恋する暇などありませんの人気投票をします。
グーグルフォームのアンケートなので、面倒かもしれませんが、よろしければご投票願います。
本当は100話記念にやるはずだった……ひと月以上経ってからやる間抜けですみません。(恋暇の欄外にもリンクがありますが同じものです)
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https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdOy-7YQoM5rFi4ZFn4h-gocUL1trqp82kqWSB4JKMu1S9lBg/viewform?usp=sf_link 後半はナーザント視点のSSになります。
こちら、前回と今回の間の話です。
今日のネタバレはないので、本日の更新前に読んでいただいてもかまいません。
少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
『義理の妹』
ルーク・マクゼガルド公子は何をやっても完璧な人間だ。
文武両道。魔力も高い。容姿も端麗。
氷の貴公子と呼ばれていて、一見、冷ややかな人間に見えるが、実際はかなり情に脆いところがある。
そして、負けず嫌いだ。
昨年、本人は嫌々出た剣術トーナメントで、私に負けたことが相当に悔しかったのか、今年は立候補したらしい。
訓練も見えないところで相当積んだようだ。
本気になったルークには、とても勝てる気がしないけれど──。
「もちろん、応援しますよ、ナーザントさま」
可愛らしく、私を応援する義妹の姿に、思わずムッとするルークの姿は笑えた。
いつもは自信たっぷりなルークが、アリサの前では余裕をなくしている。
「ふふっ、思った以上の応援になったかもですね」
そう言うと、さらにルークは私をじとりと睨む。
まったくもって、らしくない。最近は、もう、アリサに向ける感情を隠そうともしなくなった。
早々に義理の兄妹の座を選択して良かったと思う。
ルークは良き友であり、将来的にも良き関係を結んでいかなければならない相手だ。
胸の奥に育ちつつあった感情は最初を間違えた私には許されるものではなく、そして、得られるはずのないものだった。
義兄という立場で、彼女を守れるなら。そして、侯爵家の名前が彼女の幸せを後押しできるのなら、それだけで満足だ。
ただ。形式上、彼女が私の方を応援しなければならないというのは、なんだか少しだけ嬉しい。
アリサ達が観客席に戻っていったあとも、ルークはまだ不服そうだった。
「心、狭すぎませんか?」
「うるさいぞ」
ルークは口を尖らせたままだ。
「そんなに応援してほしければ、正直に頼まれてはいかがですか?」
「アリサが義兄を応援するのは当たり前だ」
言葉ではそう言いながらも、納得はしていないのだろう。いや、感情が追い付いていないのか。
「氷の貴公子とも思えませんね」
どんな女性に言い寄られても、全く相手にしなかったルークが、たかだか体育祭で応援してもらえないことくらいで拗ねるとか、ちょっと信じられない。
もっとも。
ルークが応援を頼んだとしたら、アリサは私とルークの間で葛藤するだろう。
それは義務と感情での葛藤。
アリサはおそらくまだ自分の気持ちに気づいていない。
ひょっとしたら、今なら、義務である私が勝てる可能性がある──そんなことを考えていた時、大地が揺れ、大気がぐらりと歪んだ。
「これは──」
「嫌な感じだ」
ルークと私は顔を見合わせる。
ただの地震ではない。
「どうします?」
「情報を集める必要があるが……とりあえず、外に出よう」
私達は控室を出た。
体育祭の執行部に向かう途中で、教師に会場から動かないでほしいと告げられた。
私はともかく、ルークは公子だ。非常時に動かれては警護に困るということだろう。
剣術トーナメント会場には、皇太子も皇妃もいて、未来の皇太子妃もいる。できればまとまっていてほしいと思うのは当然かもしれない。
ひょっとしたら、警護対象というよりは、私もルークも、戦力として当てにされている可能性もある。
「あれは?」
観客席に向かおうとしたその時、上空に魔物が見えた。
それはまっしぐらに貴賓席の方へと降りてくる。悲鳴がおこった。
「アリサ!」
突然、ルークが走り出した。
何が起こっているのか状況が全く見えない。
見えないが、私もルークの背を追う。
私とルークが持っている『剣』は試合用の模造刀で、魔物を倒すのは難しい。
だが、そんなことを考えている余裕はなかった。
観客席の入り口につくと、熱風が私達を襲う。
肌がちりちりと焼けるように痛い。呼吸するのも苦しいほどだ。
目に入ったのは、肩から血を流して倒れているアリサの姿。
「氷雪!」
ルークの呪文が完成すると、辺りの熱気が一気に冷やされて、息が楽になる。
「エリザベス、アリサを」
ルークはエリザベスに指示し、魔物の前に立つ。
アリサの状態が気になったが、目の前の魔物が大きく咆哮し、腹にかみついていた使役精霊をつかんで放り投げた。
「レイノルド、剣を!」
皇妃の衛兵隊の、リックが私に剣を投げてよこした。
リックは、剣術部の先輩だ。
とはいえ。旧交を温めている場合ではない。
魔物は再び宙に上がり、まっすぐにアリサとエリザベスに向かおうとする。
普通、魔物は目の前の敵をスルーして獲物を狙ったりはしない。
こいつは、使役されている。
狙っているのは、エリザベスか、それともアリサか。
とはいえ、空中の敵は厄介だ。
「氷結」
ルークだ。
奴の羽が凍り付き、地面にたたきつけられた。
「氷の剣だ! 奴は明らかに氷に弱い」
ルークに言われ、私は剣に氷の魔術をのせる。
私の加護は『大地』。とはいえ、他の魔術が使えないわけでもない。
ルークやアリサと比べれば、見劣りしてしまうが、魔術にも自信がある。
私はリックと連携しつつ、魔物の間合いに飛び込む。
身体に傷を受け、奴は、咆哮をあげ、熱風を吹かせた。
「氷の嵐!」
ルークの長い詠唱が終わり、辺りにブリザードが吹く。
荒れ狂う氷の礫は奴の作った熱の風を圧倒する。
「今だ」
私とリックの剣が奴の躰を切り裂くと、辺りに断末魔の絶叫が轟き渡った。