場所:いつもの真っ白な謎空間
「はーい、⭐︎が増えなさすぎて打ち切り気分になりかけてる火野勝成でーす」
真っ白な空間のど真ん中で、勝成はパイプ椅子に深く腰掛けながら、ひどくけだるげな声でカメラ(読者)に向かって手を振った。
「今回は、今作の舞台である『大正時代』がどんな時代か。車とか病院事情について教えていこうと思いまーす」
「開幕からなんという後ろ向きな挨拶だ! 読者殿の士気が下がるだろうが!!」
画面の端から、ツッコミと共に勢いよく飛び出してきたのは小柄な武士――高田国継だ。
「あ、ちび継。お前また出番欲しさに勝手に湧いてきたな? ま、今回も俺が主役の解説コーナーだから」
「ふん。して、今回は何を教える」
「だから今言ったろ。今回は、この作品の舞台である『大正時代』の車と病院事情について教えていくって病院行け、耳鼻科にな。まずは車から!」
「ふむ。先ほど、白磁の連中が乗っていた『黒塗りの高級車』だな」
高田は腕を組み、真面目な顔でうんうんと頷く。
「勝成、そもそもだが、この時代に車なんて高度な代物があったのか?」
「バカ言ってんじゃねぇよ、チビ継。大正時代を舐めんなよ」
「誰がチビじゃ! 成長期じゃボケ!!」
顔を真っ赤にして青筋を立てる高田を華麗にスルーし、勝成はどこからともなく取り出したチョークを指先でくるくると回した。
「確かに現代みたいにその辺をビュンビュン走ってるわけじゃないけどな。大正時代にもなれば、海外からの輸入車を中心に、自動車はちゃんと走ってたんだよ。ただ――」
「ただ?」
「当時の車ってのは、現代の高級外車なんて目じゃないレベルの超・超・超高級品! 一般庶民には一生縁のない代物で、乗れるのは皇族、軍のトップ、財閥の重鎮、それこそ白磁みたいな特権階級の化け物くらいだね。だからこそ、あの黒塗りの車を見れば、帝都の人間はみんな道を開けるってわけ」
「なるほど……盤士院の最高峰ともなれば、それほどの権力と財を有しているということか。して、病院の方はどうなのだ? 煌介が運ばれた『帝大病院の特等室』とやらも、ただ事ではないのだろう?」
「お、察しがいいなチビ」
「とうとう『継』もつけんくなったか! 友といえどももう許せん! そこになおれ!!」
カチャリと刀の柄に手をかける高田を鼻で笑い飛ばし、勝成は黒板もないのにチョークで空中に文字を書く素振りを見せる。
「帝大病院……つまり東京帝国大学附属病院ってのは、当時の日本の最先端医療のド真ん中、最高権威だ」
勝成は得意げに腕を組み、ニヤリと笑った。
「この時代、医療格差は今の比じゃないくらいエグくてな。庶民はまともな治療も受けられずに死んでいくことも多かった。そんな中で『特等室』なんて、金持ちや特権階級専用の超VIPルーム。ふかふかのベッドに、最新の設備、専属の看護婦までついて、下手な高級旅館よりずっと豪華だったんだよ」
「な、なんと……!」
高田は目を見開き、わなわなと震えだした。
「では、あの若造はそんな豪奢な部屋で、しかもあのような破廉恥な真似、ニャンニャンを……ッ!」
「いや、破廉恥なのはお前の頭」
「けしからん! まさに切腹ものだ!!」
「お前の頭がけしからんわ。頭割れ、兜破りな」
勝成は呆れたようにため息を吐く。
「部屋の手配は浅野のオッサンのコネだけどな。まぁ、煌介本人はカエデのことで頭がいっぱいで、自分がどれだけVIP待遇を受けてるかなんて、一ミリも分かっちゃいねぇだろうけどな」
「ところで勝成! 貴様!!」
高田が急に話題を変え、ビシッと勝成に指を突きつけた。
「前回のこのコーナーで、なぜ貴様だけ自身の画像を載せたのだ!! 抜け駆けは許さんぞ!」
「うるせーな。どうせ誰も見てねぇんだ、載せようが載せまいが勝手だろ? それをいうなら、ヒロインのカエデの写真なんて三枚だよ、三枚。主人公の煌介だって二枚だし」
「ぐぬぬ……!」
「あ、ポッと出の橋姫も二枚だったな。……おい、お前なんで一枚もないの?」
「やかましいわッ!!」
『システム:次回、第十四話「世界樹と終末時計」! 皆様、ぜひお楽しみに!!』
※高田勝成