『ザイルの行方』最終話
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たくさんのコメントや応援、そしてレビューまでいただき、本当にありがとうございました。
書き手としてこれほど嬉しいことはありません。
/ あとがきのようなもの
お読みくださり、ありがとうございました。
舞台は厳冬期の穂高連峰。ジャンルとしてはホラーとも、心理サスペンスとも取れる位置づけの物語です。
本作のテーマの一つに、思想実験「カルネアデスの板」があります。
極限状態での殺人は「緊急避難」として法的に裁かれないことがありますが、それが倫理的に正しいかどうかは、結局のところ誰にも分かりません。作中の陸翔はまさにその渦中にいましたが、彼自身としては、むしろ「裁かれたかった」のかもしれませんね。
謎の残る咲乃については、一応詳細な設定も詰めてはありますが、作中で描いたものがすべてです。読者の皆さまの解釈に委ねたいと思います。
改めまして、ありがとうございました。
/ 実際の「冬の穂高」について
本作の舞台となった西穂高岳について、少し補足しておきます。
まず、一般の登山者がツアーなどで到達できるのは「丸山(標高2,452m)」まで。そこから先は、装備の差が文字通り生死を分けます。12本爪のアイゼンは必須であり、軽アイゼンでは歯が立ちません。基本が雪ではなく「氷」の世界であるため、ワカンも無力です。
さらに先の「独標」へ至る岩稜帯は、一定以上の経験がなければ踏み込めない領域です。中途半端な積雪よりは、いっそ氷に覆われていた方がアイゼンが効いて登りやすいほどですが、10本爪程度の装備で挑んでいた方が下りで足を滑らせる場面も見かけました。冗談では済みませんので、必ず万全の装備と経験を積んでからお願いいたします。
本作の物語はそこからさらに先、標高3,000mを超える稜線へと進みます。そこにはエスケープルートなど存在せず、一度踏み出せば引き返せない、たとえるなら「天国への片道切符」のような世界が広がっています。
幅が平均台ほどしかないナイフリッジ(刃のような尾根)を暴風に煽られながら進むその感覚は、もはや登山というより「台風の中でアイスクライミングをしている」ような極限状態です。ホワイトアウトする吹雪の中、厳冬期の穂高縦走を成し遂げるには、正気を保ちつつも、どこか頭のネジが数本外れていなければ到達できません。
なお、拠点となる「西穂山荘」は、厳冬期でも営業している非常に貴重で心強い山小屋です。設備も整っており、冬場に食べる名物の「西穂らーめん」(販売は9時から14時頃まで)は格別の味わいです。
モンベルなどが主催するツアー(アイゼンや冬靴の貸出あり)もありますので、安全を最優先に、ぜひいつか現地の空気に触れてみてください。丸山から仰ぎ見るあの絶景は、間違いなく息を呑む美しさですから。
改めまして、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。