「エリーゼのために」という、ベートーヴェンのピアノ曲があることは多くの人が知っていることだと思う。
私の記憶の中のあの曲は、ピアノを少し弾ける小学生がこぞって弾く曲……弾き終わった途端すごいっしょと言いながら立ち上がる、というイメージがある。とにかく、ピアノ曲の中でもとても身近な曲なのではないかと思う。今回の「エリーゼを差し置いて」ではこの曲を中心にして物語を組んだ。
曲でも小説でも絵でも、「あなたのために」と創作を捧げられることは貴重なことだ。このイマジネーションの産物のことを、あなたはきっと気に入る。そう考えながら作りては編むわけで、そこには作り手と受け取り手の強い信頼がある。
今回の「エリーゼを差し置いて」が気に入ってくださる方がいれば、「5つ数えれば君の夢」という映画を見て見てほしい。二人がいるから。私はあの映画が好きだけれど、その先、彼女らがあの文化祭を振り返って何を思うのかが気になった。だから同じような感情を持つほんちゃんと阿賀野を書いた。
山戸結希という映画監督は女の子を表面化しない。だから好き。
あの頃のあなた、という記憶の楔から解かれて、次はどこへ行こう。