運命の恋人 小話
俺は死んだ。
ああ、俺の夫が、娘たちが気がかりだ。
ふふ、俺が死んで喜ぶ女達は沢山いるだろうな。
馬鹿な奴ら。夫がどんな無慈悲な性質を持っているかも知らないで。
いや……。だからこそ、吐いて捨てるように求める女達がいるのかも知れない。
誘蛾灯に蛾が集まる様に夫は、信者や敵も味方も引き寄せる。
憎らしい程にな。
それにしてもここには何もない。唯、気持ちが悪い程、白い砂と、鮮やかな海だけだ。ああ、まるで白骨みたいな砂だ。そう思いつくと、みるみる赤い花に変わった。
びっくりしたよ。どういうことだよ。
俺はもう一度考えてみた。
骨が花になった。花よ骨になれ。
すると、赤い花はサラサラと白い砂になったよ。
そうか。そういうことか。ここは、俺だけの死の世界らしい。
思考するだけで、想うだけで物質は変わるんだ。面白い程に。愉快だ。
俺はしばらく遊んだ。 俺のお気に入りの着物。宝飾品。記憶にある大事なものだけひょいひょいと取り出して、住み家を創ったんだ。
しばらくは楽しかった。でもだんだん寂しくなった。
だって誰もいないんだ。無音であまりに静寂があった世界だ。
孤独。俺だけの世界はあまりにも茫漠として寂しかった。
嗚呼、駄目だ。夫がいないと俺は駄目なんだ。
俺は、夫によく似た人型も創ったけど、すぐに壊したよ。偽物だからな。
心が無いし、不毛だ。
俺は目をつぶって眠ろうと思った。
俺は確信があった。多分、夫は俺だけの死の世界にやって来る。
その時まで俺は眠り姫でいようと思った。ふふ。お姫様なんで恥ずかしいな。
俺は待っているよ。あいつがいつかこの白い骨の世界にくるまでな。その時、この
世界は、殻を破った卵のように息を吹きかえすんだ。
緑溢れる生命の世界。色鮮やかな魚たちの夢の競演。穢れなき純白の雲と蒼天。
その時、俺はあいつを夫を抱擁するだろう。
いつかこの世界が愛以上に満たされるまで抱擁しよう。