私は小学5年生のころから、ずっと本に飢えています。
面白い物語を読み終えると、満足すると同時に、次の一冊が欲しくなる。もっと知らない世界を見たい。思いつかなかった問題と、その解決を読みたい。その飢えが、今も続いています。
異世界転生、日本の歴史をやり直す内政もの、恋愛もの。おなじみの題材が並ぶ中で、今の私は、もっと違う場所へ連れていってくれる物語を求めています。
地球には、まだまだ未知の魅力が詰まっているはずです。
私が知らない歴史、暮らし、技術、社会の仕組み。その一つひとつに、読んでみたい物語があります。
読みたいものが見つからないなら、
誰も書かないなら、私が書く。
それが、この作品を始める理由です。
本作も、転生を入口にしています。その先で描きたいのは、17世紀末の西アフリカを舞台に、鉄と水と金、そして人の働きによって、社会の進む方向を変えていく物語です。
舞台は1698年、黄金海岸。
海辺ではヨーロッパの商人が帳簿を広げ、内陸では王や長老たちが、土地と交易路をめぐって争っている。銃を買うために捕虜を売り、その銃で次の戦いを始める。人を失いながら、武器を手に入れなければならない世界です。
そこへ、一人の技術者が放り込まれます。
工藤孝介、享年52歳。
前世では材料工学と土木施工を専門とし、海外の現場で、限られた資材と人員からインフラを立ち上げてきたプロジェクトマネージャーでした。
目を覚ました場所は、オランダ西インド会社のエルミナ城。
身体は、内陸の小部族から人質兼書記見習いとして送られた青年、クワメのものでした。
彼が王や商人に持ちかける話は、具体的です。
その捕虜を売れば、いくらになるのか。
土地を耕させれば、何年分の収穫になるのか。
銃を買い続ける代金で、炉はいくつ建てられるのか。
人を失った村から、来年はどれだけ税を取れるのか。
クワメは、利益の計算を通して、人々の判断を動かそうとします。しかし、目先の利益を失う者も、昨日までの敵を隣人にしたくない者もいる。帳簿の上で答えが出ても、交渉はそこから始まります。
最初の一歩は、密林を流れる川に水車を架けること。
水の力で槌を動かし、土を選んで煉瓦を焼き、鉄を鍛える。道を通し、食糧を運び、職人の仕事をつなぐ。雨季が来れば資材は届かず、炉が止まれば約束した武器も作れない。それでも、一つの設備が動き出すことで、村にできることが増えていく。
やがて工房は開拓村を支え、村を守るための砦が必要になる。鉄と金をめぐる取引は、アシャンティの王、沿岸の商館、海の向こうの利害へとつながっていきます。
この作品で挑戦したい新しさは、西アフリカという舞台と、冶金・土木・農政・兵站・会計を結びつけ、その土地で暮らす人々の選択を描くことです。
水車の仕組みだけでなく、誰が建て、誰が使い、誰が利益を得るのか。捕虜に土地を耕す権利を与えたとき、村や軍や王の立場はどう変わるのか。一つの技術が、生活と権力と交易に及ぼす影響を追っていきたいと思っています。
鉄の扱いを料理にたとえ、炉の工夫を陶芸になぞらえながら、現場の会話と試行錯誤を描きます。また、商館員、捕虜となった戦士、王の視点からも、同じ変化が違って見える様子を描いていきます。
全五篇、120話規模の長編を構想しています。
第1話のタイトルは「エルミナ城の帳簿」。小さな工房から、開拓村、要塞、海上交易へと広がっていく歴史改変の物語です。
まずは、読んでくださった方に「面白い」と思ってもらいたい。
そして、できることなら、誰かがこの作品を読んで「自分も、こんな場所や題材で書いてみたい」と思ってくれたらうれしいです。別の土地、別の時代、別の技術から、新しい物語が生まれる。その積み重ねが、いつか一つのジャンルになるかもしれません。
そうなれば、本に飢えている私にも、また読みたい作品が増えます。
密林に最初の水車が回るところから。
この長い物語に、お付き合いいただければ幸いです。