、他の人とは違う色の見え方をする。
だからこそ、普通なら「色の違い」に埋もれてしまうものが見えるかもしれない。
もちろん、これは現実の色覚特性を持つ人がヤマウズラを見つけやすい、という意味ではありません。
あくまで物語上の表現です。
ただ、
「みんなと違う見え方をすることは、本当に欠けていることなのか?」
という今回の話のテーマを考えたとき、ヤマウズラという鳥は妙にしっくりきました。
目立つものだけが美しいわけじゃない。
鮮やかなものだけが価値を持つわけでもない。
誰かにはただの枯れ葉に見える場所に、一羽の鳥がいることだってある。
今回の主人公が最後にたどり着く、
「誰かと同じ色をしている必要などない」
という感覚にも、私の中では少しだけヤマウズラが重なっています。
そして何より。
私は、「梨の木のヤマウズラ」という言葉が好きです。
クリスマスの歌に出てくる、ちょっと不思議な一羽の鳥。
そのフレーズを知ってから、ヤマウズラという鳥そのものにも興味を持つようになりました。
だから、どうしてもこの話に登場させたかった。
……日本にはいないのに(笑)
そこはもう、創作ということで。
どうか温かい目で見てやってください。
https://kakuyomu.jp/works/2912051606502108227/episodes/2912051606502119262