本編でルシアが変な性癖に目覚めながら吸収した現代外科知識。
では古代ローマでは外科手術はできたかというと……意外なことに、一般的な外科処置はすでに行われていました。
その証拠にポンペイ遺跡にある「外科医の家」と呼ばれるドムスからは、メスや鉗子、カテーテルに至るまで、現代の道具と形状がほとんど変わらない精巧な外科器具が多数発掘されています。
一方で、本編でルシアがモブ医者をボコボコに論破しているように、内科の領域では四体液説という物が医学の基本でした。
これは体液のバランスが崩れると病気になるとする理論で、現代では考えられない事ですがただ血を抜くだけの治療「瀉血(しゃけつ)」などが、最先端の医療として平然と行われていました。
もちろん百害あって一利なしなので治療効果はプラセボ以外ありません。
こう聞くとなぜ外科手術だけが異常に発達していたのか不思議に思えますが、実は人類史全体を見ると「外科だけが突出して発達する」というのはよくある話です。
内科領域の治療は根本的には細菌やウイルス、細胞がどういう科学的法則に基づいて働いているかの概念がないと謎薬草や謎鉱石を用いたトライアンドエラーで死体を積み上げても、「なんとなくこの治療が効きそう」以上の確度での治療はできませんが、「物理的な怪我」は、血が出ているところを塞ぐ、なんかヤバそうなものを取り除くなどの、見て縫って塞ぐという見た目中心の治療でも成功が見込めるためです。
要はあてずっぽうの試行錯誤を進めた時、外科手術の方が正答率が高いわけです。
実際、中米のマヤ文明などでも、現代のメスより鋭い黒曜石を使った開頭手術(頭蓋骨に穴を開ける手術)が高い成功率で行われていたりと、外科ツリーだけ発展させている文明は古代ローマ以外にも多数存在します。