現在、「原稿用紙五枚ほどの、ショートストーリーズ」の第一話に「父のロッカー」という短編をアップしています。
この作品は、公募用に書いた作品です。結果はハシボウでしたが、有料の添削サービスがついていたので、添削して貰いました。
お題は「ロッカー」だったので、ロッカーをテーマに書きました。
以下にリライト前の作品と講評を要約した物をアップします。
参考になれば幸いです。
リライト前「父のロッカー」
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父が死んで荷物を整理していたら、鍵が出てきた。
脳溢血で死んだ父。母はすでに亡くなり、独り細々と生きていた父。その父が何の鍵かわからない鍵を残して逝った。
どうせ大した鍵ではないだろうとわからないまま放っていたら、フィットネスクラブから連絡が来た。会費を引き落とせないというので、父が死んだと告げたら、
「斎藤様にお貸ししているロッカーですが、ご遺族の方にお荷物を整理していただきましてご返却いただきたいのですが」と丁寧に言われた。
ロッカーの中身は捨てて貰ってもいいと思ったが、父がフィットネスクラブに通っていたなんて初耳だったし、下着とか残っていたら他人にその世話をさせるのは忍びない。
私はフィットネスクラブが指定した日時に荷物を取りに行った。会社が休みの日に取りに行きたかったのだが、男性ロッカールームに女性が入るのは困るのでクラブが休みの日に来てほしいと言われ仕方なく半休を取った。
クラブのロッカーの前で、鍵穴に鍵を入れようとして躊躇した。
もしかして、隠し財産があったりしたらどうしよう。いやいや、そんな都合のいい話、あるわけない。あるのは恐らく使い古したジャージと運動靴。要するにゴミの回収に来ただけなのだ、会社を半休してまで。死んだ後まで面倒をかける父。腹立たしさがつのる。
私はイライラと鍵穴に鍵を突っ込み扉を開けた。
「え? 何、これ?」
扉の裏に数枚の写真が飾ってあった。父だ。父がタキシードを着て、ドレスを着たケバケバしい女の人と嬉しそうに写っている。
ロッカーの中には白いワイシャツ、その横に黒のタキシードがあった。白の蝶ネクタイがネクタイ掛けにひっかかっている。靴入れには革靴が見える。
「嘘!」
父は風采の上がらない男だった。薄くなった白い髪、前屈みにゆっくりと熊のように歩く。そんな父が、社交ダンス!
そう、これは社交ダンスの衣装だ。父が社交ダンスをやっていたなんて、信じられない。そういえば、このフィットネスクラブ、メニューに社交ダンスと書いてあったっけ。狐につままれた気分だ。
いや、ボーッとしてはいられない。さっさと片付けてしまおう。
私はロッカーに置いてあったガーメントケースに衣装を入れた。靴までちゃんと入る。貼ってあった写真を剥がしてバックに入れる。忘れ物はないかと上の棚の奥を爪先だって見る。奥に何かあった。手が届かない。棚板を前に傾けたら、滑って前に落ちて来た。それを受け止める。ピンクのリボンがかかった小箱だった。箱の大きさからいって、絶対アクセサリー。私は乱暴にリボンを解いて包装紙を破いた。箱を開けたら案の定青いビロードの箱が。
悔しい。そりゃ、お母さんは死んでいないけど、でもでも、娘の私のがいるのよ。私にはアクセサリーなんて買ってくれた事もないのに。それなのに。中身は恐らく指輪かブローチ。誰に買ったのよ。
ビロードの小箱の蓋を開けた。
カードが出て来た。
「愛美(まなみ)へ」
え、私? 私に?
箱の中身はペンダントだった。石だけを留めたシンプルなペンダント。
石は明るい青。ブルトパ?
どうせならダイヤが良かった。売ればお金になる。
カードが床に落ちた。裏に何か書いてある。
「頑張れ、これつけて見返せ」とあった。
え? どう言う意味?
「あの、あなた、斎藤さんのお嬢さんでしょう?」
振り返ったら女の人が立っていた。父と一緒に写っていた女の人? 化粧が落ち着いているから別人に見えるけど、あの人だ。
「私、ここで社交ダンスを教えている金村です。今日、斎藤さんのお嬢さんが来るって聞いて待ってたの」
その人は近づいて来てペンダントに目をやった。
「それね、斎藤さんがあなたにって。恋人に振られて落ち込んでいる娘を励ましてやりたいって」
私の元恋人、彼は私より社長の娘を選んだ。
「お父様はね、根付のコレクターだったの。ご存知だった?」
私は黙って首を振った。
「コレクションを全部売って、そのペンダントを買ったの。娘が金持ちの娘に負けたのが悔しいって。俺だって娘にこれぐらいの事はしてやれるんだって。私が石屋さんを紹介したのよ。その石屋さん、斎藤さんと同じくらいの年の方でね。気持ちが通じ合ったみたいで、とっておきの石を譲ってくれたの。この石、何かわかる?」
私は窓際に引っ張っていかれた。太陽の光が石にあたる。青い炎が燃え上がった。
「極上のパライバトルマリンよ。カラットあたりの値段はダイヤモンドより高いって言われているの。鉱山が閉山してしまったから、こんなに大きくて強いネオンブルーを放つ石はもう取れないの。市場に出たら一千万以上はするでしょうね。良かったわね」
ロッカーには父の気概が残されていた。
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講評の要約
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(前略)
ショートショートのストーリー展開は次のようになっています。
A.主人公が疑問に思う出来事が起きる。
B.その疑問を解明しようとする。
C.疑問が解明する。
(中略)
青樹さんがお書きになった作品のストーリー展開をこの原則にあてはめると次のようになります。
A.亡くなった父親のロッカーにどういうものを残していったのか。
B.父親は意外に社交ダンスをやっていたことを知る。
C.さらに死後に訪れるであろう娘のための贈り物を残していたことを知る。
問題はCをどのように描くのかということなのだと思います。ショートショートの場合、結末部分は的確なものであって、かつ端的である必要があります。少々乱暴なものであったとしても短い方がいいということです。
(中略)
A.B.Cのストーリー展開からいえば、この作品は原稿の四枚目の、
「頑張れ、これつけて見返せ」とあった。
で終わるべきだったということなのです。
そのあとにえんえんと説明をしてしまうとショートショートとしての構成がこわれてしまう、あるいは不粋なものになってしまうということを理解してください。ショートショートって、基本的に機知に富んだものであるべきなのです。
書くべきではなかった部分を削除してしまうと実際問題として原稿は短くなってしまいます。五枚の規程枚数が四枚半くらい終わってしまった場合は、結末部分を膨らませてしまうよりはそのままの方がいいと思います。この作品の場合、冒頭の所で恋人と別れた経緯を書けばよかったのではないでしょうか。枚数の調整は結末部分ではなくて、冒頭部分で行ったほうがいいということです。
「え? 何、これ?」「嘘!」
え、私? 私に?
え? どう言う意味?
というふうに並べてみるとせりふがワンパターンであることがわかります。主人公の感想のたぐいはかならずしも書く必要はないということです。あえて書かないほうが説得力がある場合もあるということです。
(以上)
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恐らく私のショートショートの致命的欠陥は「機知に飛んでいない」ことでしょう。
ボチボチ頑張ります!^^