クロエ
「フィオナ、そのクッションは右よ。旦那様をお迎えする前から部屋を混沌にしないでちょうだい」
フィオナ
「えへへ、ごめんごめん。だって、このお部屋すっごく広いんだもん。どこに置いても似合いそうで迷っちゃうよ」
リリィ
「で、でも……旦那様が座られた時に、すぐ手が届く場所がよいと思います」
クロエ
「リリィにしては的確ね。では、その小卓のそばに置きましょう」
フィオナ
「ねえねえ、旦那様ってどんな人かな? 怖い人じゃないといいなぁ」
クロエ
「怖いだけならまだ楽よ。面倒なのは、優しい顔で無茶を言う方ね」
リリィ
「そ、そんな方なのですか……?」
クロエ
「まだお会いしていないから分からないわ。ただ、セリーヌ様が選ばれた方なら、普通ではないでしょうね」
フィオナ
「普通じゃない旦那様! なんだか楽しそう!」
クロエ
「貴女は本当に前向きね。まあ、その明るさだけは旦那様のお役に立つかもしれないわ」
フィオナ
「だけって言った!? ねえ、今だけって言ったよね!?」
リリィ
「ふふ……フィオナちゃんがいると、お部屋が明るくなりますから」
フィオナ
「リリィ~! やっぱりリリィは優しいね!」
クロエ
「抱きつく前に、その手を拭きなさい。今、花瓶を触ったでしょう」
フィオナ
「あっ、そうだった!」
リリィ
「こちらに布巾があります。フィオナちゃん、どうぞ」
フィオナ
「ありがと! リリィは本当に気が利くなぁ」
クロエ
「それでいて、自分が一番緊張しているのだから不思議ね」
リリィ
「だ、だって……旦那様専属なんて、私で本当に大丈夫なのかと思ってしまって……」
フィオナ
「大丈夫だよ! 三人一緒なら何とかなるって!」
クロエ
「そうね。貴女が水をこぼし、リリィが慌て、私が後始末をする。完璧な連携だわ」
フィオナ
「それ、私だけ失敗役じゃない!?」
リリィ
「で、でも……旦那様が疲れて帰ってこられた時、綺麗なお部屋だったら、きっと安心してくださいますよね」
クロエ
「ええ。そのための私たちよ。旦那様がどのような方であれ、最初に整えるべきは、この部屋と空気」
フィオナ
「じゃあ、最後にお花をもう一本だけ増やしていい?」
クロエ
「一本だけよ。花畑にするのは却下」
リリィ
「旦那様……喜んでくださるでしょうか」
フィオナ
「きっと喜ぶよ!」
クロエ
「喜んでいただかないと困るわ。私たち、今日から旦那様専属なのだから」
リリィ
「はい。精一杯、お仕えいたします」
フィオナ
「よーし! 新しい旦那様、いつでも来てくださーい!」
クロエ
「フィオナ、声が大きいわ」
リリィ
「で、でも……少しだけ、私も楽しみです」