いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は更新お休み報告を兼ねて、普段書き方のお手本にしている私の好きなライトノベルを紹介しようと思います。
今回紹介するのは電撃文庫の「イリヤの空 UFOの夏」という小説です。
ざっくりとあらすじ:夏休みの最後、学校のプールに忍び込んだ際に不思議な少女に出会った主人公。自身が通う中学へと転校してきたミステリアスな彼女と共に過ごすうちに、主人公は少女と世界を取り巻く状況に気づいていくことになる。
簡単に言ってしまうと「SFセカイ系小説」です。「最終兵器彼女」とかを想像してもらうと分かりやすいかもしれません。主人公「浅羽」が、転校してきた少女「伊里野」と共に過ごすうちに色々なことに巻き込まれ、ヒロインを取り巻く現状に徐々に近づいていくっていう。
浅羽が過ごす園原市はどこにでもある平凡そうな田舎の描写がされています。車社会で、居酒屋にも駐車場があるような、交通インフラがちょっと不便な田舎。
しかしそんな園原市には巨大な自衛隊の基地が存在し、浅羽の通う中学にも避難用のシェルターがあったり、空襲警報時の避難訓練があったりと、どこかものものしい雰囲気が漂います。
この「ちょっとおかしいな、普通じゃないな」と感じるところから秘密に近づいていくSFのドキドキがたまらないんですよね。
もちろんこの作品の魅力はそれだけでなく、個性的すぎるキャラクターが織りなす人間関係やその変化、ラブコメや園原中学の愉快すぎる日常風景など色々あるのですが、私はこのドキドキ感でかなり作品に引き込まれました。「この学校や町はどうなっちゃうんだろう」ってページをめくるたびにワクワクします。
そして、そんなワクワクドキドキ感、物語の没入感を高めているのが「読んでいるだけで面白い、この作品特有の細かな人物、情景描写」だと私は思ってます。
ここで私が好きな部分から引用して、文章を紹介します。
「ふたつの器が、どかり、とテーブルに置かれた。
鉄人中華丼である。
異常である。
おかしい。間違っている。普通、中華丼に入っているとすればそれはウズラの卵であって、断じてニワトリの卵がゴロゴロと入っていてはならないはずである。器はまさに洗面器の如しであり、その上にどっかりと鎮座するメシの山は食い物というよりむしろ活火山のジオラマを思わせ、マグマの如き灼熱の餡の中で具が身をよじっているその様からは得体の知れぬ悪意すら感じる。なぜ人は戦うのか、なぜ人は憎しみ合うのか、といったことを考えたくなる光景であった。」
(秋山瑞人 『イリヤの空、UFOの夏 その3』 電撃文庫 2002 65ページ3行目より引用)
はい。
これ、中華丼の描写です。
分かるでしょう。とんでもないことになってますね。中華丼だけなんですよ。
はいこの部分を読んで面白いと感じたそこのあなた。このページ閉じて即刻読みましょう。面白いから。
とにかくね、もう、細かい。しかもくどくない。面白い。
凄いんですよマジで。情報量が多いはずなのにすらっすら頭に入ってきて、情景が自然と浮かぶし登場人物は動いているしで頭の中映画館状態。
SFの敬遠されがちなところって、専門用語や複雑な世界観などの「なんか難しそう」なところの気がしてるんですが、この小説のすごいところはもちろんそういう用語もあるけど「面白く読めてしまう」とこだと私は思ってます。
主人公の浅羽が中学生なので「分からない状態」を読者と共有してくれるのも大きいところですが、状況や用語への細かな描写があるおかげでとにかく頭に入ってきます。「あ、今ここがこうなってるんだな」って分かります。
舞台が異世界で侯爵伯爵侯爵夫人伯爵夫人の名前が続いた瞬間、初めに紹介された侯爵の名前を忘れる私がです。好みの問題もきっと関係していますが、それを差し引いても分かりやすい。すごいんです。
長々と書いてしまいましたが、それだけ「イリヤの空、UFOの夏」を私が好きだということを、そしてこの作品の面白さを少しでも知っていただければ幸いです。中々近づくことは出来ませんが、こんな面白い小説を私も書きたいな、と思いながら日々精進しております。
ちなみに、「イリヤの空、UFOの夏」は全4巻。大変読みやすく揃えやすく面白いので、このノートを読んで少しでも興味が沸いた方はぜひ読んで、そして一緒に展開で悶えましょう。