俺の名は辰也。通称、青シャツの辰。
ドンジャラ界では、そこそこ名の知れた玄人(自称)だ。
今日も卓を囲んでいる。
ただし、麻雀ではない。
ドンジャラだ。
「…………」
俺は手牌を見る。
ドラえもん6牌。
のび太1牌。
しずかちゃん1牌。
スネ夫1牌。
そして――。
俺の右腕。
ガンチこと、雁田 長治が隣にいる。
『辰さん』
『なんだ』
『どうします?』
『決まっている』
俺は手牌を見つめる。
『狙うのは、ドラえもんの二、五、八だ』
『……ドンジャラですよね?』
『そうだ』
『なんでそんな麻雀みたいな言い方なんです?』
『勝負だからだ』
『…………』
ガンチは黙った。
どうやら、まだ俺の覚悟を理解していないらしい。
◇
そして数巡後。
俺は一枚の牌を引いた。
「…………」
八。
ドラえもんの八だ。
俺はそれを見つめる。
「来たか……」
『辰さん』
『なんだ』
『それ、八ですよね?』
『ああ』
『いや、普通に八を引いただけですよね?』
『…………』
俺は八を手牌に加えた。
そして――。
次の瞬間。
横の男が牌を切った。
「……ドラえもんの五」
「!」
俺は反射的に身を乗り出した。
「それだ!」
バッ!
俺は牌を取った。
「チー!」
「…………」
「…………」
「…………」
卓が静まり返る。
対面の男が困惑した顔をする。
「……辰さん」
「なんだ」
「今、何しました?」
「鳴いた」
「ドンジャラって、鳴きありましたっけ? それに下家からチー?」
「ある」
「本当に?」
「ある」
「いや、麻雀じゃないですか?」
俺は不敵に笑った。
「2000年ぐらいから横取りのルールがあるんだよ」
「…………」
ガンチが横に置かれていたルールブックを見る。
そして、ページをめくった。
「…………」
「…………」
「あ」
「どうした?」
「……あります」
「何がだ?」
「横取りルール……本当にあります」
「…………」
俺はゆっくりとガンチを見る。
そして――。
ニヤリ。
「言っただろ?」
『……辰さん、適当に言ったんじゃなかったんだ』
「ドンジャラは奥が深いんだよ」
俺は勝ち誇った顔で、五の牌を手牌に加えた。
「…………」
ガンチはルールブックを見つめている。
『本当にあるんだ……』
俺はさらにドヤ顔になった。
「…………」
『辰さん』
『なんだ』
『ちょっと嬉しそうですね』
『当然だ』
『横取りルールがあっただけですよ?』
『それが重要なんだ』
『何の?』
『玄人としての格だ』
『ドンジャラの?』
「…………」
俺は答えなかった。
答える必要もない。
俺の格は、今まさに上がった。
◇
俺は手牌を見る。
五、八が揃った。
だが――。
まだ足りない。
残るは、二。
「…………」
俺は二を待つ。
そのときだった。
俺はふと、横取りした五を見る。
「…………」
『辰さん?』
俺は五を見つめたまま、静かに口を開いた。
「俺には聞こえた」
『何が?』
「牌の声が」
「…………」
「このドラ五が、俺に語りかけてきた」
『…………』
「俺を……待っていたんだ」
『…………』
『辰さん』
「なんだ」
『普通に横取りしただけですよね?』
「黙れ」
『はい』
俺は再び二を待った。
そして――。
「…………」
俺は牌を引く。
「二だ」
「…………」
俺は二の牌を見つめる。
指先が震える。
『辰さん?』
「…………」
『二ですよ?』
「分かっている」
『普通に二を引いただけですよね?』
「…………」
俺は目を閉じる。
「来た……」
『何がです?』
「運だ」
『二です』
「力だ」
『二ですって』
「うるさい」
俺は二の牌を卓に置く。
「これで完成だ」
俺の手牌が揃った。
俺はゆっくりと手牌を倒す。
「…………」
牌を見つめる。
ドラえもん。
ドラえもん。
ドラえもん。
俺は静かに口を開いた。
「ドラ一色……」
「…………」
俺は拳を握る。
「ツモ!! ドラ一色、役満、あがりだ!」
「…………」
「…………」
「…………」
誰も何も言わない。
俺は顔を上げた。
「どうした?」
ガンチが、ルールブックを見ながら言った。
「辰さん」
「なんだ」
「リーチしてないですよね?」
「…………」
「ドラえもんドンジャラは、リーチ必須です」
「…………」
俺は固まった。
「……リーチ?」
「はい」
「…………」
俺は手牌を見る。
完成している。
間違いなく完成している。
だが――。
「ダマじゃ……ダメなのか?」
「ドンジャラですよ?」
「…………」
「ルールブックにもリーチ必須って書いてあります」
「…………」
俺は静かに牌を見つめる。
そして――。
「……そうか」
『はい』
「そういうルールだったか……」
『はい』
俺はゆっくりと立ち上がった。
「辰さん?」
「俺の負けだ」
「え?」
「リーチしていない」
「はい」
「つまり――」
俺は卓を見つめる。
「このあがりは、無効だ」
『……そうなりますね』
「…………」
俺は静かに席を離れた。
「帰るぞ、ガンチ」
「はい」
「辰さん」
「なんだ」
「片付け、辰さんの担当ですよ」
「…………」
「負けた人が片付けるって決めましたよね」
「…………」
俺は黙って卓を見る。
そこには、ドラえもんの牌が並んでいた。
俺は思った。
――ドンジャラ。
奥が深い。
いや。
深すぎる。
俺は今日、また一つ。
ドンジャラの真理に近づいた。
――そして、負けた。
俺は黙って牌を片付け始めた。
◇
そして最後に。
フォロワーの皆様。
258人、ありがとうございます!
いつも読んでくださる皆様、フォローしてくださった皆様、本当にありがとうございます。
というわけで今回は――。
258人記念、ドンジャラでした。
これからも、あおねこの作品をよろしくお願いします。 ※誤字報告ありがとうございます。