ミカエラ様がチャールズの成人祝いの贈り物を決めるまでのお話。
サポート限定SS『ミカエラからの贈り物』冒頭1/3になります。
続きはサポーター限定となっております。
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「どうしましょう……」
私――ミカエラ・ブレッサ=レオーニは、落ち着きなく自室を歩き回っていた。
来月は婚約者であるチャールズ様の十五歳の誕生日。そう、成人を迎えるのだ。
「一体どんなものをお贈りすれば喜んで頂けるのかしら……?」
今日だけでもう何度目かになるかも分からない溜息を吐いてしまった私は、一旦落ち着くために窓際の机に向かって座る。
婚約者の成人祝い。一生を共にする伴侶への、一生に一度の贈り物。
誕生日はすぐそこまで迫っているのに、何を贈ればいいのか全く思いつかない。
よく聞く成人祝いの品は、男性には剣帯や馬具、女性には宝飾品。どちらも記念品の意味合いが強く、高級な素材で作ったり装飾を多くする分、実用性は持たせないそう。
――でも、そうしたものを受け取ったチャールズ様が嬉しいとは思えない。
チャールズ様は才能あふれるお方であり、同時に堅実なお方だ。十歳にも満たないうちから「自分の力で人を助けたい」と薬師になるために学び、その知識で利益を生んで領地に還元している。
そうして領地の経営に関わり、領民の実情を知っているからか、以前参加したパーティーで、領民から得た税で貴族が着飾ることを快く思っていなかった。
そんなお方が、無駄なお金をかけた派手なだけの記念品を貰って果たして喜ぶだろうか?
「やはり実用的な物がよいのでしょうけれど……チャールズ様、必要な物はご自分で揃えてしまわれそうなのよね」
最初は薬作りに役立つものをと思ったが、よく考えればチャールズ様の事業は領地全体に影響を及ぼしているのだから、薬作りに必要な品は経費で揃えられるだろう。
ではそれ以外で役立つものを、と考えようとしてはみたものの。
「チャールズ様と言えば薬作り、薬作りと言えばチャールズ様……どうしましょう、薬作り以外をしているチャールズ様の姿が全く思い浮かばないわ……」
そう、さっきからここで躓いてしまうのだ。チャールズ様と薬作りが密接に結び付き過ぎて、『薬に関わらない品物』が、贈り物の選択肢としてまるで出て来ない。
堂々巡りする思考に、今日一番の深い溜息を吐いた私は、はしたなくも机の上に両腕を置いて顔を埋める。
「……私、婚約者の好きなものも分からないのね……」
自分の言葉で気分が落ち込みかけた時、トントン、と部屋の扉が控えめに叩かれる。
「ミカエラ様。ご夕食の用意が整いました」
「……ええ、今行くわ」
気落ちした声を気取られないように扉の外のメイドに返事をした私は、重たい気分を抱えたまま夕食へと向かった。