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『失いたくないモノなど、そうは無い。 ……――そうだろう? 蓮──……』
――“我が主は世界を潤す、無限の雨の如し。
我は天に届かぬ、鼬の王。
主の潤す世界の中で、時に貴方が降らせた雨の餌食──
貴方の掌の中で抗うも、未だこの牙は届かず。
我は小さき世界を駆ける。
貴方に突き落とされた先の、泥水にもがきながら。
──そこで瞳をひらけば、泥水に咲いた、蓮の華。
“なんて美しい事だろう”。
貴女こそまさに、その名の通りの泥中の蓮 。
哀れ貴女は、泥水にしか咲けぬ華──
貴女がこの手を取ったのは、私が汚れた世界の泥水であったから──
貴女がこの手を放したのは、都合よく扱えば良かっただけの泥水を、そうだと割り切る事が、出来なかったから──
この手を離れ、無惨に手折られた、蓮の華。
─―華も咲かぬ泥水に、再びもがくだけ。
王は空にも届かず、沈むだけ。
──世界は変わりはしない。 戻っただけだ。 嘆きはしない。
そこに一輪の蓮が、咲いているのか、いないのか、それだけで、見える景色だけは、天と地ほどにも、変わったとしても──
見渡す限りの泥水の景色から、一輪の蓮が消えたなら、これ以上は何が消えようとも、気に病む事は何も無い”――
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※【今宵は瞳をとじて × 愛していると囁いて ─完結編 Ⅱ ─】より🪷