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限定SS 三馬鹿男飯『夏祭り』


 皆様こんばんは、くろぬかです。
 今回の限定SSは本編終了後、墓守の後のいつか、程度でお考え下さい。
 今までにも言っている様に、本編終了後の番外編などに再投する可能性はございます。
 先読みの様な形になってしまいますが、ご了承くださいませ。
 まぁ、本当に上げるかどうかは分かりませんが。
 とういう訳で、今回もお楽しみ頂ければと思います。

 ※※※


 「支部長ぉ~来ましたぁ」

 本日もまた悪食のちびっ子達が配達に訪れた。
 週に何度も呼びつける事から、既に支部長室まで顔パスの様な情況になっている訳だが。

 「待っていたぞ、皆。よく来てくれた」

 丁度今日の仕事を終えて、彼等の事を出迎える。
 やはり一日の終わりに楽しみがあると言うのは良い。
 それまでに仕事を終わらせようと頑張れるし、何よりいつも以上に時間を意識しながら効率的に動ける。
 人間とは娯楽があってこそ、きっちりと動けると言うものだ。
 なんて事を考えながら、彼らからバスケットを受け取ってチップを差し出した。

 「支部長、いつも言ってますけど代金だけで平気ですよ? 院長からも、あまり貰ってばかりではいけないって言われてますから」

 「おや、そうなのか? では大人組には内緒で、皆でお菓子でも買ってからおかえり」

 そう言って、いつも通り少し多めの代金を支払ってみれば。
 しかしそこは子供達。お小遣いが増えるのは嬉しいのか、皆困り顔を浮かべながらも少しだけ嬉しそうな様子を見せる。
 とはいえ、ナカジマの言う通りあまり与えすぎてそれが“普通”になってしまっても困る。
 その辺りは向こうで上手く言ってくれているのか、それとも子供達の心遣いなのか。
 最近は頼んだ料理が普通より大盛りになっていたり、簡単な一品が増えていたりと、こちらにもメリットがある。
 というのが通例になっていた訳だが。

 「ん? 今日はこれだけなのか?」

 渡されたバケットの中に入っているのは、いつもより随分と少ない料理達。
 なんというか、本当におつまみ程度。
 確かに料理はお任せで頼んでいるし、文句を言うのは筋違いなのは分かっている。
 しかし、今までこんな事は無かったのだが。
 少し残念な気持ちになりながら、首を傾げてみせれば。

 「支部長、今日のお仕事もう終わりですか?」

 配達員の子供の一人が、満面の笑みを浮かべながら手紙を此方に差し出して来た。

 「うん? あぁ、仕事は丁度終わった所だが」

 返事をしながら差し出された手紙を開いてみれば、そこには。

 「これはっ!」

 「この後予定がない様だったら、是非是非~」

 きっと子供達が皆で作ったのだろう、丸っこい字で書かれた“食事会”の招待状が。
 何でも食事を何度も注文してくれているお客様限定で、本日の夜行われる夜会に参加できるらしい。
 なるほど、今日の分が少ないのは今から腹いっぱいにするなという事か。
 という訳でバスケットに入っていたサンドイッチをバグバグと口に押し込んでから、急いで帰り支度を済ませる。

 「待たせたな、では行こうか」

 「はーい」

 此方の準備が終わるまで待っていてくれた子供達と並んで歩きだした。
 帰り際にカウンターをチラッと見てみれば、受付嬢から妬ましい視線を向けられてしまったが。
 あぁ、今日アイリは休みだったか。
 アイツめ、この“食事会”の為に休暇を取ったな?
 そんな事を考えながら、子供達に手を引かれるままギルドを後にするのであった。

 ――――

 孤児院に到着してみれば、そこには多くの人が溢れ、そして賑わっていた。
 戦風に戦姫、姫様の護衛の面々の姿も見える。
 少し出遅れてしまったか? なんて事を思いながら、子供達に案内されて進んで行けば。

 「あ、支部長。お疲れさまでーす」

 既に酒が入っているのか、私服姿の上機嫌なアイリが手を振って来た。
 普段制服姿ばかり見ているから、これもまた新鮮。
 最近は悪食女性陣でよく買い物に出かけるらしく、土産話くらいは聞いてはいるのだが。

 「一時期は死んだ目をして受付仕事をこなし、昔はズボラな生活を送っていた奴の姿とは思えんな」

 「一言も二言も余計です。どうですコレ? 最近子供達が布関係にも手を出し始めたんで、持ち込みオーダーで作って貰ったんです。今ではそのお店に弟子入りしてる子達もいるくらいですから、今度はホームで服を売り始めるかもしれませんよぉ~」

 「相変わらず、どんどん手広くなっていくな……」

 そんな事を言いながら、彼女は長いスカートを拡げその場でクルッと回ってみせる。
 布関係、という事は刺繍や柄などだろうか?
 確かに随分と細かい模様が描かれ、一枚の布としても非常に美しい。
 この辺りはアナベルが教えているのだろうか?
 彼女の描くモノは、陣も模様も素晴らしい。
 そして何より、今の様に洋服などにする際の模様の配置……とでも言えば良いのか。
 センスが良いと言う言葉が一番しっくりくる。

 「ふむ、素晴らしいな。この先職人に教わった子供達が一流になれれば、間違いなく売れる品になるだろう。洋服関係なら、フォルティア家の繋がりで探せば高級店の伝手もあるだろう。品必向上の為に協力を仰いでみたらどうだ?」

 「そうですよねー、支部長ならそう言う反応になりますよねー。まぁ仕事の話を絡ませた私が悪いんでしょうけど」

 はぁ~とため息を吐くアイリは、非常に呆れた瞳を向けて来るが。

 「あぁ、すまない。最初に言っておくべき言葉は違ったな。似合っているぞ、アイリ。明るい色も、お前の雰囲気によく合っている。これで馬鹿力のウォーカーじゃなければ、貰い手は吐いて捨てる程居ただろうな」

 「だから一言余計だって言ってんですよ! ていうか、シーラの支部長が夢中になるのもちょっと分かった気がします。案外サラッと臭い台詞吐くんですね、支部長。朴念仁と盗賊を足して割った様な顔してるのに」

 「お前もお前で一言余計だ」

 お互いにおかしな言葉をぶつけ合いながら、軽い笑みを浮かべて皆揃って歩き出す。
 今夜は食事会だと言うのだ。
 だとすれば、主催者にはまず挨拶しておかなければいけないだろう。
 なんて、こんな堅苦しい考えは不要なのだろうが。
 せっかく足を運んだのだ、顔くらいは見せておかなければ。
 という事で、アイツ等の姿を探していた訳だが。
 結果から言おう、すぐに見つかった。
 見つかったのだが、何だアレは。

 「ぶはははっ! マジでコレ漫画の世界だって! こうちゃん鍋の中に落ちるなよ!?」

 「落ちるかバーカ! だが落っこちた時は俺も一緒に食ってくれ! せっかく肉屋の皆からの頂きモンだ。無駄にするんじゃねぇぞ!」

 「北君そろそろ味見してみようよ! どんな感じ!?」

 此方も既に酒が入っているのか、やけに騒がしい三馬鹿がドデカイ鍋をかき交ぜていた。
 いや、本当に意味が分からない。
 鍋をかき混ぜる為に梯子に登っているぞ。
 その大きさ、一番大きいアズマよりも背が高い。
 鍋を固定する為の骨組みにも鉄が使われ、その下には轟々と燃え上がる焚火と言うには大きすぎる炎が。
 わざわざ作ったのか? コレを。
 鍋も凄いが周りの道具や専用の固定具も、ただコレがやりたかった為に?

 「コイツ等……本当に馬鹿なんだな……」

 「良いじゃないですか、楽しそうで。ドワーフ組もノリノリで作ってましたよ?」

 アイリの一言に、思わず額を押さえてため息を吐いてしまった。
 コイツもコイツで完全に毒されている。
 あれを見て、“楽しそう”で済ます奴はもう駄目だ。
 そんな訳で会場のど真ん中には巨大な鍋が鎮座し、周囲には色々な場所に簡易テーブルが置かれそこら中で何かしらを拵えている様だ。
 悪食は勿論、子供達も総動員で。
 まるで小さな祭り会場にでも来たような気分だった。
 少々ツッコみたい所も見受けられるが、まぁ良い。

 「お前達、今度は何を作っているんだ……」

 呆れた声を上げてみれば、巨大鍋の面倒を見ている三人衆がこちらに振り返った。

 「お、来たか支部長! 今日は残業じゃなかったんだな」

 ワッハッハと豪快に笑いながら、キタヤマが鍋の上から手を振っている。
 まるで普段は残業ばかりの様な言いがかりは止めて頂きたい。

 「こっちはもうちょっと掛かるから、腹ペコなら何か入れて来た方が良いぜ? 今日は祭りだからな、なんでもありだ」

 そんな事を言いながら、ニシダが酒瓶をこちらに渡して来る。
 とりあえず飲めという事なのだろうが、本当に緩いなコイツ等は。
 普通の夜会なら、堅苦しい挨拶周りばかりになってしまいそうなのに。
 この会場ではそんな事をしている奴らは一人もいない。
 誰しも好きなモノを食って、自由に楽しんでいる。

 「何食べます? 今日はお得意様に大サービスって事で、何でも無料ですから。食料保管庫の在庫処分セールも兼ねてですけど」

 この中で一番鎧と雰囲気の合っていないアズマが、のんびりした声を上げながら一枚の用紙を渡して来た。
 そこには、この会場の見取り図。
 というか提供している物の一覧が書かれていた。
 なるほど、これなら食べたい物を探してウロウロする必要は無さそうだ。
 それはそれで楽しそうだが、会場案内があるのは良い。

 「そうだな、先程配達してもらったサンドイッチは食べたが……肉、いや少しさっぱりした物を食べてからの方が良いか。こっちは仕事終わりだからな、今肉に齧り付いたら腹いっぱいになるまで食べてしまいそうだ」

 何てことを呟きながらジッと用紙を覗き込んでいれば。

 「支部長もいらっしゃって下さったんですね、お仕事お疲れ様です」

 今日聞いた中で、一番まともな挨拶が背後から響いた。
 振り返ってみれば、長い髪を揺らすミナミの姿が。
 探究者との戦闘が終わった辺りからだろうか?
 彼女は髪を伸ばす様になり、以前よりも大人っぽい雰囲気を放っている。
 見た目以上に、三馬鹿と共に居て一番落ち着いているからそう見るのかもしれないが。
 そして、コイツ等と違ってちゃんと私服を着ているのも大きいのだろう。
 街中でも鎧姿しか見ない馬鹿は、これ以上増えて欲しくないので非常にありがたい。

 「先程のお話が聞えましたが、さっぱりした物をご所望であれば氷菓子など如何ですか? 甘い物が平気であれば、さっぱりしますよ。こうも熱いと、無駄に疲れてしまいますから」

 「ほぉ、氷菓子か。良いな、それを貰おう。どこのテーブルにあるんだ?」

 「ご案内しますね、どうぞこちらへ」

 そんな訳で皆と手を振って別れ、ミナミに案内してもらう事になった。
 この子と二人になる機会など無かったので、少し変な感じだが。

 「ミナミ、いつか言おうと思ってそのままになってしまっていたが……すまなかった」

 「……? 何か謝られる事があったでしょうか?」

 彼女は隣を歩きながら、不思議そうな顔で此方を見上げて来た。
 本来なら掘り返すべき話ではないのかもしれないが、それでも謝っておきたかった。
 これは、私の自己満足に他ならない。

 「アイツ等に奴隷を買う様に指示したのは私だ。そして、お前が選ばれた。当初私は、彼等の事もお前の事も、実験動物の様な感覚で観察していた。今更何をと思うかも知れないが、最初は道具の様に扱ってしまった事を謝罪したい」

 歩きながらだが、静かに頭を下げてみれば。

 「あぁ、なんだ。そんな事ですか」

 ミナミはクスクスと笑いながら、首を横に振ってみせた。

 「ご主人様にとって“この世界”で最初に手を差し伸べてくれて、いくら感謝しても足りない相手。それは姫様なんだそうです。彼女が居なければ何も始まらなかった、彼女が居なければ生き残る事が出来なかった。だから、その恩を返し続けるのだと言っていました」

 詳細までは聞いていないが、“勇者召喚”直後に彼等を助けたという話は耳にしている。
 それも姫様の称号ゆえの行動だったとしても、本人達からすれば知らない世界に何も持たずに放り出されそうになった所に、彼女の救援だ。
 何よりも有難かっただろうし、三人の性格からして感謝を伝えるだけでは足りないと感じるのも理解出来る。
 彼等にとっての姫様は、本当の意味で命を繋いでくれた存在なのだから。

 「私にとっても、そういう存在が居るのであれば。それは多分貴方です、支部長。だから、謝らないで下さい。むしろ感謝させてください。奴隷というのは、道具です。貴方の判断は間違っていない。なんたって魔獣肉を喰らう人達です、どうなるか知りたいと思ってしまうのは仕方ない事だと理解出来ます」

 言葉を続けながら、今度は彼女の方が頭を下げて来た。

 「だから、ありがとうございます。ご主人様達に、奴隷を勧めてくれて。きっと支部長の言葉が無ければ、ご主人様達は奴隷を買うなんて行為はしなかったと思います。そういう人達ですから。でも、貴方が居たからこそ私は彼等に買って頂けた。私は、助けられた。感謝こそあれど、恨む様な事はありません」

 なんと声を返したら良いのか、正直戸惑った。
 確かに彼女の言う通り、奴隷とは道具として使われる。
 そして彼女は未だ奴隷だ。
 でも、悪食と関わっていく内に。
 綺麗事かもしれないが、そんな風に思っていた自分が恥ずかしくなったのは確かだ。

 「今、お前は幸せか?」

 自分でも何の確認だと言いたくなるような言葉だったが、直接彼女の言葉で聞きたかった。
 私の思考は打算ばかりの間違ったものだったかもしれない。
 でも、行動は間違っていなかったと思いたかったのかもしれない。
 全ては結果論で、もしも伝承に有る様な“魔人化”が本当だった場合、ただ犠牲者を増やしただけ。
 それでも、私の行いで助かった命があると言ってくれるなら。
 その子には幸せであって欲しいと願ってしまったのだ。

 「はいっ! 私はご主人様達に買われてから、ずっと幸せです。だから、ありがとうございます」

 「そうか、なら良い。ありがとう」

 「……支部長もご主人様達に負けず劣らず、お人好しですよね」

 「うるさい」

 茶化して来る小娘から、思わず視線を逸らしてみせれば。

 「フフッ、何かあったら声を掛けて下さいね。ご主人様達が姫様の願いを断らないのと一緒で、支部長の依頼なら私は一人でも動くかもしれません」

 「ミナミが一人で動くとなれば、アイツ等も絶対について来そうだな」

 「えぇ、ですから少なくとも四人は確保ですね。もう無敵です」

 そんな会話を繰り広げながらも、私達は最初のテーブルへと到着するのであった。
 とにかく……良かった。
 自己満足だと言う事は分かっていても、彼女の言葉を聞けて。
 少しだけ胸の中の荷が下りた様に感じているのは確かだった。

1件のコメント

  • 日本という重機ショベルで鍋を作るおかしな国があります笑
    クロウがお人好しで苦労してるの伝わります。
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