「わ、可愛い制服!」
「ふふっ、でしょう? どう、莉緒? 気に入った?」
「うんっ」
俺たちのクラスからの初等部進学率は六割を超えた。
定員自体が増えるし、外部からもかなりの数が入ってくるとはいえ、これだけ顔見知りが多いのはなかなかない。
そういう意味でも内部進学を選んだのは良かったかもしれない。
進学と言えば、身に着ける制服も新しいものになる。
今までは「危なくないように」と、私服でもキュロットやズボン系が多かった俺。
しかし、小学校の制服はスカートである。
俺たちの通うことになる『私立天音学園』はゆるいものの西洋の宗教系。
制服も黒のシックなものだけれど、デザインはマイナーチェンジを繰り返されてだいぶ今風になっている。
新しい服、というのはそれだけでテンションが上がるもの。
制服ともなればなおさらだ。
前世では「着られればいい」と思っていた俺だが、女子の服はデザインの幅が広いし、四条莉緒の感受性の高さが胸をひとりでに躍らせてくる。
試着して鏡の前で一回転した俺を、父と母が揃って、満面の笑顔で見守ってくれた。
「どう? 気になるところはない?」
母に問われた俺は「うーん」と考えて。
「わたし、制服ってもっとぶかぶかだと思ってた。これで大丈夫?」
届けられた制服は成長を見越してある程度の余裕を持たせてあるものの、成長著しい小学生にはこれだと足りない気がする。
小学三、四年生くらいで着られなくなってしまいそうだ。
すると母は「それでいいの」と頷いて、
「小さくなってきたら買い換えればいいんだから。あんまり大きいと大変でしょう?」
ブルジョワか?
「パパ、ママ、お金とか大丈夫? うちの財政をひっ迫するようなら──」
「難しい言葉を知っているね。でも、心配しなくていいよ。可愛い娘に不自由させないくらいの蓄えはあるんだ」
「むしろ、莉緒はもっと甘えていいのよ? ぬいぐるみ、もっと増やす?」
二馬力は伊達じゃないということか。それとも、休日返上で頑張ってくれているおかげか。
ああでこうで、と、両親の給料(想像)から計算してみようとするも、しょせん、新卒で就職する前に死んでしまった俺にはそこまでがっちりしたシミュレーションは無理だった。
「これ以上増やしたらベッドが埋まっちゃうもん。あ、それならわたし、小学校に入ったら習い事したい!」
「習い事?」
「それはもちろん構わないというか、莉緒が興味を持ったものを薦めるつもりだったけど」
お嬢様と言えば習い事である。
お茶とかお花とかピアノとかすらすらと複数の特技を口にできるくらいでなければお嬢様キャラとしてはだめだめだ。
まあ、茶道とか華道が役に立ってるところはほぼ見たことがない──やめよう、意欲が削がれる。
「例えば、どんなことをやってみたいの?」
参考までの聞き取りということなら、ひとまず遠慮なく言ってみよう。
俺は思いつくままに「お茶でしょ、お花でしょ」と指折り。
「日舞に、ピアノに、バイオリンに、水泳に、バレエに、裁縫……あ、フィギュアスケートとかも面白そう!」
好き勝手に並びたてられた数々に、両親はさすがに青くなった。
「あ、あのね、莉緒。そんなにたくさんは通えないから、いくつか選びましょう?」
「そうだね。あと、その、バレエとかスケートはさすがに費用が大きいかな……?」
「うん、大丈夫。言ってみただけだから」
俺としてもこれ全部習えるとは思っていない。
そんなスケジュールをこなせるとしたらそのヒロインは化け物である。
……いや、マンガとかだとわりといるな、その手の化け物。
と、神様の遣いが宿る黒猫のぬいぐるみにこぼしたところ「君だって化け物みたいなものだろう」と指摘された。
「学校の勉強はある程度疎かにしても困らないし、語学はそれなりの実力じゃないか?」
「まあ、文系理系問わず高校卒業程度ならこなせるだろうし、英語とフランス語は大学でもわりとやったからな」
覚え直すというかおさらいの必要はあるが、そうか、それを利用すれば「語学が堪能」とは最低限言えるようになりそうだ。
「芸術系の才能もそこそこ上げていたし、ヒロインポイントを使えばバレエだのスケートだのにも適応できるさ」
「そういえば、余ってるポイントをそろそろ使っておくか」
れいかちゃんとの一件で溜まった3ポイント、みゆちゃんとの進路相談でもらった2ポイント、計5ポイントが俺の手元にある。
「でも、あれだよな。胸を元のサイズに戻すために多少はとっておかないとだよな」
現在、俺のバストサイズ(成人時点想定)はAAカップである。
貧乳お嬢様も清楚で捨てがたいものはあるが、どうせなら大きくありたいのが人情。そのほうが男への攻撃力も高い。
主人公が貧乳派だったら減らせばその時減らせばいい。
「高校入学くらいまでに戻せば十分だろう? それまでにまたポイントを稼げばいいじゃないか」
「まあな。じゃあ、とりあえずこの5ポイントは使ってしまうか」
考えた末、このうちの3ポイントは我が家の財政状況等を改善するのに用いることにした。
これは主に、母から「小学校に入ったら送り迎えをどうしましょうか」と相談を受けたからだ。
「朝、莉緒を送っていくのは大丈夫なんだけど、帰りにお迎えに行けないこともあると思うの」
「大丈夫だよ。わたし、電車もバスもちゃんと乗れるよ」
歳のわりにしっかりしているとご近所でも評判である。
胸を張って答えたものの、両親は不安そうに顔を見合わせる。
「世の中には悪い人もいるから、莉緒がついていかなくても、無理やり誘拐されるかもしれない」
「そうね。莉緒は可愛いもの」
さすがに大げさ、親馬鹿、と言いたいところだったが、もともと俺の容姿には(胸以外にも)ポイントが振られている。
少なくとも十人並の容姿からは飛びぬけており……ついでに言うと、この度割り振るポイントを1増やした。
なお、残りの1ポイントは前世の経験を活かしづらい運動能力に振っている。
「送り迎えだけでもお願いできる人を探しましょうか」
「人材派遣系のサービスにもちょうどいいのがあるかもしれないね」
今まで、幼稚園の帰りは園のバスで近くまで送ってもらえていたのでなんとかなっていた。
朝、ドライバーを頼んでいる人にそのままお願いできないか、などなど話し合い始める両親を見て「これはまたお金がかかるな」と俺は思った。
そもそも、今の四条莉緒は「庶民からすれば十分お嬢様」というレベルであって、親が二代続けて議員をしているれいかちゃんや、お父さんが小さいとはいえ病院の院長であるみゆちゃんに比べれば平凡。
もうちょっと家柄を良くしておいてもいいだろう。
というわけで、ヒロインポイントを使用して「母方の実家からの資金援助」が得られるようにし、家に「短時間のだけのちょっとしたお手伝いさん」が来てくれるように、おまけで父の仕事における活躍度合いを強化。
その結果──。
「四条家より派遣されてまいりました、雛瀬と申します。微力ながらお嬢様、旦那様、莉緒様の生活をお手伝いさせていただければと」
母の実家がけっこうなお金持ちということになった。
基本的に、我が家には過度な干渉を行ってこないものの、娘と、それから孫の生活には心配をしてくれているらしく、このたびこうして手伝いを派遣してくれることに。
ちょっとポイントを振っただけでも影響でかいな!?
俺はあらためてその事実を実感させられた。