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龍之介を見た

さっき温泉行って来た。早朝から山を歩いて汚れてくたびれていた。早朝から山を歩かなくても汚れてくたびれている。体重は54kgちょうど。一昨日から1.5kgも減っている。この摂取と排泄がダイレクトに反映される感じはマズい気もするが、病は気から。今年も健康診断はカレー食べます、じゃなくて華麗にスルーだ。馬鹿だからきっと長生きするだろう。頭がぽやぽやする。前に薄い髪をぱやぱやすると表現したアル中がいたけど、彼は元気だろうか?そういえば山で野うさぎが罠に掛かっていた。野うさぎの逃げ足は速くて罠にも掛かりづらいのだが僕をみて暴れても一定範囲しか動かないので見たら左後ろ脚に罠が掛かっていた。寂しいと死んじゃう仲間同士、うさぎさんLOVEな僕は外してやろうかと思ったけれど、きっと噛まれて右腕から細菌やら伝染病がまわり壊死して右肩から切断する未来が見えて近付けなかった。怖かった。かれの気魄が。僕はまだまだ追い詰められていない。
サウナから外で冷まして体を洗い内湯へ。体を拭いて脱衣所。着替えながら何気なく鏡を見た。色気づいている。髪、短い方が良いですよ、と女性に言われた。これを僕は女性にポメラニアン、もとい、褒められたと曲解している。髭も剃った。うん、さわやか。その時。
左隣の鏡に龍之介を見た。年の頃は僕とおんなじくらいだろうか?教科書で見た、または太宰が写真に写る時いつも真似したあの芥川だ。芥川は老けているから、20代かもしれない。頬は痩け、しかし念入りにドライヤーを当てている。あのザンバラはああして作ってるのか!僕はドライヤーをかけない。キューティクルに配慮してるわけじゃないけど、まあそんなところだ。病的に頬のこけた龍之介がドライヤーを掛けている。
僕は考えた。ああ、かれは芥川を好きなんだろう。

あのう、芥川に似てますね

そう伝えたら喜ぶだろうか?それとも図星を突かれた恥ずかしさに怒り出すだろうか?そんな葛藤を僕に与えるくらい、かれの模倣は完璧だ。左足を上に組んだ座り方。ゆっくりしかし神経症みたいに完全乾燥を目指す念入りなドライヤリング。芥川だ。違いない。ならば髪を切れと言いたいが、そしたら芥川じゃなくなってしまう。それはきっとかれにとって死活問題だ。
ところで僕は、誰だ?太宰?いや、それにしちゃ可愛らし過ぎる。50過ぎても僕はかわいい。まいったぜ。芥川を真似する太宰がかわいいように、いや、僕は模倣すら出来ないオタンコナスだ。ドンタコスだ。目先に追われてるのは僕だ。誰かの模倣すら満足に出来ずに西へ東へ南へ北へ。目をまわして眠る毎日。気味が悪い異形。だからこそ成し得る偉業は霧の彼方。誰の瞳にも映らず、自分ですらわからない。

ねえ、僕はここに、生きてるかい?

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