主人公が異世界に行く流れが公開版とはかなり違っています。
正直、自殺はちょっと話が重いかなって思って、階段を踏み外すのに変えました。
かなたん、人が死ぬのあんま好きじゃないから……🥺
あとソシャゲの名前も微妙に違ってますね。
アリエッタに二つ名がなくてただの姫騎士だったり、主人公の家がお金持ちだったり、なんかいろいろと懐かしいです(笑)
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「なぁオタクくーん? オタクくんってさ? 『ゴッド・オブ・ブレイブヒーロー』やってんの?」
昼休み。
高校に入学してすぐにボッチになった陰キャの俺が、いつものように一人でスマホゲーを周回していると、突然クラスのカースト最上位の陽キャに声をかけられた。
池谷涼介。
サッカー部の1年生レギュラーで、親は大臣経験もある有名な国会議員だ。
金髪でチャラくて女好きで、入学してからずっとこのクラスのボスとして君臨している。
「え、あ、うん」
そんな、俺とは正反対の陽キャから、急に馴れ馴れしく話しかけられて、俺は内心おどおどしていた。
「結構やり込んでんの? ちょい見せてみろよ」
「あ、ちょっと――」
「うわ、すっげ!? 上位職の神騎士でレベル99じゃん! これカンストって言うんだろ?」
「このゲームはオープンβの時から結構やり込んでるから」
「おーぷんべーた? なんだそれ?」
「正式スタート前の限定テストプレイのことだよ」
「ふーん、ま、いいや。実はオレさ、今狙ってる女がそういうの好きなちょっとオタク系の子みたいでさ。その子と話を合わせるために、このゲームやりたいんだよな」
「はぁ……」
だから俺に教えて欲しいってことだろうか?
正直気は進まないけど、こいつに逆らってもいいことはない。
どうせアイテムもせびられるだろうから、攻略に便利なのといくつかレアなのを上げて機嫌を取るか……。
――なんて俺の考えは、悪い意味で裏切られた。
「だからオタクくんのアカウント売ってくんないかな? 千円で」
「せ、千円って、それはちょっと無理だよ」
オープンβからもう何年もやり込んでいるゲームアカウントを、たった1000円で売れなんてあまりにも非常識すぎる。
そもそもこのゲームでは、アカウントの売買が禁止されている。
見つかったら容赦なく垢バンだ。
しかし。
「あ? 今なんつった? もしかして無理っつった?」
「あ、えっと……その……」
池谷に凄まれた俺は、慌てて言い訳の言葉を探そうとする。
しかし俺が何かを言う前に、池谷が口を開いた。
「あのさ? このオレがわざわざボッチのお前なんかに、頭を下げてやってんだぜ? なのにお前、断んの? なぁ?」
「だ、だって……」
「ボッチ陰キャのお前のゴミみたいなアカウントを、この俺が有意義に使ってやろうって言ってるんだぜ? むしろ光栄に思えよ」
「だけど千円だなんて……」
サービス開始前から始め、今に至るまでひたすら時間とお小遣いをつぎ込んできたこのアカウントは、もはや俺の分身。
いやリアル人生が死んでる俺にとっては、人生そのものと言ってもいい。
それを千円で売れだなんて、到底承服できるものではなかった。
しかしそんな俺の「常識」は、クラスを支配する池谷には通用しない。
「あぁ? 陰キャオタクの分際でオレに逆らう気かよ? とっととアカウントを譲れやボケ! ほら、IDとパスを教えろや!」
胸ぐらをつかまれそうになった俺は反射的に池谷を突き飛ばすと、その隙に席から立ち上がって一目散に逃げ出した。
「ぁ……」
しまったと思った時にはもう遅かった。
「てめ、くそっ! やりやがったな! いい度胸しやがって!」
「――っ!」
「おいこら待てや! ぶっ殺してやる!」
尻餅をついた池谷が顔を真っ赤にして怒声を放ってくるが、もちろん待ったりはしない。
俺は一目散に屋上へと逃げ出していた。
「はぁ、はぁ……くそぅ、やっちまった……」
しかし屋上についてすぐに猛烈な後悔が押し寄せてきた。
池谷に歯向かってしまった。
明日から俺は、池谷を中心としたカースト最上位グループに酷い目にあわされるだろう。
『ゴッド・オブ・ブレイブヒーロー』のアカウントも奪われる。
俺の意思なんて関係ない。
自分たちが常に正しい。
彼らはそういう人種だから。
事実、入学して早々池谷に逆らった生徒が一人、散々虐め抜かれた末にゴールデンウィーク明けには不登校になっていた。
今度は俺がその対象になる。
「『ゴッド・オブ・ブレイブヒーロー』は俺にとってはリアルよりも価値がある、もう一つの人生なのに――」
それを奪われるのは、俺にとってもはや死と同じだった。
「だったらもういっそのこと死んでしまうか……」
正直この世界に未練なんてない。
数年前に事業で大成功してからは外で何人も愛人を作って、まったく家に寄り付かなくなった父。
顔を見たのは何年前だろうか。
そんな父への腹いせに、大金をホストにつぎ込んで遊び歩く母。
ろくに両親の帰ってこないがらんとした家で、生活費という名で多額のお金だけを渡されて、それで何をするでもなく一人でスマホをポチポチするしか取り柄のない、学校カースト最底辺の自分。
しかもよりにもよって池谷に目を付けられてしまった。
「もういいよ。こんな世界に未練なんてない。一緒に死のうアリエッタ」
俺はスマホで 『ゴッド・オブ・ブレイブヒーロー』を立ち上げると、お気に入りのパートナー美少女キャラ『姫騎士アリエッタ』のステータス画面を開いた。
燃えるような真紅の髪。
勝気で凛々しい表情。
俺はオープンベータでアリエッタに一目惚れして、主人公のパートナーキャラに彼女を選んだ。
最初は外見だけで好きになった。
だけど俺は、派手な言動とは裏腹に地道な努力家で、何に対しても真面目で、純情な乙女心を持っていて、天才の姉に大きなコンプレックスを抱きながら一生懸命に頑張り続ける誇り高き姫騎士アリエッタを知るにつれて、どんどんと好きになっていったのだ。
そんな最愛の女の子の姿を、しっかりと目に焼き付けてから――俺はスマホを抱いて屋上から飛び下りた。
加賀谷裕太(かがや・ゆうた)、享年16歳。
誰からも必要とされない、俺のゴミみたいな人生は、そこで終わるはずだった――
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ボッチ陰キャな俺がソシャゲ世界に転移したら、姫騎士学園で俺だけ男!? しかも最高位職のLv99神騎士だったので無双、推しの子(姫騎士)と同棲する。【強くてニューゲーム!】【 異世界リアル推し活! 】
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