教国の剣29話のifルートです。BLです。
覚悟ができましたら↓へどうぞ(´・ω・`)つ
シードは静かに目を閉じていた。イリューフェの手の温もりに、そっと身を委ねるように。
亡霊である彼女の手。冷たいはずなのに、まるで生者のように温かく、シードの凍えた心をそっと溶かした。
長い戦いの傷跡が刻まれた肌に、彼女の指が優しく触れ、失われたぬくもりを呼び起こす。
背後では、アダンや僧兵たちの亡霊が穏やかに微笑んでいた。彼らの顔は、戦いの果てに得た安息を湛え、懐かしい光を放っている。
その光景に、シードの心の奥底で凍りついていた「感情」が、微かに息を吹き返した。
イリューフェの指が彼の頰を撫で、柔らかな吐息が首筋に触れる。
「……僕は、ここで終わるのですね」
シードは小さく笑い、目を開けた。冷たい銀の瞳に、ほんの一瞬生気が宿った。
「感謝します、イリューフェ」
イリューフェは優しく微笑み、彼の手を強く握り返した。彼女の瞳は、まるで母のような慈愛に満ちていた。
「さあ、シード殿。もう無理をする必要はない。こっちへ来るんじゃ」
その言葉に導かれ、シードは力を抜いた。彼女の手の中に身を預けると、身体がふっと軽くなり、痛みも苦しみも遠ざかっていった。
戦いに明け暮れた人生で初めて味わう、静かな安らぎだった。
「ようやく……少しだけ楽になれる気がします」
穏やかな笑みを浮かべ、シードは目を閉じた。感情を失った青年の顔に、柔らかな表情が広がった。彼の魂は、死の世界へと静かに溶けていく。
――はずだった。
だが、その平穏は長く続かなかった。シードの魂が深い眠りに落ちた瞬間、死の領域に異変が走った。安息の地を切り裂く、血のように赤い魔力が幕を裂く。
眩い光と共に現れたのは、忌まわしい死霊術の力だった。
「……何じゃ?」
イリューフェが眉をひそめ、異変の源を睨みつけた。裂け目から伸びた魔力の手が、シードの魂を容赦なく掴み、引きずり出そうとしていたのだ。
「誰じゃ……? 何をしておる!」
彼女の声が響いたが、魔力の手は止まらない。イリューフェは即座に悟った――ハイレンスだ。彼が禁忌の死霊術に手を染め、シードを現世へ無理やり引き戻そうとしている。
「……くっ……戻れぬ者を、無理に引き戻すというのか!」
イリューフェはシードの手を離すまいと力を込めたが、ハイレンスの魔力はあまりにも強大だった。
「シード殿! を覚ますでない! このままでは……!」
だが、シードの魂はハイレンスの力に引かれ、死の世界から遠ざかっていった……。
* * *
赤黒い祭壇の上に、シードの亡骸が横たわっていた。
祭壇を囲む冷たい石の床には、無数の命を貪った魔法具が血を滴らせていた。ハイレンスが掲げるその道具は、死霊術を再現する呪われた機械だった。
薄暗い光の中で、彼の顔には狂気と執着が浮かんでいた。燭台の炎が彼の影を長く引き伸ばし、部屋の空気を重く淀ませている。
「よく戻ってきましたな、猊下……いや、我が忠実なる亡霊のしもべよ」
ハイレンスの冷たく嘲る声が、祭壇の間に響き渡った。シードの遺体がゆっくりと動き出し、虚ろな瞳に生気のない光が宿った。
「……何だ、ここは……」
掠れた声が漏れた。死の世界の安らぎは消え、重苦しい現世の空気が彼を包んだ。冷たい石の感触が、魂の奥を凍えさせる。
「猊下……あなたの身体は永遠に私のものとなったのだ。もはや死の世界へ戻ることは許されぬ。ふははは!!」
ハイレンスの狂気に満ちた笑い声が響いた。
シードは理解した。自分が手にし、数多の命を冒涜した死霊術が、ハイレンスの手にも渡り、彼を現世に縛りつけたのだ。彼は今やハイレンスの命令に従う傀儡と化していた。
「そんなことが……」
シードの声に深い悲哀が滲んだ。ようやく取り戻した感情が、永遠の苦しみに変わる呪いのように感じられた。自業自得――彼がかつて犯した罪の報いだった。
ハイレンスの手が、起き上がろうとしたシードを祭壇に押し倒す。力ずくで黒衣を剥ぎ取り、青白く引き締まった上半身が燭台の揺らめく光に晒された。
ハイレンスの目は執着に燃え、冷えた肌に迷わず唇を寄せた。シードの鎖骨に熱い吐息が触れ、ゆっくりと舌が這い、湿った痕を残した。肌の冷たさが、ハイレンスの熱い舌と対比し、シードの身体に奇妙な震えを生む。
「……うぅ……っ……」
感覚は死んでいるはずなのに、シードは本能的に呻き声を上げた。動かそうとした腕は、ハイレンスに手首を強く掴まれ、抵抗は無力だった。
冷たい祭壇の上で、彼の身体はまるで操り人形のようにされるがままとなっていた。
ハイレンスの指が胸筋をなぞり、ゆっくりと下へ滑り、肌の感触を味わうように撫で回す。シードの首筋に唇が押しつけられ、吸い付くような熱いキスが繰り返された。
「あぁ……彼女を思い出す……愛しきヒューメリアよ……はぁ……」
ハイレンスはシードの亡魂に母の名を重ね、舌を鎖骨から胸、腰へと這わせた。彼の指が冷たく滑らかな肌をなぞるたび、祭壇周囲の冷気が濃密になっていく。
シードの身体は死霊術の呪縛に縛られ、ハイレンスの欲望に操られていた。だが、虚ろな瞳の奥には、微かな抵抗の火がまだ燻っているようだった。
「くくく……抵抗しても無駄ですよ。あなたの身体も、感情も……全て私の意のままに動くのです」
ハイレンスの声は甘く、毒のように絡みついた。指がシードの胸からさらに下へ滑り、黒衣の残骸を完全に剥ぎ取った。
青白い肌は大理石の彫刻のように美しく、だが生きている者のものではなく、死と呪いの狭間に囚われた亡霊のものだ。
ハイレンスの熱い吐息が、冷たい肌に奇妙な熱を生み出す。シードの腰に手が回ると、強く引き寄せられ、二人の身体が密着した。
ハイレンスの唇がシードの耳元を噛み、首筋を舐め上げ、湿った音が部屋に響いた。
「やめ……っ……ぁ……」
シードの声は弱く、掠れていた。感覚は鈍っているはずなのに、ハイレンスの指や舌が触れるたび、身体が微かに震えた。
なんとか引き剥がそうともがくが、抵抗の意志は魔力に霧のように溶けていく。ハイレンスの指がシードの内腿を撫で、ゆっくりと奥へ進み、欲望の熱がシードの冷たい身体を侵食した。
シードの息が乱れ、呻きが漏れた。
「ふ……ッ……く……」
「やめる? ふふ、猊下……あなたはもう私のもの。拒むことなど許されませんよ」
ハイレンスの唇がシードの首筋に触れ、舌がゆっくりと這った。動きは慎重で、まるで獲物を味わう獣のようだった。
シードの身体は冷え切っているはずなのに、ハイレンスの熱い吐息が触れるたび、微かな震えが走る。
ハイレンスの指がさらに深く入り込み、甘い吐息が漏れた。
「ヒューメリアの面影……あなたのこの肌、この香り……」
ハイレンスの声は夢うつつのように甘く溶けた。彼の指がシードの顎を持ち上げ、虚ろな瞳と狂気に満ちた瞳が交錯する。
ハイレンスの唇がシードの唇に重なり、冷たくも熱い接吻が交わされた。シードの身体は一瞬硬直したが、すぐに力が抜け、ハイレンスの腕の中に沈んだ。
舌が絡み合い、湿った音が響き、ハイレンスの熱い息がシードの口内を満たした。
シードの指が無意識にハイレンスの背に回り、抱きしめるように絡みつく。
「は……っ……ぁ……」
シードの喉から漏れる声は、拒絶とも受け入れともつかない曖昧なものだった。ハイレンスは満足げに微笑み、指をさらに大胆に這わせた。
死霊術の呪縛と彼の欲望が交錯する中、シードを完全に支配しようとしていた。ハイレンスの身体がシードに覆い被さり、熱い肌が冷たい肌に密着した。
指がシードの敏感な部分を刺激し、身体が震え、甘い喘ぎが漏れた。
「ッ……ぅう……!」
「これから永遠に……はぁっ……猊下……あなたは私のそばで、私の愛を浴するのです。さあ、何もかも、私に委ねるのです……ふははははっ……」
燭台の炎が不気味に揺らめく中、シードの抵抗の意志は薄れていった。ハイレンスの唇が再びシードの唇を奪い、舌が深く絡み合う。
シードの銀の双眸は、ハイレンスの狂気に染まり、虚ろに微笑んだ。死霊術の呪縛が彼の心を完全に支配し、もはや生前の記憶も薄れていく。
いや、果たしてこれは死霊術の力なのか。それはもう誰にもわからない。
祭壇の闇の中で、二人は一つとなり、外界の光は届かなくなった。ハイレンスの熱い息とシードの冷たい肌が溶け合う。
ハイレンスの笑い声が静かに響き渡った。シードはただ、ハイレンスの腕の中で、甘い闇に溶けていくだけだった。
何人にも邪魔のできぬ、永遠の屈服の始まり――それが二人の運命だったのだ。