貴族の小食堂。
午後の陽が障子越しにやわらかく差して、卓の上の漆黒の盆を淡く照らしていた。
その中央に置かれた皿の上――
白いシャリの小さな山に、薄桃の身がふわりと覆いかぶさる。
中トロ。
脂が、雪の筋みたいに細く走っている。
リーゼロッテはそれを見つめるだけで、喉が小さく鳴った。
「……これが、中トロ……ですの?」
問いかけは、かすかに上ずっていた。
普段の彼女なら隙なく微笑むところだ。けれど今は、好奇心が勝っている。
「そう。醤油は――ネタのほうを、軽く。つけすぎると塩辛いからね」
ユーリがそう教えると、リーゼロッテは真剣な顔でこくりと頷く。
「はい、旦那様……」
箸先でそっと持ち上げる。
少し力を入れた瞬間、シャリが崩れそうになって、彼女の肩がぴくりと跳ねた。
「……む、難しいですわ……!」
けれど諦めない。
指先の加減を整え、今度は丁寧に――まるで宝石を扱うみたいに、そっと運ぶ。
小皿の醤油に、ネタの端だけを軽く触れさせた。
艶がのった瞬間、香りがふわっと立つ。
そして、唇へ。
ひと口。
リーゼロッテの睫毛が、ぱちりと震えた。
次の瞬間、彼女の頬が、薔薇みたいにじわりと染まっていく。
「…………っ」
声にならない息が漏れる。
彼女は片手を頬に当てたまま、もぐもぐと小さく咀嚼した。
貴族らしく、音は立てない。
けれど――表情だけは隠せない。
瞳がとろりと潤み、肩の力がふわっと抜ける。
幸せが身体の中から溶け出して、頬を押し上げているのが分かる。
「……本当に……旦那様は反則、ですわ……」
「え、僕?」
思わず聞き返したユーリに、リーゼロッテはこくこくと頷く。
まだ頬に手を当てたまま、少しだけ恥ずかしそうに目を伏せた。
「……だって。とろけますもの……。こんなに優しく……」
言いかけて、自分で照れてしまったのか、口元をきゅっと結ぶ。
それでも、箸は正直だった。
彼女はそっと視線を上げて、遠慮がちに――けれど確かな熱を込めて、囁く。
「……もうひとつ。よろしいかしら?」
ユーリの胸が、変な音を立てた。
(まずい。可愛い。これは、完全に、まずい――)
そう思っている間にも、リーゼロッテの頬は、幸せの色のままやわらかく火照っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お寿司を食べるリーゼロッテの他のイラストを【pixiv】に投稿しています。
https://www.pixiv.net/artworks/141796743
ComfyUIで作成したかったのですが、
私の技術力が追いついておらずで、
Soraで生成した画像になります。