■深刻なエラーが発生しました
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887688271世間はバレンタインじゃないですかー!!
即席おかゆのようにねりねりしてきました。ばれぬたいぬ話です。
あさひなさんは、そんなに盛んにイベントクエストに参加しない。しかし今回のものには急遽参加しているらしい。いつもは部屋で本を読むなり、レベル上げに付き合ってくれる人なのに、珍しい。
彼が参加したと思われるイベントを見直す。バレンタイン限定クエスト。……なんというか、意外だなーと思う。あさひなさん、そんなにチョコ欲しかったのかな?
「ところで、どういった内容のイベントなんですか?」
「チョコのばけもん倒して、チョコを搾り取るイベントだ」
「説明が恐怖」
ピンクと茶色の衣装に身を包んだ見た目幼女が、豪快に大口を開けながらチョコレートにかじりついている。マスターのざっくりとした説明に、青褪めた心地でイベント告知の画面を再度見直した。現在のマスター衣装のような、ピンクのリボンで飾り立てた画像には、やけに丸い文字が並んでいる。……こんなにポップでキュートな広告なのに……。口の端をチョコで汚したマスターが、にっと口角を持ち上げた。
「搾り取ったチョコをだな、一定数集めるとアイテムと交換出来るんだぜ」
「なるほどー。あさひなさん、何か欲しいものがあったんですかね?」
「おう。今回のはあさひな好みの――」
バリトンボイスが頷いたそのとき、玄関の扉が勢い良く開かれた。現れたのは頬を上気させたあさひなさんで、いつも息ひとつ乱さない彼が呼吸を荒げている姿は、大変貴重だった。肩から真白の髪を零し、ぱっと表情を明るく弾ませた白皙の美青年がこちらへ来る。
「おう、あさひな。早かったじゃねえか」
「はい。久しぶりに走り回りました」
ふふっ、と軽やかに微笑み、あさひなさんが俺の前に立つ。いつも通り挨拶すると、恥らうように目線を逸らせた彼が、小さな声ではにかんだ。うっすら染まった頬が、青春ドラマの告白シーンを彷彿させて罪深い。
「その、ユウさんに受け取ってもらいたいものがあるんです」
「……何でしょうか」
あさひなさんのもじもじと照れる仕草に、俺の第六感が囁いた。僅かに身を引き、身構える。こんなに美人で強くて優しいあさひなさんだが、彼にはちょっとした癖がある。画面をワンタッチ、麗人が差し出したピンクと茶色で構成された布の塊に、俺の足が自然と二歩後ろへ下がった。
「イベント終了間際になりましたが、何とかもぎ取ることが出来ました」
「表現がこわいです!!」
「まさか今期の限定衣装がこんなにも可愛かっただなんて! どうしてもっと早くに教えてくれなかったのですか、マスター!」
「知ってると思っててな」
「本当に、本ッ当に久しぶりに全力で挑みました。音速で景品交換しました。全てはユウさんに着ていただくために!!」
「わ、わあ!! これ、マスターが着てる服とお揃いのやつだ!!」
「ははは、愛が重てえ」
ソファにどっかり座った幼女が身に纏う衣装と、デザイン違いの衣装が眼前に差し出される。引き攣る俺の内情とは裏腹に、あさひなさんはきらきらと恋する乙女のような顔をしていた。期待に輝く青の瞳が眩しいなあ……!!
フリル満載な衣装を一瞥し、あさひなさんへ視線を向ける。にっこり、美しい笑みを返された。……ここであさひなさんのお願いごとを断ることも出来る。けれども、その後の果てしなく落ち込む彼の姿を見るのは、とても心が痛くなる。どちらにせよ着ることになるのなら、今ここでにこにこしているときに着る方が、あさひなさんは喜んでくれる。
「……き、きがえてきますね……」
「ありがとうございます! ユウさん!!」
覚束ない俺の返事に、花が綻ぶようにあさひなさんが微笑んだ。彼の周りの明度が上がった。振り撒かれる星のエフェクトが見えた気がした。何だったらフローラルないいにおいもした。
受け取った衣装の全体図を見下ろす。……これを、俺が着る。……あさひなさんが持ってる俺のイメージって、どんなのだろう……?
「あさひなのこの悪癖があるからよ、シエルドのやつ、イベント開催中はイン率下がるんだぜ」
「なるほど……?」
「それでシエルドくんと中々お会い出来なかったのですね……!?」
マスターのあっけらかんとした暴露話に、あさひなさんが悔やむような顔をする。しかし彼のカメラは絶えずシャッターを切っており、あさひなさんの貢物に身を包んだ俺は、ひたすら遠くを見詰めていた。