鏡を覗きこむ。
「今日もお疲れ様」
鏡の向こう側から声がした。
「ねえ、そっちはどう? こっちはね、大変だったんだよ」
同じ顔をして、同じ瞳をした私が、そっと囁き返す。
「ねえ、そっちと交代しない?」
その誘惑は、ひどく甘く、滑らかに鼓膜を撫でる。
「こっちはね、夢の国だよ。なんでも自由自在だよ」
「あなたの思いが、全て手に入る世界だよ」
鏡の中の私は、慈しむような微笑みを湛えている。
「こっちに来たくて来たくて、仕方ないでしょう?」
否定できない私がいる。
鏡にそっと手を合わせると、指先から冷たい振動が伝わってきた。
私たちは、硝子一枚を隔てて、密やかに語り合う。
どちらが本当の「自由」を知っているのか、確かめるように。