【女騎士として~エレンSide~】
エレン・グリンフィールド。
伯爵令嬢であり、このフルティア王国の騎士団に所属する女騎士でもある私は、絶賛非番中である。
「ずずっ……はぁ~~~~生き返るわぁ~~」
「ふふ、エレンさん、いつもご苦労様です」
にっこりと笑って、私が紅茶を飲み干したばかりのカップにお代わりを注いでくれるのは、私の心の聖女でありこの神殿食堂の看板娘でもある、リゼちゃん。
家で侍女の淹れてくれる紅茶を飲みながらテラスでのんびりするのも良いけれど、一日一回はここにきてリゼちゃんの淹れてくれる紅茶と軽食をつまむのが、私の今の楽しみであり日課になっている。
「あぁーもう、やっぱり一家に一人はリゼちゃんがいるわ!! 何でクラウス何かのところに……」
「ふんっ。ま、私の人望故よね!!」
「出たわねクラウス。神殿食堂の妖怪……!!」
「妖精ぃぃいいいいい!!」
本当、何でこんな筋肉妖怪のところなんかに可愛いリゼちゃんを預けなきゃいけないのかしら。
ううん、わかってる。
クラウスは良くも悪くも裏表がない。
対してリゼちゃんは──いえ、リゼリア・カスタローネ公爵令嬢は、正反対だ。
未来の王太子妃として、幼い頃からベジタル王国の裏と表、たくさんの思考が交差する世界で生きてきた。
きっとたくさんの自分を押し殺してきただろう。
そんな彼女を、少しでも自分らしく、そして肩の力を抜いて生きていける環境に置いてやりたい。
殿下の采配は、間違ってない。
悔しいけど、こいつの傍が一番リゼちゃんには良い環境なのだと思うもの。
それに──。
「もう、クララさん!! 休憩時間短すぎます!! 仕込み長引いちゃったんだから、もう少し休憩してて下さい!! お客さん多くなってきたら呼びますから!!」
「そんなこと言って、私がいないと寂しいく・せ・に♡」
「……」
「なぁによそのしらっとした顔はぁあああ!? そんな娘に育てた覚えはないわよぉぉぉお!?」
「育てられた覚えもないです」
「いやぁぁああ反抗期よぉぉおおお!!」
まったく、なんて楽しそうな顔してんのよ。
リゼちゃんも──クラウスも。
こいつのこんな顔をまた見られる日が来るなんて、思わなかった。
心から楽しんでいる、生きてる、って顔。
きっと無意識なんだろうけど。
「あーあ、悔しっ!!」
両手を上げて伸びをしながら声を上げると、リゼちゃんが「エレンさん?」と不思議そうに首を傾げた。
「リゼちゃん、注文!! ここからここまでぜーんぶ!!」
「えぇ!? そ、そんなにですか!?」
「あんた……太るわよ?」
「その分動くから平気よ!! 明日から遠征だもの!!」
騎士の仕事は死と隣り合わせ。
最初はたった一人を守りたいからと歩み始めたこの道。
今はその必要もなくなってしまったけれど。
だけど自分が選んだ道だから。
私は後悔しない。
それに、今度はこの笑顔溢れる日常を守るためだと思えば、明日からまた頑張れる気がする。
「さぁーって、食べるわよぉーっ!!」
そして私は、ナイフとフォークを天に掲げた。
END
~あとがき~
皆様こんにちは!!
本日、たくあん聖女のレシピ集発売となりましたぁぁあああ!!
ということで、書籍版のみの新キャラエレンさんの紹介がてら、彼女についてのSSを公開してみました!!
書籍版まだだよ!!という方も書籍版かったよ!!っていう方も、皆様このたくあん聖女のレシピ集を楽しんでいただけましたら幸いです。
この作品が、あなたの人生という旅の中で、一つの小さな灯りになることを願って。
景華