第1章では、患者の身体はほとんど変わっていません。
足は動かないままですし、
手も思い通りにはなりません。
箱を数センチ動かしたこと。
キーボードをゆっくり押したこと。
退院後の予定をひとつ決めたこと。
それだけです。
けれど、この章で私が書きたかったのは、
患者の回復というより、
作業療法士・宮本の立ち位置でした。
宮本は、励ましません。
安易に希望も提示しません。
「大丈夫」とも言いません。
できることと、できないことを、
そのまま確認します。
そして、急がせません。
医療の現場では、
良かれと思って未来を先回りしてしまうことがあります。
止めたほうがいいと感じることもあります。
それでも、最後に決めるのは本人です。
宮本は治す人ではなく、
「決める瞬間に立ち会う人」として描いています。
つかめない手であっても、何をつかもうとするのか。
第1章は、その時間を書きました。
これからも宮本の物語は静かに続きます。