お稲荷さんといえばコックリさん、と言う事で。
朝野川稲荷の典刹の短いホラー小説版です。
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天さん、天さん、傘貸しましょう
天さん、天さん、雨音するよ
橋の真ん中、影二つ
天さん、天さん、傘差しましょう
天さん、天さん、お願い聞いて
橋の真ん中、影一つ
ぽつぽつ、ぽつぽつ、雨粒数え
ぽつぽつ、ぽつぽつ、お願い聞いて
「コックリさん、ってやつだろそれ。本当にやんの?」
「やろうよ。オカ研として見過ごせないっしょ」
夏休みに入ってから少し経った頃、亮太からメッセが届いた。俺と亮太は高校でオカルト研究部に所属しているメンバー同士で、話も合うことから一緒にいる事が多かった。
「肝試し企画、結局無しになったからさあ。もう暇で暇でしょうがない訳よ」
オカ研がこの夏休みの期間に行おうとしていた、複数の廃墟を巡る肝試し企画はどこからか情報が漏れてしまい、普段はこちらの活動に無関心な顧問からお叱りを受け計画はポシャった。
「そんな時にコレが出てくるなんてさ、まさしくお導きってやつ!」
亮太の実家の蔵から、古いボードゲームのようなセットが出てきたらしい。正確にはそれはボードゲームではなく、木箱の中に橋の模型とサイコロが三つ、人形が二つ、童歌の様な歌詞が書かれた紙が入った、所謂降霊具だった。正しい手順が分かるのか尋ねたところ、亮太からの返答はこうだった。
「こーゆーのは雰囲気でやるもんだろ。むしろその方が安全じゃね?本当に来たら怖いし」
肝試し禁止のお触れが顧問からでている中、夜の学校に忍び込むのは難しいという事で、昼間に部室へ集合することにした。
夏の日差しがカーテンのない窓から降り注ぐ。亮太は机の上に蓋を開け広げた状態の木箱を裏返して置く。箱の裏には川の絵が描かれていて、おそらくそれを跨いだ形で橋の模型を置くのだろう、と亮太は言った。あとは童歌の歌詞にある通り人形を橋の真ん中に置き、用途の分からないサイコロは適当にそばに置いておく。
「えっと、じゃあ、歌うか……」
男子高校生が二人してコックリさんっぽい歌を歌うのはなんだか気恥ずかしい。真剣にやれる筈もなく、モゴモゴ言いながら適当に歌詞を読み上げる。
天さん、天さん、傘貸しましょう
天さん、天さん、雨音するよ
橋の真ん中、影二つ
天さん、天さん、傘差しましょう
天さん、天さん、お願い聞いて
橋の真ん中、影一つ
ぽつぽつ、ぽつぽつ、雨粒数え
ぽつぽつ、ぽつぽつ、お願い聞いて
部室が急に暗くなる。窓の方に目を向けると、先ほどまで晴天だった空が漆黒の雨雲に覆われていた。雷が鳴ったと思ったら、次の瞬間ものすごい勢いで雨が降り始めた。
「やばいな雨。傘持ってきてねえわ」
亮太から返事がないのを不思議に思って視線を戻す。
亮太の目は橋の模型ではなく、適当に机の上に置いたサイコロに釘付けになっていた。三つあるサイコロは、誰も触っていないのにクルクルと回転している。
「お、お願い。お願いしようぜ、なあ」
亮太が興奮気味に言う。
「いやお前。やめとけよ、なんか、やばいって」
「でもほら、お願い聞いてくれる系のコックリさんならすげーよこれ。こんなチャンス滅多にないって」
どうしよう早く決めないと、と亮太はブツブツ独り言を言う。
願いを叶えるって、そんなの叶えた後にしっぺ返しがくる系の怪異に決まってる。オカ研に入るくらいそっち方面の知識があるはずなのに、こんなお決まりパターンで地雷を踏むなんて普段の亮太ならありえない。もう既に何かしらの怪異に取り込まれそうになっているのか。
「そんなうまくいく訳ねえだろ」
「んだよ邪魔する気かよ?お前そう言うとこあるよな」
突然亮太の語気が荒くなる。
「俺が必死に練ってた肝試し企画のこと原先にバラしたのお前だろ」「いつも俺を便利屋扱いやがって」「後輩ちゃんたちにキャーキャー言われてっからって調子乗んなよ」
もうこちらの言葉に耳を貸す様子はなかった。亮太は延々と自分への恨み嫉みを捲し立てる。その間もサイコロはクルクルと回り続けていた。
「……決めた」
急に静かになった後、亮太はボソリと呟いた。
「俺の、願いは」
窓の向こうの雨の勢いはどんどん酷くなる。
「お前が」
激しい稲光が薄暗い部屋を強烈に照らす。
亮太の感情のない目がこちらを見据えていた。
「亮太……」
「なんつって!はいガチビビりいただきました!」
「……は?」
亮太は呆けている自分の顔を見て、こみ上げる笑いを抑え切れない様だった。
「どう?それっぽかっただろ。取り憑かれた奴みたいな演技してみたかったんよ」
あー面白かった、と亮太はあっけらかんとしながら机の上に広げた降霊具を片付け始める。
「お前、ふざけんなよ。冗談キツいわ」
「悪かったって。肝試しより効いたろ」
ふと、橋の上の人形が一つ減っていることに気がつく。それを亮太に言う前に、さっさと箱に仕舞われてしまった。残されたサイコロの目は8、1、4の面を上にして止まっている。
「……本当に知らないんだよな?この道具の使い方」
急に不安になって、俺は亮太に尋ねる。
亮太はこちらを見ないまま、片付ける手を止めずに頷く。
「知らない」
いつの間にか外の雨は止んでいた。
ねえ聞いた?オカルト研究部の生徒が川で溺れて死んじゃったらしいよ
聞いた聞いた!クラスのグループメッセで流れてきたもん
呪いだとかなんとか言ってた
部室でやばい降霊術しちゃったんでしょ?
まじで手出す奴いるんだ
オカ研ならそんなやばいことしないでしょ普通
いや、知っててやったんだって
殺したいから、やったんだって
いや怖。そんなん絶対やった側も何かあるでしょ
そう、だから、
呪った側も今、行方不明らしいよ