俺の通っていた中学は、いわゆるマンモス校だった。生徒数が多いだけじゃない。全国誌のヤン〇ー雑誌に名前が載るほどで、卒業生の中には本当にそっちの道へ行ったやつも何人かいる、そんな学校だった。
三年になったある日の昼休み。変形した学ランを着て、廊下で仲間と他愛もない話をしていた時だった。
外が、やけに騒がしい。
窓際に寄って覗くと、校門の前に単車が乱暴に止められていた。エンジンは切られているが、まだ熱を持っているのが遠目にも分かる。
跨っていた二人組のヤンキーは、そのまま校門を睨みつけ、腹の底から声を張り上げた。
「ここにいる頭(アタマ)を出せ!!」
一瞬、廊下の空気が凍りついた。まるで漫画みたいな展開だ。いや、漫画よりもタチが悪い。現実のヤンキーはページをめくらせてくれない。
俺達は顔を見合わせた。
「……頭やおらんよな?」
「おったらこんな平和な昼休みにはならんな」
じわじわくる笑いを噛み殺しながら、小声でそんなことを言い合う。だが、外の二人は一向に帰る気配がない。
校門の前で腕を組み、じっとこちらを睨んでいる。その目は、本気だった。
このままセンコウが出てくるのを待つか?
それとも、誰かが行くか?
そんな空気の中で、ふと誰かが思い出したように言った。
「……○○、どうする?」
その名前が出た瞬間、俺達の中で一つの考えが繋がった。
○○。
顔が怖いことで有名なやつだ。他校ではなぜか話が一人歩きしていて、
「あの学校の頭は○○だ」「あいつに逆らうとヤバい」という噂が勝手に広まっている。実際は、喧嘩が強くない。ただ、黙って立っているだけで相手を黙らせる、そんな顔をしているだけなのだ。
「……出すか」
「やな」
「顔だけでいける」
作戦は、決まった。
ほどなくして、○○が呼ばれてきた。事情を説明すると、少しだけ眉をひそめたが、意外にもあっさり頷いた。眉が寄ったその顔は写真に写る時のお決まりの顔に極似。
「……立っとったらいいんよな?」
それだけ言って、学ランの襟を直す。
校門に向かう廊下。俺達は少し離れたところから、その背中を見送った。歩き方はいつもと変わらない。ただ、なぜかその背中はやけに大きく見えた。気がした。(笑いを皆で我慢している)