今はオリックスの若手とキャンプ中だ。
フロリダのトレーニングセンターを貸し切って、地獄の筋トレタイムが始まっている。若手たちは特製メニューに悲鳴を上げながら、次々と潰れていく。
俺はその光景を、トレーニングルームの片隅から眺めていた。
先輩と女子アナが俺を巡ってプロレスのような口論をしているのを横目に、漫画を開く。
高校の同期で今オリックスにいる奴が持ってきてくれたものだ。
どうやら、俺をモデルにしたキャラクターが出てくるらしい。
月刊誌に連載中の『かっとばせ!キシハラくん』という野球漫画。
そこには“謎のメジャーリーガー・ショウナイ君”が登場しているという。
なぜか今は無いハンキュウ軍のユニフォーム姿で、キシハラやクワハラをいじめる悪役らしい。
イケメンだけど裏の顔はサイコパス、キョジン軍を目の敵にしている――そんな設定だ。
作中ではフェアプレーを謳いながら、相手チームに毒を仕込んだり、マウンドに地雷を埋めたりしている。
……ひどい。
心優しい俺をサイコパス扱いするなんて。
俺ほどサイコパスという言葉から遠い人間はいない。地元でも親想いで通っているしな。
それに、この漫画では桑原の「宿敵」みたいに描かれているけど、実際は結構仲がいい。
この前も日本のテレビ局で偶然会って、挨拶したら会釈を返してくれた。
あれは確実に友情のサインだ。
ページをめくると、物語はさらに暴走していた。
手下の女性ファンを扇動して、水道橋の某ドーム球場を爆破してアメリカに逃亡――という展開だ。
ちなみに、俺が登場するこの回は単行本に収録されない幻の回になったらしい。
出版社に俺のファンから抗議や脅迫が殺到したそうだ。中には作者の家に押しかけた奴もいたとか。
全く、過激なファンには困ったものだ。
俺はこれくらいの描写では全然気にしていない。むしろ笑って読める。
それにしてもファンの暴走には困ったものだな。
一応パソコン通信でファン向けのブログは書いているけど、メイン層の女の子たちには届かない。
双方向でやりとりできる仕組みがあればな……。
「なんかSNSでも作ってみるか」
そう呟いて、技術担当に電話をかけてみた。
今の時代の技術でできるかどうかはわからない。でも、きっと面白いことになる。