間もなく完結です。
https://kakuyomu.jp/works/16818792438950900115
この作品について
①「そういえば最近、宇宙についてがっつり書いてないなぁ」と思ったことが、本作の出発点だった。もともと科学雑誌Newtonを読み漁っていた小〜高校時代の記憶がずっと残っていて、その頃に面白がっていた宇宙物理やブラックホールの知識を、いまの自分なりの物語として引き出したいと考えた。ただスペースオペラの王道である宇宙戦争や帝国興亡史を中心にする構造だと、どうしても勢力図や戦乱のドラマに重心が寄ってしまい、自分が今回いちばん書きたかった「宇宙そのものへの驚き」や「その中を突き進む大冒険」を前に出しにくかったため、「ブラックホールの秘密を抱えた宇宙そのものを舞台に、そこで生きる個人の冒険と衝突を書く」方向を採用した。これにより、宇宙物理学的な面白さと、そこで日々を生きる人間の泥臭い実感とを同じ物語の中心に置けることになり、本作は“宇宙を背景にした物語”ではなく、“宇宙そのものの異様さと広がりが作品の核にある宇宙冒険活劇”として企画をスタートさせた。
② 恒星間やブラックホール近傍での航行については、今回はあえて厳密な設定を組まない方針にした。その結果、広大な文明圏とその中で起こるドラマを自然に組み込めるようになり、宇宙の骨格として特徴的な設定にも重きを置くことができたので、この判断は正解だったと思っている。ブラックホールを中心に複数の恒星が回り、それぞれの恒星が文明を持つ惑星群を従えているという大胆な配置を採用することで、ブラックホールの神秘性とスペースオペラらしい広がりを同時に確保しつつ、そこで情報や物流や価値観が交錯する舞台を成立させることができた。
③ 本作では、情報が氾濫し、フェイクニュースが溢れ、何が本当かわからなくなる時代を人々が生きている、という世界観を中心テーマとして採用した。そのため、冒険活劇でありながらも、単なるお宝探しや秘宝争奪を物語の軸にするという構造を切り、「情報が信用できない時代において、本当に価値が高まるものは何か」という問いを主題に据えた。そして、その答えとして「さわれる真実」という概念を採用した。複製され改竄され加工される情報ではなく、物理的に存在し自分の手で触れられるものこそが真実である、という思想を作品全体の芯に置くことで、図書艦リブラリアの存在が単なるSFガジェットではなく「何が本物か」を問うための装置として機能するようになった。
④ そのテーマを体現する人物として、ソラーというヒロインを採用した。情報氾濫が当たり前になった広い文明圏において、単なる導き手や相棒ではなく、まさにその混乱に翻弄され、「さわれる真実」を強く求める女の子として、本作の思想をセリフではなく存在そのもので立ち上げられるようにした。一方で、物語全体をそのまま観念的なテーマ小説にしてしまう構造は避けたかったため、主人公ユイナは正反対の足場を持つ人物として設計した。ユイナはブラックホール近傍の極限環境で危険な流星漁をしながら借金返済に追われる泥臭い生活者で、ソラーが「真実」というロマンを追うのに対し、「明日の生活費」という現実に必死に食らいついている。これにより、本作は“真実をめぐる思想の話”であると同時に、“今日を生き延びるための話”でもあるという二重構造となった。
⑤ 世界設定の核は、アインシュタインの相対性理論で知られる「重力による時間の進み方の違い」を社会格差のシステムへ変換する設定とした。ブラックホールが引き起こす時間潮汐によって「相対的に時間が遅い星と時間が速い星では、どちらが裕福になるのか」という問いを起こし、社会、経済、労働、借金のあり方を組み立てることで、宇宙物理学が単なる雰囲気ではなく、登場人物の生活を直接傷つけるルールへと変換された。ユイナの借金、労働、貧困はこの設定の帰結として自然に発生し、同時にソラーが追う「真実」もまた、そうした理不尽な宇宙の中でこそ異様な輝きを持つようになったと思う。極限宇宙物理学と社会の泥臭さを一体化させることで、本作固有の過酷さと説得力を与えることができた。
⑥ ただし、過酷な設定と重いテーマだけでは作品全体が乾きすぎるため、本作では「極限の宇宙物理学」と「安酒や借金といった世俗的な泥臭さ」が隣り合わせにある宇宙冒険バディもの、というイメージを最終形として採用し、価値観が正反対の二人の少女が出会い、衝突しながらも互いの欠落を補い合っていく関係性が作品の推進力になるよう設計した。ソラーはユイナにロマンと飛躍を持ち込み、ユイナはソラーに現実と身体感覚を与える。この配置によって、スペースオペラとしての壮大さと、安酒や借金にまみれた生活感とが矛盾せずに共存し、全体のトーンが完成した。
まとめ
『流星のすみか』は、「宇宙についてがっつり書きたい」という動機から出発しつつ、ブラックホール文明圏を採用し、技術説明中心の構造を切って広域宇宙社会の手触りを前面化し、さらに情報氾濫の時代における「さわれる真実」というテーマを中心へ据えることで成立した。その主題を体現するソラーと、借金まみれの現実主義者ユイナという正反対の二人を並べ、重力による時間差を社会格差のシステムへ変換することで、宇宙物理学と生活苦を同じ地平に置くことができた。そうして最終的に、ブラックホールの秘密を抱えた理不尽な宇宙を舞台に、極限の物理学と世俗の泥臭さが隣り合う、宇宙冒険バディものというコンセプトが完成した。
興味ある方は、ぜひ読んでみてください。
https://kakuyomu.jp/works/16818792438950900115