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リクエストよりショートショート「桜庭見廻隊のお酒事情」


夜、見廻を終えた私_____鬼ヶ崎紅は、ソファーに倒れ込んだ。
「疲れた…」
いくら日々修練しているとはいえ、流石に見廻後には疲れる。
今夜は特に夢喰いが多かった気がしたし。
…見廻も強化しないといけないか。
「はぁ…」
気が重いなぁ…。
いくら好きで夢喰い狩りになったとはいえ、夜の見廻が増えることはあんまり嬉しくない。
「んんっ、駄目だ、ちゃんとしないと!」
私はガバっとソファーから起き上がる。
自分の頬を軽く叩いて、喝を入れた。
切り替えは大事だ。
今日の疲れは明日まで引っ張らない!
私は冷蔵庫を開け、奥から缶を引っ張り出した。
それからグラス。
ソファーに勢いよく座り、私は缶のプルタブを開いた。
_____プシュッ
小気味いい音を立てた缶の中身を、グラスに注ぐ。
その中身は、お酒だ。
スーパーで買った、安い白ワイン。
だが、夢喰い狩りの疲れを飛ばすくらいは、それで十分だった。
…桜庭見廻隊の隊員のうち、20を超えてるのは私と凪だけ。
みんなの前で飲むには、少し後ろめたかった。
だから、たまに訪れる、深夜に一人で飲める時間が好きだった。
「…っはぁ…」
美味しい。
特に私はお酒に強いわけではない。
むしろ、酔いは早いようだ。
だが、その分二日酔いにならない程度の量で止められるのは良いことだ。
…少ししか飲めないのは残念だけど。
少し回った酔いを楽しむようにグラスを回した時、階段の方から音がした。
「…紅?」
暗い二階から降りてきたのは、凪だった。
「どうしたの?こんな時間に」
私が尋ねると、彼は弱々しく笑った。
「いや…眠れなくてな。どうも目が冴えて。
紅、もしかして飲んでるのか?」
「うん、ちょっとだけ…だけどね」
私はグラスを揺らして見せる。
彼は私の直ぐ横に腰掛けた。
…そういえば、前に私が飲んでるのを凪が見た時、まだ凪19歳だったっけ。
「…ねえ、凪」
「なんだ?」
私は疑問を彼にぶつける。
「凪って、お酒飲んだことあるっけ?」
彼は少し首を捻るように考え込んだ。
「うーん…無いかも、しれないな」
「…じゃ、少しだけ…飲んでみる?」
私は缶を指差した。
一つの缶を二人で分けて飲むわけだし、私が飲みすぎないように見ておく。
凪だってもう20歳だ。誰かの呑み会に呼ばれてもおかしくない年齢。
その前に、一度練習として少しだけ飲んでみた方がいいんじゃないかな?
彼は少し驚いたようだったが、笑って頷いた。
「…分かった。飲んでみる」


_______5分後。


…凪がお酒に強いだろうとは思っていなかった。
なんか弱そうだなぁ…と思ってはいた。
だけど…だけど…!
「これはないでしょ…!?」
私の直ぐ横では、凪がうたた寝している。
…彼が飲んだのは、グラス4分の1にも満たないワインだけ。
しかも、それも別段アルコール度数の高いものじゃない。
「こんな酔うもんだったっけ……?」
ワインちょっとでここまで酔った人、初めて見たわ。
「ん…?なんかいったぁ…?」
彼が私を見上げてふにゃりと笑う。
普段の硬い表情が嘘のような、無邪気な笑み。
…凪の泥酔ぶりを見てたら、こっちの酔いが覚めてしまった。
はぁ、と私はため息をつく。
「…凪…寝よっか、もう。部屋まで歩ける?」
「あるける…」
…これじゃ、子供と変わらない。
片付けは彼を寝せてから私がすればいいか。
「ほら、立って」
「…」
眠い目を擦る彼をどうにか立たせる。
「……な」
彼が突然、私に身を預けた。
重みで倒れそうになるのを、なんとか堪える。
「えっ…ちょっと凪…」
彼の顔が私の肩に預けられ、まるで抱かれているかのような格好になった。
「ありがとう、いつも」
彼がはっきりとそう言った。
「え…え……?」
困惑する私を見て彼が柔らかく笑う。
そして、部屋に向かって歩き出した。
さっきまで泥酔してたと思えないほど確かな足取りで。
「…ちょ…凪…?」
今の酔ってたの…もしかして…演技だったの…?
しかし、彼はそのまま部屋に帰ってしまった。


* * *


「…ねぇ、凪。昨日のこと覚えてる?」
翌日の朝、眉間を押さえながら起きてきた凪に、私は尋ねた。
昨夜の「ありがとう」。
あんな言葉を恥ずかしげもなく言えるほど、凪は可愛くない。
あの言葉の真意を確かめたかったのだ。
しかし、彼は眉を顰める。
「…なんのことだ?
昨日飲んだ後の記憶がなくて…」
そう言って彼はもう一度眉間を押さえた。
まさかの記憶なし!?
記憶ないくらい泥酔した状態であんなこと言ったの!?
そんな発言に昨夜悶々としていた自分が馬鹿らしくなる。
八つ当たりだと分かっていたが、私は頬を膨らました。
「もう…凪の馬鹿っ!」

☆ ☆ ☆

以上、リクエストからでした。
こんな感じでリクエストに答えていきますので、どんどん下さると嬉しいです〜!
ちなみに個数制限ないのでご安心を(笑)

3件のコメント

  • この2人の会話なんか好きです笑
  • ありがとうございます!

    この幼馴染の友達ともいえない恋人とも言えない不器用すぎるペアを描くの楽しいんですよね〜

    ちょっと本編の話の流れ的に筆者は泣きそうになってますが…( ; ; )
  • 追記です。

    この話書いてる時点で、僕はお酒飲めませんw
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