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【一般公開】学園ラブマックス【学パロ】

「やっばい遅刻遅刻ーッ!!」

 日本の某県、某所で一人の大男が叫ぶ。
 何故なら転校初日に盛大に遅刻したからだ。

 そう、その大男は男子高校生だった。
 見かけによらず学生だったのだ。

 親の転勤によってここ「愛ヶ岳学園」へと転校した彼だが、昨晩新しい学園での生活を楽しみに考えている内に寝坊してしまったのだ。
 そういうわけで今もオリンピックを狙えるぐらいの速度で走り抜けていく彼だが……ここで厄介な事態に遭遇した。

「は、離しなさいよ!!」
「おいおい風紀委員さんよぉ……アンタよくも先公に俺らがタバコを吸ってたことぉチクリやがったなぁ」
「お前のせいで停学処分食らっちまったじゃねぇか!」
「何よアンタたちの自業自得でしょうが!」

 人気のない裏通りにて、一人の女子生徒が複数の不良に囲まれていたのだ。その女子生徒は気丈に振る舞っているが、流石にこの人数相手に危機感を抱いている様子。

「おいおい気を付けろよ? こいつは合気道の大会で優勝したんだからよ」
「だがこの数の暴力じゃあ何も出来ねぇぜ?」
「優勝しても所詮は女だ。俺らの敵じゃねぇ」

 ゲヘヘと下衆な笑みを浮かべる不良たちにその女子生徒は後ずさる。それでも彼女の瞳には諦めの感情はない。最後の最後まで抵抗してやる覚悟で不良たちを睨みつけていた。

 そんな時だ。

「あいや待たれぇい!」
「な、何奴!?」

 学園に向かって爆走していた男が、不良たちの後ろにいた。
 振り返り、ガンをつけようとする不良たちだが……。

「で、デケェ!?」
「肩に重機が乗ってやがる……」
「なんだこの歩く大胸筋……!」

 学生服をピッチピチに着こなす大男という風貌に誰もが唖然とする。

「お前ら……さっきから聞けばとんでもねぇ逆ギレじゃねぇか」
「なんだとお前ぇ!」
「うるせぇ!」
『はいぃ!?』

 大男の一喝に不良たちが縮こまる。
 いや縮こまってどうする。

「くそぅ! まさかこの俺たちが気圧されるだとぉ……!?」
「お前らその人にちょっかいをかけるのはやめるんだ」
「はっ! こいつのせいで俺たちは親に怒られたんだ! 俺たちの親は揃いも揃って怖いんだからよぉ!」
「こいつをシメるまで俺たちは止まらねぇからよぉ」
「それを邪魔するならお前も道ずれだぁ!!」

 それぞれ武器を持って大男へ突撃する。
 正真正銘絶体絶命。如何に屈強な肉体を誇ろうとも、武器持ち複数人の暴行に耐えられる筈もない。
 絡まれていた女子生徒はその事実に血の気が引き、逃げるように言うのだが……。

 しかし。

「え、嘘……」

 勝負は一瞬で終わった。
 それも大男の圧勝だった。

「いてぇ……いてぇよ……」
「これが二頭の新時代か……」
「ザッツアグレート大腿筋……」

 まさに死屍累々。
 それも大男には傷一つ付いてないように見える。

「大丈夫か?」
「え、えぇ……あなたは」
「通りすがりの正義の味方だ!」

 彼女には大男が着ている服に見覚えがあった。

「もしかしてその服……」
「あぁ実は……いややっべ!?」
「あっちょっと!?」
「すまん! 遅刻するから先に行くぜ!」

 まさに風のような人だった。
 一人残された彼女……初恵ヴィエラは目を丸くさせながらも、不良たちを捕まえるために冷静に警察へ通報したのだった。



 今日も走るよ大男。
 だが厄介な事態はまだまだ続いた。

「あの……ごめんなさい。僕急いでいるので……」
「あら〜? そんなこと気にせず私たちと遊んでよぉ〜」

 中性的な顔をした生徒……女子の学生服を着ているから恐らくボーイッシュな女子生徒が複数の派手な女性に囲まれていたのだ。

「あの僕……女なんですけど……」
「でも凄いイケメンじゃん」
「イケメンなら例え女子でも食えるよアタシたち〜」
「や、やだ……誰か助けて……」

 あまりの圧に彼女は涙を浮かべる。
 彼女の人生はいつもそうだ。家族全員美男美女。彼女も例に漏れずとんでもない美貌を持って生まれたのだが中性的だった。見る人が見ればイケメンにも美少女にも見えるそれだが、一人称が僕のためイケメン扱いしてくる始末。

 仕草も王子様っぽいのもそれに拍車をかけていた。

 そんな雰囲気イケメン男子に様々な女性トラブルに遭遇した彼女は今、貞操の危機に陥っていたのだ。

 そんな時である。

「あいや待てれぇい!」
「な、何奴!?」

 突然の大声に派手な女性たちが一斉に振り返る。
 その隙に誰かが絡まれていた女子生徒を女性たちの輪から連れ出したのだ。

「あ、イケメンが!?」
「なぁお姉さんたち……こいつ俺の連れだから離してくれないか?」
「え……あっ」

 突如として自分を女性たちから引き離した大男の姿を見て、その女子生徒の心が弾んだような気がした。

「何よ! アンタの連れだろうがアタシたちが先に目を付けたのよ!」
「いやでもあの筋肉やばくない? チョモランマレベルだわ……」

 大男の言葉を聞いても女性たちは諦めない。
 それを困った様子で見つめる大男だが、突如として何かに閃いた。
 そして彼は、唐突にその女子生徒の肩を抱いたのだ。

「ひゃ、ひゃあ!?」
「こいつ俺の彼女だから、アンタたちに渡したくないんだよな」

 その言葉を聞いて、女性たちの脳裏に凄まじい『尊い』が駆け巡る。

「大男に抱かれるイケメン……だとぉ!」
「薔薇? それともノーマル……? 分からんがたまらん!」
「扉が……! 扉が開いていく……!!」
「なんか分かんないけど逃げるぞ!」
「う、うん!」

 女性たちの突然の変貌に、大男は女子生徒を連れてその場から逃げ出した。

「ふぅ……ここまで来れば追って来れないだろ」
「あ、あの……ありがとう」
「いいってことさ! 助け合いは当然、だろ?」

 そう言って大男はその大きい手のひらで女子生徒の頭をポンポンと優しく叩く。その瞬間、女子生徒の顔が真っ赤に染まった。

「おっと俺は学校に急がなくちゃいけないからまたな!」
「あ、ま、待って!?」

 そう言って駆けていく大男に彼女……愛園ノエルはかつてないほど鼓動する心臓を抑えてずっとその場に立っていた。



 とっとこ走るよ大男。
 それでも事件は起きる物だ。

「うーん……どうしたものかのう」
「どうした?」
「いや飲みたい飲み物が二つあってのう。どれにしようかと……ってぇ!? 誰じゃお主は!?」

 自販機の前で悩んでいた少女……いや幼女? が突然の大男の登場に後ずさるも自販機にぶつかって頭を抱える。

「おいおい大丈夫か?」
「いや、大丈夫じゃ……」

 これはもしや貞操の危機なのでは? と考えた彼女は必殺の防犯ブザーを引くべきかと悩む。しかしこれを使えば己を幼女と認めることになるため、大男を前に葛藤をしてしまう。

 と、そこに。

「ほらこれやるよ」
「へ? これ……お金?」
「どれか悩んだなら二つ買えばいいだろ?」
「な、なるほど……天才か?」
「それじゃあ俺は急ぐんで、じゃな!」
「お、おう……」

 そう言って大男は彼女から離れていった。
 そして彼女……東雲ノンナは一人ポツンと自販機の前で立ちながら暫くすると叫んだ。

「いやワシの出会いシーンこれだけぇ!?」



 いつまでも走るよ大男。
 しかしここで特大の事件が起きた。

「あ、危ない!」

 前方で一人の少女が暴走した一台の車、鉄骨の大量落下、局所的に発生した隕石に襲われている光景が見えたのだ。まさに確殺異世界転生コースだった。

「間に合え……!!」

 瞬時に速度を上げ、先ずはその少女のところへ辿り着く。
 彼女を抱え、隕石直撃コースから外れるように跳躍。
 大量の鉄骨を足場として使い、次に狙うのは車で叫んでいる運転手だ。
 車に向かって飛ぶと助手席側の窓を突き破り、運転手のシートベルトを手で引き千切りながら、運転手も抱え、運転席側の窓から飛び出す。

 この間僅か三秒の出来事だった。

「大丈夫か?」
「え、一体何が……」
「え!? あれ!? 私は今車の中にいて……!?」

 少女も、運転手も助かったがいまいち現実味がない状況に困惑していた。

「あなたが助けてくれたの……?」
「いやぁ本当に危なかったぜ!」
「いやそもそもあの状況でどうやって私たちを助けたのだ……?」

 運転手の話はごもっともである。
 まるでこの大男だけが別世界の住人のようだ。

「それじゃあもう遅刻するから行くぜ!」
「待って! ……行っちゃった。でもあの人どこかで……」

 去っていく大男に向かって手を伸ばす彼女……神崎サラは、どこか彼に対する既視感を抱きながら自分も学校へ向かった。



 ◇



「えぇというわけで転校生を紹介するんじゃが……遅刻してるのう」

 愛ヶ岳学園二年三組。
 そこの教室を担当している教師カラク先生がそう呟く。その教室の中には初恵ヴィエラ、愛園ノエル、東雲ノンナ、神崎サラもいた。

 そんな時である。

「すんません! 途中で銀行強盗、迷子の捜索、通り魔撃退、火災現場での救助とかして遅れましたぁ!!」
「いや人助け多すぎぃ!? この短時間でスーパーマン並みの救助をしてるぞお主ぃ!?」

 カラク先生のツッコミを受けながら、ドアをバンッと開き教室に入ってくる一人の大男。その姿を見て、助けられた四人が立ち上がって声を上げる。

『あ、あなたは!?』
「お!? なんだここの生徒だったのか!」

 彼は黒板に大きく名前を書く。
 そこに書かれていたのは……。

「俺の名前は空駆ノルド!! お前ら、よろしくな!」

 こうして一人の転校生を中心に大波乱の学園生活が始まろうとしていた。





 つづ……くと思う?

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