「鉄槌のレティシア」第1話を修正しました。
大幅にシリアス寄りにしたので、元のコメディ風なのも残したいと思い、こちらにアップしました。
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「食い込みパンツの呪いです」
目の前のメイドが放った一言を、私はすぐには理解できなかった。
「……今、何と言いましたの?」
銀髪ボブのメイド。
名前はリゼ。
彼女は、表情一つ変えずに答えた。
「ですから、レティシアお嬢様に呪いをかけました」
「呪い?」
「はい」
「私に?」
「はい」
あまりにも平然と言うので、逆に聞き間違いかと思った。
「どのような呪いか、もう一度聞いても?」
少しの沈黙。
馬車の音が聞こえてきた。
屋敷の近くを走っているのだろう。
そして彼女は、信じられない言葉を口にした。
「食い込みパンツの呪いです」
「……」
「……」
「もう一度お願いしますわ」
「食い込みパンツの呪いです」
「なぜそんなものを……!?」
「お嬢様が、メイド達をいじめたからです」
私は小さく息を吐いた。
呪い。
それはこの世界に蔓延っている災い。
「この国でも、呪いに苦しむ人は多いと聞きますわ。……だけど食い込みパンツだなんて」
目の前のメイドは、ただ静かに私を見ている。
「仮に、そんなふざけた呪いが存在するとして……」
私は扇を閉じた。
「あなたの様なただのメイドが、そんなものを扱えるとは、到底思えませんわ」
「そうですか」
リゼは短く答えた。
「では、試してみましょう」
「……?」
リゼは、パチンと指を鳴らした。
次の瞬間。
「っ……!」
下半身に妙な違和感が走った。
「な、何……?」
ほ、本当に、下着が食い込んで来た。
「まさか……」
「発動しました」
「う、嘘でしょう!?」
「食い込みパンツの呪いです」
「な、何よこれ……!」
私は顔を赤くしながら叫んだ。
「あなた、ふざけているの!?」
「いいえ」
リゼは真顔だった。
「い、今すぐこの呪いを解きなさい!」
リゼは無言のまま、私のすぐ隣まで歩み寄った。
「お嬢様、失礼ながら……」
「な、何よ!?」
「それが、人に物を頼む態度でしょうか」
「あなた、何言って……うっ、ぁあ」
パンツがさらに食い込んで来る。
「まぁ、はしたない声。お嬢様はとても淑女とは思えませんね」
「………っ!」
リゼは私の顎を指で掴み、真っすぐにこっちを見つめる。
端正な顔立ち。
吸い込まれそうな瞳。
女の私でもドキッとしてしまう。
「の、呪いを解いて……」
「出来ませんね」
「リゼ、……お願い」
「出来ません」
「……リゼさん、どうか呪いを解いて下さい」
「出来ませんが」
「……」
「……」
ど、どうすればいいのよ!
これ以上何を言えば……
「……リ、リゼさん、メイド達をいじめて申し訳ありませんでした。どうか……」
「やれば出来る娘ですね」
リゼは、子供を慈しむように私の髪を撫でる。
「呪いを解く方法は、一つだけあります」
「あるの!?」
「はい」
「早く言いなさい!」
「全裸で恥ずかしいダンスをすれば、解けます」
「……ぜ、全裸!?」
「嘘です」
「嘘!?」
何という屈辱だろうか。
名門ヴァルグレン家の令嬢、レティシアに向かってこの尊大な態度。
「まさか、あなたが呪能者だったなんて」
「メイドたる者、呪術くらいの嗜みは必要かと」
「必要じゃないわよ!あなた頭おかしいんじゃないの!」
リゼは、微笑を浮かべて言った。
「それは誠に遺憾です」
――こんな屈辱、人生で初めてだった。
だが、その時の私は知らなかった。
このふざけた呪いが、私の人生を大きく変えるきっかけになることを。
そして。
後に、私が数々の理不尽に『鉄槌』を下すことになるとは。
「……この呪い、解けないの?」
「本当は解けます」
「う、嘘じゃないでしょうね?」
「ダンジョンの最奥に、解呪の鍵があります」
「……は?」
ダンジョンという、リゼの言葉に私は呆然としてしまった。
ダンジョン。
それは、呪獣と呼ばれる化け物が住み着く場所と聞く。
「それと、食い込みパンツの呪いは、大きく変化していきます」
「変化……??」
「はい。どんな変化をしていくかは分かりませんが、最後に待っているのは、死です。」
「──私、死ぬのぉぉぉ!?」
私はつい叫んでしまった。
だけど、またリゼが嘘を付いてるのかもしれない。
「……リゼ、呪いで死ぬとか、ダンジョンとか、……全部嘘よね?」
「全部本当です」
「……嘘よ」
「残念ながら、本当に本当です」
「そんなぁぁぁ!」
なぜ、私がこんな目に……。
「ダンジョンの最奥で解呪しなければ、お嬢様はいずれ死亡します。しかし……」
「しかし、……何ですの?」
「今は呪いやダンジョンより、午後からの社交会かと……」
私はリゼの言葉に、血の気が引いていった。
「……わ、忘れてましたわ……どうしましょう!?」
「確か今日は……」
「婚約者のカール様が、改めてプロポーズして下さるかもしれない日……!!」
「パンツを食い込ませたまま、行くしかありません」
「い、嫌すぎる……!!」
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人生最大の晴れ舞台。
私達は、社交会へ向かう馬車へ乗り込んだ。
馬車がゆっくりと走り出す。
「ちなみに、お嬢様」
「……何ですの?」
リゼは窓の外を眺めたまま、淡々と言った。
その横顔は、いつもの飄々とした様子とは、どこか違って見えた。
「今日の社交会で、お嬢様は婚約破棄されると思います」
「……え?」
「その後、ヴァルグレン家は爵位剥奪。お嬢様は追放されるでしょう」
「…………は?」
「根拠はあります」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! どういうこと!?」
馬車は止まらない。
私の人生もまた、もう後戻りはできなかった。
その日を境に――私は、名門令嬢から『悪名高き令嬢』として、王国中に知れ渡る事になる。