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カオス・イン・ザ・ボックス記念SS『満長家、初の回らない寿司屋』

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(2024年7月1日時点)

 本作を投稿して一か月以上経ちましたが、このようなノリと勢い満載な作品であるカオス・イン・ザ・ボックスに非常にたくさんの読者と応援コメントが来ました。今までにない経験で興奮による手の震えが止まりません!

 誠にありがとうございます!!
 今後も面白い物語を書けるよう頑張ります!!

 はい、というわけで記念として、いつかは書こうかなと思ったものの話の展開やタイミングで入れられなかった『満長家、初の回らない寿司屋』を近況ノートという場で公開いたします!

 それでは、どうぞ!



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 僕ら家族は寿司屋に行ったことはあれど、回らない寿司屋に行ったことはない。高級な場所に対する変な先入観とか別に普通の寿司屋でも十分とか、そんなある種高級に対する偏った認識で誰も行ったことがないのだ。

 別に回らない寿司屋だけじゃない。

 高級そうなお店全般に言えることで、僕たち自身にそれほど高級という言葉に関心を抱いていなかったのだ。

 まぁそう考えていたのは僕一人のようで……。

「よし、行くぞ……」
「えぇ……!」
「うん……!」
「行くぞ、行くぞ……!」
「えぇ!」
「うん!」
「行くぞおおおお!!」

「早く行ってよ!!」

 全員着物を着て準備万端だというのに、どうして回らない寿司屋の前で右往左往しているの? もうかれこれ一時間も経っているんだけど!?

「お、大声を出すな千里! 中から怖い人が出たらどうするんだ!?」
「営業妨害で外から怖い人が来ると思うけど」

 大体寿司屋に怖い人がいるわけないでしょ!

 多分!

「でもさお兄ちゃん」
「うん」
「高級だよ、高級」
「だからなに」
「異世界なんだよ!?」
「違うよ!?」

 どうしよう、僕以上に変な認識をしているよ僕の家族。

「そう言うなら先に千里が行きなさいよ」
「え?」
「まぁ一人だけ冷静だからな」
「え?」
「ほらお兄ちゃん行っちゃえ」
「え?」

 お母さんの突然の言葉に僕が矢面に立ってしまった。前方に高級寿司屋の暖簾。後方に僕を監視する虎ども。

 しかし。

「……僕を甘く見て貰ったら困るよ?」
『お?』

 僕は満長家の長男。
 長男は臆さない、長男は頑張れる!

「なっ!?」
「お兄ちゃんが……!?」
「寿司屋の扉に手を!?」

 さぁこれを開けばそこには新世界が広がる!
 僕は他の人とは違うことを証明して見せる!

「……っ!」
『おぉっ!?』

 ……スゥー。

「お兄ちゃんが!?」
「残像を残して私たちの後ろに移動した!?」
「え、阿○羅閃空?」

 僕は顔を赤くしながら家族の視線から逃れるように俯く。

「……」
『ヘタレめ』
「ぐふっ」

 いや、まぁ返す言葉はございませんが……。

「……ここで何してるんです?」
『あ……』

 お店の前で僕らが騒いでいることに気になったのか、店側から人が出てきた。



 ◇



「へぇ、こういう場所で寿司を食べるのが初めてですか。そりゃあこの店を選んでくれて光栄ですねぇ」
『ははは……』

 板前さんの言葉に僕たちは愛想笑いで誤魔化した。まさか家族揃ってこんなバカな行動を他人に見られるとか恥ずかしいというレベルじゃないぞ。

「そう言えば揃って綺麗な服を着ていますねぇ。何かお祝い事があったので?」
「え、あぁいや……こういう場に来るものだからちゃんとした衣装をと思いまして……」

 うん、だから全員着物を着て来たんだ。

 問題は僕と父さんは何故かお母さんたちが勝手に着付けをしてくれたんだけど、なんか髪も結っているし帯の位置も高いしこれぶっちゃけ僕と父さんが着ている着物って女性用――。

「そうですかい! まぁそこまでしなくても私服でも大丈夫でさぁ」
「え、そ、そうですか……?」
「流石に常識のある服装が前提ですけどねぇ」
『……』

 問題ないとはいえ、まるで自分からお上りさんと周囲に示しているような物だ。恥ずかしいというかなんというか死にたい。

「え、えぇと……何を握りやしょう?」
「そ、それじゃあ……玉子で……」

 父さん……初手玉子とか、余計に通ぶりたいお上りさんって思われるんじゃないのこれ。

 因みに僕らは頼んでいない。

 一先ず初めての場所では父さんを先に行かせる人身御供スタイルで行く。それなら先に恥をかくのは父さんだけで、学習した僕たちは恥をかかないという攻防一体の技だ。

「へい、玉子一丁!」

 そうして少し待つと父さんの前に玉子のお寿司が出てきた。

「これが……! 高級寿司屋の玉子……!?」
「オーラが違う!?」
「形がいい!?」
「これが高級寿司屋の力!?」
「いやまだ玉子しか握ってねぇんですが……」

 震える手で玉子を取り、ちょんちょんとネタの方に醤油を付ける。そして父さんは玉子を口に運んで――。



「ふぉおおおおおおお!!!」



「父さんがはだけているように見える!」
「なんか神々しいわよ!?」
「お兄ちゃん、私怖い!」

「あぁ、これが高級……? これが玉子だというのならこれまで食べて来た玉子とはいったい……はぁぁ……光が、見える……!!」

 なんてこったこれが高級の力だというのか。

 僕たちは何も考えていなかった。高級には高級に相応しい格というものがあるというのに、僕たちは普通の物でも十分と思っていた……!

「え、えぇと……他の方も何を握りやしょう……?」
『……っ!』

 高級を知れば、もう僕たちは戻れない。

 だけど僕らは、それでも……!



『ふぉおおおおおおお!!!!!!』

 その日、とある高級寿司屋にて恍惚そうな表情を見せながら着物をはだけたような幻覚を見せる謎の家族がいたという。



「な に こ れ」

2件のコメント

  • いや本当になにこれwww
  • 感想ありがとうございます。
    何って……ただの高級寿司屋で寿司を食べてる家族の風景ですが(すっとぼけ)
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