道を歩いていると、足元に小さな金属の鋲(びょう)が埋まっていることがあります。
丸いもの。
十字が刻まれたもの。
色のついたもの。
見たことはあっても、気にしたことはない。
そんな人も多いと思います。
私もそうでした。
でも、ふと思ったんです。
「これ、誰が何のために打ったんやろ?」
調べてみると、道路や歩道などには、測量に使われるさまざまな標識があります。
土地の位置を決める。
高さを測る。
境界を確認する。
道路や建物を造る。
私たちが普段意識することのない足元で、こうした「点」が場所を測るために使われています。
そこで、一つの空想が浮かびました。
もし――
地図が現実を記録しているのではなく、現実の方が地図に合わせていたら?
そこから、この物語は生まれました。
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『七パラメータ』という物語
舞台は、大阪府堺市南区竹城台。
主人公は、41歳の宅配ドライバー黒田直人。
毎日、住所と地図を頼りに荷物を届けています。
妻のすず。
6歳の息子・吉良(きら)。
71歳の母・明美。
そして、8歳になるメスのチワワ、メルル。
そんな家族と暮らす、ごく普通の男です。
ある日の夕方。
仕事を終えた直人は、いつものようにメルルを散歩へ連れていきます。
昨日も歩いた道。
何度も歩いた道。
ところが、メルルが突然立ち止まります。
その足元にあったのは――
小さな測量鋲(そくりょうびょう)。
一見すると、どこにでもありそうな鋲でした。
ただ一つ。
中央に刻まれた印が、少しだけおかしい。
そして直人は、その鋲を見つけたあと、さらに奇妙なことに気づきます。
自分が立っている道路が、地図には存在しない。
道路は目の前にある。
車も走っている。
自分も、その上に立っている。
なのに――地図にはない。
それが、すべての始まりです。
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主な登場人物
黒田直人(41)
宅配ドライバー。地図や道路を毎日のように見ているが、測量については素人。
黒田すず(38)
直人の妻。
黒田吉良(きら・6)
直人とすずの息子。
黒田明美(71)
直人の母。認知症があり、ときどき昔の竹城台について、家族には理解できない話をする。
メルル(8)
黒田家のチワワ。メス。いつもの散歩道で、直人より先に「あの鋲」に気づく。
山崎明秀(41)
直人の同級生で幼なじみ。測量会社に勤める測量士。一枚の鋲の写真を見たことから、直人とともに奇妙な出来事へ巻き込まれていく。
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この物語で大切にしたいこと
『七パラメータ』では、測量や座標といった言葉が登場します。
でも、難しい専門書のような物語にはしません。
誰が、どこにいて、何を見て、何が起きたのか。
できるだけ簡潔に、景色が頭に浮かぶ物語にしたいと思っています。
そして、もう一つ。
各話の最後まで、油断しないでください。
「えっ?」
と思った瞬間に終わるかもしれません。
「このあと、どうなる?」
というところで終わるかもしれません。
そんな続きを読みたくなる物語を目指します。
最後に、この物語に残された言葉を一つだけ。
七点を、同時に測るべからず。
なぜ七点なのか。
何を測ってはいけないのか。
そして――
「七パラメータ」とは何なのか。
それは、まだ知らない方がいい。
二針無音(ふたはり・むのん)
それでは、第一話。
「そこに道はない」
から始めます。
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