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四刀流の最強配信者SS その③

最強配信者、初めてのFPSで無双する


 私、東雲玲奈の日課はハヤテの配信をチェックすること。
 今日も彼はファーラムワールドオンライン──通称FWOってゲームの攻略配信をするんだろうなって思ってた。私はいつもそれを楽しみにしてたの。

「今日は学校の友人に誘われたんで、今話題の『APEZ』ってFPSをやってきまーす!」

 なんだ、FWOじゃないのか……。
 ちょっと残念。

 私はAPEZをやったことないけど、知り合いの女性配信者さんがプレイしているのを配信サイトでよく見ていた。だからどういうゲームなのかは知っている。

「えーっと、APEZは3人1組のチームで戦うバトルロイヤル形式のFPSです。総勢54名のプレイヤーがひとつのマップに降り立ち、拾った武器やアイテムを駆使して戦うゲームですね」

 ゲームの紹介ウィキをそのまま読んでる。
 ほんとにハヤテ、やったことないんだ。

 いつもFWOで無双するハヤテがかっこよくて彼の配信を見ているけど、今日はいつもと違う彼を見ることができそうな気がする。そう思うとワクワクしてきた。たまにはありだね。

 配信のコメント欄でも、私と同じことを思っている視聴者がたくさんいた。

〈APEZでも無双してくれ!〉
〈いや、流石にきびしーだろ〉
〈事前準備が出来るFWOと、武器漁りが必要なAPEZは勝手が違うぞ〉
〈どんな感じになるかめっちゃ楽しみwww〉

 FWOはモンスターを倒してゲットした素材で装備を強化して、高難易度のダンジョンに挑んでいくゲーム。それに対してAPEZは毎回のマッチで武器や装備がリセットされる。この辺りのシステムの違いでハヤテが焦る姿が見えそう。

 マッチが始まった。

「ジャンプマスター? なにこれ、俺がどこに行くか決める感じ?」

 ハヤテのお友達は配信に声が入らない設定にしてるみたい。
 さっそくハヤテが戸惑ってる。

「とりあえずこっちかな」

 敵がいない場所に向かって飛んでいく。最低速度で。
 その飛び方じゃ、遠くまで飛べないよ?
 ハヤテはなんとか物資のある場所までやって来た。
 それで武器を探し始めたんだけど……。

〈動きが素人感マックスwwwww〉
〈ずっとキョロキョロしとるww〉
〈そのボックスあけるんだよー!〉

「ボックス? あ、これ?」

〈ハヤテはそのアタッチメントを取っても意味ないぞ〉
〈サブマシンガンを装備したか。瞬間制圧力は高い武器だ〉
〈中距離だと反動がかなりキツいから注意な〉

「そうなんだ。やっぱ訓練場って所で練習すべきだよね。友達がすぐマッチ行こうって言うから」

 あたふたしているのが配信で見ていても分かる。こーゆーのは新鮮で、可愛い。
 その時、ハヤテの配信から敵が接近してくる音が聞こえた。

〈敵が来てるぞ!!〉
〈やばっ、味方が遠い!〉
〈これは逃げた方がいいかも〉

 ハヤテがひとりでいるところに敵が来ちゃったみたい。

「え、敵? 足音は聞こえるけど……。これ味方のじゃないの?」

 キョロキョロしてる。動きがすっごく可愛い。
 ちなみにAPEZは敵の足音が良く聞こえて、味方の足音は聞こえにくい仕様なの。

〈マップ見ろよ! 味方いないだろ!!〉
〈やばいやばい、近いぞ〉
〈武器を構えとけ〉

「武器を構える……。これかな?」

 足音のする方にハヤテがサブマシンガンの銃口を向ける。
 遮蔽から敵が出てきた。
 その敵の装備スキンから、課金勢だっていうのが分かる。しかも倒した敵の累計数で進化していくタイプ。この敵、初心者のハヤテじゃ絶対勝てない──そう思った。
 ハヤテがサブマシンガンを連射して、その弾は敵に吸い込まれるように全弾命中した。

「おぉ。倒せた、のかな?」

 ちょっと待ってよ、嘘でしょ。
 敵まで10メートルは離れてたんだけど。

〈──は?〉
〈サブマシンガンであの距離を全弾命中、だと?〉
〈いやいやいや、リコイル制御上手すぎぃぃぃ!!〉

 ほら。コメント欄でもみんな驚いてる。

「あっ、また足音。たぶんこっちかな」

 今度はハヤテが前に攻めていく。
 3人1チームだから、敵はまだふたりいるはず。

「おっと。あぶね」

 遮蔽から出ようとしたところで敵が撃ってきたのをハヤテが回避した。
 反射神経が良すぎる。
 そのままダッシュもせず、テクテク歩いて敵の前に出ていく。

〈散歩か!?〉
〈普通に歩いて出てくなよw〉
〈動きが素人すぎるwwww〉

「いた! くらえぇー!!」

 ハヤテが放った弾はまたも全弾命中し、あっという間に倒れる二人目の敵。

〈ワンマガジンで確実に倒しとるw〉
〈強過ぎww〉
〈なんでコイツ弾を外さないんだよ〉
〈今のうちにリロードしときな。まだ敵ひとりのこってるぞ〉

「はーい。リロードね。アドバイスありがと。ちなみにリコイル制御はFWOの銃火器と似た感じだから割となんとかなりますね」

 コメント欄を見る余裕もある。
 ハヤテ、ほんとにこのゲーム初心者?

「あ、あれ? なんか身体が……。動きが遅い」

 敵がアビリティスキルを使って来た。ハヤテの動きにデバフがかかってる。

〈ヤバい! スローエリアだ〉
〈移動しないと不利だぞ!〉
〈緑のエリアから逃げろ。ハヤテもスキル使え!〉

 ハヤテはアンカーが付いたワイヤーを飛ばして、高速移動が出来るキャラを使用している。そのスキルを使えば簡単にこの場から離脱できるはず。

「スキルは、これか!」

 アンカーが飛んで、近くの壁に当たった。その壁に引き寄せられるハヤテ。全く移動できてない。

〈え、えっと……〉
〈コイツ、リコイル制御以外が下手すぎるwww〉
〈もうこのまま戦っちゃえよww〉

「うおっ。敵だ!」

 動きがスローになっているハヤテの前に三人目の敵が現れた。
 でもハヤテは足音でその位置を掴んでいたみたい。遮蔽から飛び出した敵の頭部に照準があっている。敵がどこから来るのか、完全に見えているみたいだった。

〈全弾ヘッドショット!?〉
〈だからエイムが良過ぎなんだって!〉
〈あの、ほんとにこのゲーム初心者ですか?〉

 ハヤテは味方の援護を受けず、猛者っぽいチームをひとりで倒してしまった。
 でも彼の伝説は、それだけじゃ終わらなかったの。


 ハヤテはこの後、敵を12人も倒した。近距離で1対1をした時は一度も弾を外してない。敵の足音をしっかり聞いて、撃つタイミングと身を引くタイミングが完璧だった。

 倒した敵からアイテムを奪ったりするのはずっとモタモタしてたけどね。

 残りはハヤテたちを含めて3チーム。
 このままいけば、初プレイでいきなりチャンピオンって偉業を達成できるかもしれない。私だけじゃなく、他の視聴者のみんなもそう思っていた。

 だけど──

「あれ? なんかゲームから強制ログアウトされちゃった」

 彼はAPEZの運営にアカウントの一時停止、つまりBANされたの。
 初心者装備スキンで、キャラアイコンとかバナーも初期のまま。そんなハヤテが弾を当てすぎた。だから対戦相手にチート使用疑惑で通報されちゃったんだろうね。

 もちろん私は、ハヤテがチートなんて使わないって信じているよ。

 10分ぐらいで彼のBANは解除された。
 彼の無実が運営さんに認められたってこと。

 そしてその日、ハヤテ関連の掲示板はかなり盛り上がりを見せる。最も書き込みと閲覧数の多かったスレのタイトルは『四刀流の最強配信者、FPS初プレイで無双しすぎて誤BANされる』だった。

 面白過ぎるよ。
 次は何を見せてくれるのかな?

 明日も楽しみにしてるね、ハヤテ。

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