第3章では、「中華飯店 平成」が開店してしばらくたった頃の町を描いています。
この時点では、平成もよく客が入り、駅前の店々もまだ普通に営業しています。
いわゆる「シャッター商店街」になっているわけではありません。
ただ、町の外側では少しずつ店の選ばれ方が変わり始めています。
物語の町には国道3号線が通っており、その周辺には車で入りやすい飲食店が増えています。広い駐車場があり、道路から看板が見え、どんな料理が食べられるのか分かりやすい。
車で生活する人が増えれば、
「何を食べたいか」
だけではなく、
「どこなら車を止めやすいか」
も店を選ぶ条件になります。
第3章で描きたかったのは、個人店とチェーン店のどちらが良いか、という話ではありません。
国道沿いの店を選ぶ客にも理由がある。
一方で、駅前や商店街には、それぞれ別の店があり、別の料理がある。
では、その存在をどうやって客に知ってもらうか。
そこから「五つの印」の話が始まります。
きっかけの一つになるのは、先生のとても単純な言葉です。
「毎日同じものは食べません」
先生自身は、商店街をどうしようとか、客を回遊させようとか、そんなことはほとんど考えていません。
ただ、自分は毎日同じ店で同じものを食べない。
その当たり前の感覚を、弟子が商売の形に置き換えていきます。
この二人は、その役割がかなり違います。
先生は、味や食べることについて気づく人。
弟子は、それを客や店同士の関係に置き換える人。
回遊カードも、先生が考えた仕組みではありません。
また、後に「ファースト8」と呼ばれる八軒も、最初から選ばれた八軒ではありません。
弟子はいろいろな店を回り、食べ、話をします。その中で話に乗った七軒と平成を合わせた八軒が、結果として最初のまとまりになりました。
蕎麦屋、喫茶店、洋食屋、焼き鳥屋、寿司屋、定食屋、お好み焼き屋、そして平成。
商売の時間帯も、客層も、考え方も違います。
だから最初から仲の良い八軒でもありません。
「客を取られるんじゃないか」
「平成だけ得をするんじゃないか」
そんな疑いもあります。
それでも、自分の店へ来た客が毎日同じものを食べるわけではないなら、別の日には別の店へ行く。
だったら、その次の一軒を知ってもらえばいい。
その程度のところから始まっています。
第3章のタイトル「五つの印」は、五軒の店を回る回遊カードから付けました。
町を救う大きな計画ではなく、客の財布に入る一枚の紙から始まる話です。