※注意事項
このSSは、『チュートリアルが始まる前に~』の百十二話付近までのネタバレを含んでおります。
未読の方はご注意くださいませ。
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◆◆◆??? 『覆す者』清水凶一郎
目を覚ますと、そこには何故だかお下げの少女がいた。
ライトグリーニッシュブルーの髪に、あどけなさを残す小顔。
彼女の名前はソーフィア・ヴィーケンリード。
俺が最近立ち上げたクラン“烏合の王冠”のニューフェイスである。
そんな彼女が何故か俺の横で瞼を閉じていた。
「すぅすぅ」と可愛らしい寝息を立てながら幸せそうにまどろむその姿は、正直萌えたよ。
だがそれ以上に「やべぇ」と焦り、「なんで」と困惑した。
俺の部屋でパートナーでも何でもない女の子が隣で寝ている。
意味が分からない。理解が追いつかない。なんだこの状況は? 誰でも良いから説明プリーズ。
「(……というか、ひとまずベッドから出よう。この状況は色々とまずい)」
誓って変な事はしていないが、それでも自室のベッドで女の子とツーショットって状況は流石にギルティが過ぎる。
誰かに見られたら言い訳なんて出来ないし、そもそも寝覚めの女の子は身体(主に下半身)に悪い。
だから俺は無用なトラブルを避けるべく上半身を動かして
「んっ、ふぁっ。おはようございます。ボッ君。今日は早起きさんですね」
「えっ、あっ、ごめんなさいソフィーさん。なんか気づいたらソフィーさんが俺の部屋で寝てて、何がなんだかわからなくて」
目を覚ましたお下げの聖女様に渾身の言い訳タイムを重ねる俺。
ともすれば、俺の人生が社会的に終わりかねない程の劇的危機を前に、必死になって弁舌を繰り広げるも、何故だかソフィーさんは微塵も焦っていない。
「何を焦っているんですか、ボッ君。今日はわたくしがボッ君を一人占めする日のはずですよ」
「えっ、あの、さっきから気になってたんですが、ボッ君って誰ですか? 俺は清水凶一郎なんですけど」
「もうっ、なんですかそのつまらない冗談は! あんまりオイタが過ぎるとママ怒っちゃいますよ」
ますます意味が分からなくなった。
自分と一年ほどしか離れていない十六歳の少女が、何故だか俺の事を「ボッ君」と呼び、「ママ」を自称している。
最早軽いホラーだ。
やばい、ちょっと本気でチビりそう。
「あの、非常に申し訳ないんですけどソフィーさん。俺はあなたの息子じゃないし、あなたも俺のママじゃない。そうですよね、そうだと言って下さい」
「えぇ、確かに。わたくし達は本当の親子ではないかもしれません。ですがわたくし達の絆はある意味、本物よりも深く、尊い。そうでしょうボッ君? だって……」
ポッと顔を赤らめながら、ソフィーさんはシーツを胸元に吸い寄せ
「だって、わたくし達は恋人であり、そして将来を誓い合った仲でもあるわけですから。普通の親子関係よりもずっと、ずっと……ぽっ」
瞬間、俺は考える事をやめた。
あっ、これ夢だわ。
どういう経緯で、こんな破廉恥な夢に至ってしまったのかは謎だが、まぁ夢ってそういうもんだしね。
オーライ。オーライ。
ソフィーさんは俺の彼女でママで将来を誓い合った関係って設定なのね。
うんうん。把握把握。完全に理解したよ、モーマンタイ。
現実では彼女一筋の俺だけど、夢の中くらいならちょっと位楽しんだっていいよね。
だって夢だし、妄想だし、非現実だし、ギャルゲーやるようなもんだし。
「(……そういうことなら、ちょっとくらい楽しんだっていいよな)」
俺は、自分の事をママと名乗るヤバい女の方へと向き直り、謝罪の言葉を口にした。
「ごめん、ママ。俺どうかしてたよ。ちょっと寝ぼけてたみたい」
「もうっ、ボッ君の寝ぼすけさん。でもそんなところもたまらなく愛おしい」
ぎゅーっと、ソフィーママの胸元が俺の頭に覆いかぶさっていく。
「ボッ君は、ママ達の中で誰が一番しゅきでしゅかー」
「えっ? ママって複数人いるの?」
「しっけいな。ママは、ママ一人だけでしゅよー。でもボッ君の恋人は沢山いるでしょう?」
沢山も何も俺の恋人はあいつ一人のはずなんだが、えっ? 何? この世界線の俺ってそんなモテ野郎なの?
さすが夢。非現実感ハンパねぇわ。ラスボス聖女を含めた複数人の女(多分ソフィーさんの口ぶり的に少なくとも三人以上だ)を侍らせるとかどんなハーレム主人公だよ。
……まぁいい。まぁいいさ。夢ってそういうもんだしな。
設定がどれだけぶっ飛んでいようと、所詮は脳が作り出した幻。
とやかく言うつもりはないよ。
だけど夢とはいえ、俺にも譲れない一線があるんでね。
ソフィーママには悪いけど、ここは正直に行かせてもらうぜ。
「俺の一番は」
「あっ、待って。今違う方の名前言おうとしたでしょう。もうっ、今日のボッ君は変です、おかしいです、いじわるですっ」
頬をぷぅっと膨らませて、拗ね出すソフィーママ。
あっ、可愛い。
なんか俺の知ってるソフィー
「『さんじゃないみたいだ』? 何を思(い)ってるんですボッ君? …………まさか」
急にシリアスな顔つきになったアイドル聖女ママが俺のほっぺたにぴたっと手を当てて、視線をねっとり合わせてきた。
「ふぅん。へぇ、そういうことですか。縦軸か横軸かは測りかねますが、このボッ君は混線しているみたいですね」
「あのっ、ソフィーさん? 一体どうされました?」
「いいえ。なんでもありませんわ。それよりもボッ君、そのまま顔を近づけて」
「えっ? いや、でもこれ以上は……んっ」
そこから先の事は覚えていない。
口づけを交わし、なんか流れでお互いの肌着を脱がせようとした
最高のタイミングで、頭に靄がかかり
そして
◆
「愛してますわ、わたくしのボッ君。どうか遠い世界のあなたにも、この一時の記憶が残りますように」
◆◆◆
目を覚ますと、俺はベッドの上で横になっていた。
当然ながら隣には誰もおらず……いや、可能性としては俺の彼女が勝手にベッドに潜り込んでいた的な展開は十分あり得るんだが、なんだろうものすごくモヤモヤするというか落ち着かないというか。
『おい相棒、今日の俺やたらと調子が良いんだが』
またふかしやがってと股間の第三人格を覗くと、驚くべき事にやつは本当に調子が良かった。
彼女が隣にいない状態でここまで快調なのはいつ以来だろうか?
もしかしたらアレが治ったのだろうか。だとしたらとってもハッピーなのだが。
そしてしばらく部屋でボーっと過ごし、色んな物を落ち着かせた俺は顔を洗いに洗面所へと出かけた。
部屋を出て、廊下を歩き、階段を下りて、目的の場所へ向かう。
その途中で、寝起きの聖女様とはち合わせたので、俺はゆるーい口調で朝のあいさつを口にした。
「おはようママ、懇親会お疲れ様。どうだった? 良く眠れた?」
「あっ、おはようございます。凶一郎様。はいっ、とってもぐっすり眠れました」
「そいつは良かった。んじゃあ、俺ちょっと顔を洗ってくるか」
そこで俺はとんでもない言い間違いに気づいてしまった。
ママって。
いやママって。
「あっ、あのっ違うんだソフィーさん。これは本当に寝ぼけていただけというか他意はなくて」
「大丈夫ですよ、凶一郎様。こういう間違いは誰にだってありますし、気に病む必要はございません」
キラキラと輝く謎の粒子を飛ばしながら俺の頭をなでこなでこと撫でまわすラスボス聖女。
自分の事をママと呼んできた気持ちの悪い男に対して、ここまで優しく接してくれるなんてやっぱりこの子は聖人だ。
あーもう、聖女マジ聖女
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※本エピソードの投稿日は四月一日です。
本エピソードの投稿日は四月一日です。
本エピソードの投稿日は四月一日です。
しかしだからといって完全なる『虚構』と断じる事は致しません。
ただの夢か、四月一日か、もしもの可能性か、あるいは未来の時間軸か。
好きなように解釈して下さって構いませんし、それらは並列して存在する事ができます。
つまり聖女教の方は、このエピソードに意味を見出してもいいし、それ以外の方はエイプリールフール企画として笑い飛ばしてくれてオッケーと言うわけです。
というわけで選択投票二位入賞記念兼エイプリールフール特別企画でしたっ!
ソフィーさん、二位入賞おめでとうっ!