最近、応募関係ばかりあれこれと書いていたので、ふと思い出した小噺をひとつ。
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創作村に、異常な速度で小説を書く男がいた。
そいつは、五日で10万字を書く人間だった。つまり、20,000字/日である。
しかもラフ原稿ではない。本稿である。
それを私が下読みし、どう読んでも構造的に矛盾があったので、全部を書き直した方がいいという結論に至り、再提出を命じた。すると三日で全部書き直してきた。
どう考えても、おかしい。
これがライトノベルなら、まあ分からなくもない。――いや、それでも十分おかしいのだが。
しかし彼は「文芸寄り+ホラー」系の人間だったのである。
やはり、おかしい。
では、小説家の執筆速度はどれくらいなのか。ざっくり調べてみると、だいたい次のようになる。
【1日の執筆量(プロ・セミプロ含む)】
・1,000~2,000字/日 … ゆっくり型
・3,000~5,000字/日 … 標準的な作家ペース
・6,000~8,000字/日 … 速筆
・10,000字以上/日 … 化け物枠
例:村上春樹は原稿用紙10枚(約4000字)/日
この表でいけば、私は調子がいいと「6,000字/日」くらいなので、速い方ではある。しかし推敲に倍以上の時間がかかるので、あまり速いような気はしていない。
ここで、唐突に思い出した。
私は昔から、プロ作家の異様な速度を知っていたのだ。
例えば、西尾維新。
『刀語』の時に月10万字ペースで全12巻を1年で刊行。
その頃、同時期に〈物語〉シリーズ、戯言シリーズなども動いていたので、多分「分身」している。
例えば、鎌池和馬。
ライトノベル界ではほぼ伝説レベル。有名な話だと、打ち合わせで出た案をその日のうちに原稿化。
編集が「次の巻どうします?」と聞くと、数日後に数百ページ届く。
一時期は年間6~8冊以上刊行。編集者の証言だと「1日1巻の3分の1くらい書くことがある」らしいので、下手をすると1万~2万字/日クラス。
そしてメフィスト界の伝説、清涼院流水。
代表作の『コズミック』と『ジョーカー』、この2冊は合計約1,700ページある。
しかもこれ、ほぼ同時期に書いている。さらにヤバいのはここからで、当時の講談社の話だと、原稿がどんどん送られてくるので編集が「まだ来るの?」状態だったらしい。先生はかなり特殊で、プロットを巨大な構造として設計し、書き始めるとほぼノンストップらしい。つまり「設計に時間をかける」→「執筆は爆速だった」とかなんとか。
なるほど。
これを基準にしていたのだから、感覚が壊れるのも当然である。
それに加えて、創作村の環境も大きかった。
あそこでは定期的にコンペが開催されていた。制限時間は一時間半。
その間に、一本の作品を書き上げなければならない。
当然、推敲している時間などない。
とにかく話をでっち上げ、形にし、終わらせる。
そんなことを繰り返していれば、書く速度が上がるのも当然だろう。
つまり私は、怪物のようなプロ作家を見て育ち、短時間コンペで鍛えられてきた。どう考えても、基準がおかしかったのだ。
怪物たちを見て育った私は、速度感覚という面で、すでに人間の枠からはみ出していたのだろう。