「うう……いててて……ここは……?」
柿村がコクピットの中で目をさますと、詠沢と門川は既に起きていて、覗き窓の外を見ていた。
「ふたりとも……」
「先輩。ケガはない?」
「うん。ヘルメットしててよかったよ。詠沢さんも大丈夫? 門川教授も? ……教授?」
「す」
門川は柿村には目もくれず、声を震わせ、呟いた。
「素晴らしい」
どうやら覗き窓の外に何かがあるらしい。「何がです?」と言いながら柿村も覗き窓に額をくっつける。
そこには大空洞が広がっていた。
更に言うなら、その空洞の中に、ひとつの机と椅子があり――――何者かが座っていた。
「教授。あれ、何ですかね?」
「素晴らしい……世紀の大発見だ……」
「詠沢さん。あれ何なの?」
門川は感動に打ち震えていて相手をしてくれない。諦めて、未だ先程の事故時に見せたキリっとした感じが抜けていない詠沢に訊いてみる。
詠沢は答えた。
「あれはサクシャ」
「サクシャ……」
「この大空洞はサクシャにとってのプロフィールと呼ばれる場所。その中のキンキョーノートという区画。って教授が言ってた」
「プロフィール……キンキョーノート……」
「サクシャはゲンコーに集中するため、プロフィールの耐震設備を整えてる」
「だからここだけ地震が及んでなかったのか……」
柿村は門川を改めて見る。
大粒の涙を流し、「やはりプロフィールは、キンキョーノートは存在した……私の理論は間違っていなかった……!」と嗚咽を漏らしていた。
それからしばらくして門川は落ち着きを取り戻し、プロフィール内の探査のため、柿村と詠沢の指示にあたった。
サクシャ(〝かぎろ〟という個体名だと判明した)を刺激しないよう、慎重に事を進めなければならなかったが、サクシャはゲンコーに集中しているのか、こちらに気づいた様子はなかった。
「今日のこの成果は、近いうちに学会を激震させることになるだろう。柿村君、詠沢君。ついてきてくれて、本当にありがとう」
再び涙ぐんでいる門川に、ふたりは笑いかけた。
「なに言ってんですか。まだ一番の仕事が残ってるでしょ」
「うん……。今回の、もくひょーは……」
「……ああ、そうか。そうだな。私たちは、目標を達成するまで終われない。最深部だ。カクヨムの最深部……そこには何があるのか。確かめなくてはな」
三人は頷き合うと、来た道を引き返した。
元々行くはずだったルートに戻り、問題がないのを確認してから、もう一度地中を掘り進め始める。
先程いたルートはまだスクロールする余地があった。
そこに、旅路の続きが記されている。