『ファントム・クロウ~転生者の娘~ 第三部 It's a Woman's Woman's Woman's World』にお付き合いいただき誠にありがとうございます。この部を以てファントム・クロウは終了となります。

作品解説

 サハウェイの最期を書き終えた時、パズルのピースがすべてはまったように感じた。ここに至るまでの道のりだったと思う。そして振り返るに、やはり第三部はサハウェイの物語だったのだと。

 構想のきっかけは些細なものでした。第一部「姿なき墓標」の各章の題名を過去の名曲から引用していたのですが、その中でジェームズ・ブラウンの「It's a Man's Man's Man's World」を題した章を作ろうとして「いや、出てくるのは主人公をはじめとして女だからな」と思いなおし「じゃあIt's a Woman's Woman's Woman's Worldだな」という題名を考えたんですが、しかしそんなにwoman成分も多くはないなということで、いったんアイディアを引き出しにしまっていました。
 そして第三部を執筆するにあたり、女主人公ど真ん中な題名をつけ、いったん休止にするにふさわしい部にしようと引き出しから引っ張り出したわけです(第二部はいったん休止にするには規模が小さい気がしまして)。
 さらに執筆するに際し、これもまた引き出しにしまい込んでいた、ファントム・クロウの短編をベースに構想を膨らませました。元々は街を支配するサハウェイと挑むクロウという簡単な物語だったのですが、題名に名前負けしないように話を膨らませたわけです。

 ファントム・クロウのベースにあるのは女性を中心としたハードボイルドです。しかし昨今、女性というものを言及するには袋小路に迷いがちです。多様性が訴えられる現代、女性特有とされるものも男性が持ってもいいではないかという主張が出てきます。その最たるものが『HUGっと!プリキュア』で話題になったセリフ、「男の子だってお姫様になれる」ではないでしょうか。今となっては可愛さも優しさも、女性特有のものではないということを端的に言い表したフレーズだと思います。そこで私は思いました。ならば逆だっていいじゃないか、すなわち「女の子だってクリント・イーストウッドになれる」という主張だってあってもいいのではないかと。男性特有とされてきた、荒々しく無骨で無頼で、時に下品であり頑固でありプライドが高くなれ合わず、そして顧みれらずに滅んでゆく者のわびしい美学、そんな古典的なハードボイルド像を女性を中心に据えて作り上げられたのがファントム・クロウでした。
 しかし、結局のところ本作はそこまでの反響はありませんでした。私の技量のなさ、あるいは時代がまだこのヒロインを求めていないのかは定かではありませんが、とりあえずフルラウンド戦って判定負けした気分です。自分の人生を前に進めるためにも、第三部をもってしてこの物語はいったん幕を閉じます。
 吟遊詩人とは、アンチェインとの因縁とは、クロウの修業時代に何があったのか、などなど明かされていない要素はいくつかありますが、まぁ、打ち切り漫画みたいなものだという事で。

人物解説

クロウ
 彼女を描くとき、たとえ女らしいとされる一面は必要なくとも、人間としての隙くらいは必要なのではないかと常に迷っていました。例えるなら、ルパン三世や『銀魂』の坂田銀時のように、主人公の抜けてるところを盛り込んで、けれど決めるときは決める緩急をつけたキャラクターにしなければ読者受けしないのではないか。そう迷っていましたが、三次元だとクリント・イーストウッド、二次元だと空条承太郎のような彼女にそんなものが必要だろうか。まずはど真ん中なハードボイルドヒロインを描き切ることがこの作品における自分の仕事ではないか、そう思い切り、クロウは一貫した軸のぶれない女として描きました。
 女のクロウが何でこんなに戦いに強いのかと言いますと、例えるとクロウはボクサー相手にボクシング対策を万全にしてきた総合格闘家みたいなものだからです。そしてもちろん相手のボクサーはボクシングしか知らないので、男女であってもクロウに有利が働くという事ですね。

サハウェイ
 上述したように、三部はサハウェイの物語でした。彼女の執念のエネルギーでこの部を描き切ったところがあります。
 彼女はクロウと表裏一体のコインのような女性です。クロウと似た境遇にあり、しかし男と同じ土俵で対等になることを選択したクロウと違い、女であることを武器にのし上がろうとしたキャラクターです。野心に身を焦がし、しかし虚しく敗れていく、そんな滅びの美学を体現させようと試みました。
 彼女の最期は何パターンか考えていて、クロウに斬られる案、ミラと手を組んでイリアを盛り立てる案、などがありました。しかしやはり当初の構想あってのサハウェイだと思ったので、あのような最期に落としました。
 人物造形としてのモデルはマドンナです。彼女の気質が悪役のものだったら面白いなと思っての発想です。
 外見上のモデルはシャーリーズ・セロンです。

ミラ
 上の二人に比べるとちょっとインパクトの弱いキャラクターかもしれません。何より、It's a Woman's Woman's Woman's Worldと三回womanが出てくるので、三人登場させなきゃなおさまりが悪いなくらいのノリで出したところもあります。
 しかし、ミラは三人の中でもっとも大事な強さを持った女性だとも思います。それは男女関係なく、誰かのそばに寄り添うことのできる強さです。愛する男ではなく、自分の子供でもない、突発的な善意を他人に示す女性。別役実の演劇論を読んでいた時に、こういった人物の解説を目にして心のポケットに入れていたものですが、上記の二人に匹敵するのはまさにこういった強さではないかと思い人物を練り上げました。誰かに受けた優しさは誰かに返す、そんな彼女のような人がもっといっぱいいれば、世の中素晴らしいのですけどね。
 人物造形はその演劇論もありますが、『ベルセルク』のルカ姉も入ってます。
 外見上のモデルはスカーレット・ヨハンソンです。

ブラッドリー
 実はテコ入れキャラクターです。サハウェイの物語が長編になるにつれ、サハウェイに武力を持たせてはキャラクターの方向性が変わってしまう事、またサハウェイの最期は複雑なものになるので、エンタメとしてもっと爽快感が欲しいなと思い登場していただきました。父性の狂気のような男です。彼の恐ろしいのは、捉えようによっては正論を吐いてるところですね。しかし、結局クロウもサマンサもどこか自己完結しており独善的なところがあるので、そういう意味ではヒーローとヴィランは紙一重なのだと思います。迷う者に正義は行使できないのですから。
 彼の武器はなかなか決まらず、忘れましたが何かVTRでふとみた従順な犬に狂気を感じ、ブラッドリーの人物造形にぴったりだと犬を武器にする神父、というキャラクターにしてみました。
 人物造形としてのモデルは映画『ブリムストーン』の神父です。
 外見上のモデルは、当初はボブのお絵描き教室のボブ・ロスだったのですが、途中から最近のメル・ギブソンに変わりました。メル・ギブソン、背は低いみたいですけどね。

クレア
 彼女の最期は迷いました。実は元々お竜とマリンと一緒に出発するのはリタにするはずだったのですが、何と申しますか、鬼畜な発想ですけど、失われることでミラが一番苦しむのはクレアだろうなと……。物語の必然性を高めるために、ええ、彼女にあの運命を迎えさせてしまったわけです。
 外見上のモデルはエミリア・クラークです。

お竜
 男性性に苦しんだ男、という立ち位置のキャラクターです。女装子さんの話とか聞くと、トランスジェンダーとかゲイではないのに女装をする人がいまして、その理由に男であることから解放されるという事があるらしいです。時に男は男であること自体に苦しみます。一度そういうものから離れてみるのもいいのではないでしょうか。そして本当に必要があった時、強制されるわけでなく、人はおのずとその役割を引き受けるのだと思います。最後に大切なもののために男であることを選択し、戦いに挑んだお竜のように。

ハスキー
 はい、テコ入れキャラクターです。元々スヴェンたちだけがやられる予定でしたが、アクション要素が前後に薄いなと思い登場させました。最初の登場だと噛ませ犬感ばりばりだったので、「ハスキーは噛ませじゃない!」と再登場させました。報われているのにそれに気づかず償いを続けるという、個人的には哀愁のあるツボなキャラクターです。
 外見上のモデルはハリー・ロイドです。

トリッシュ・ミッキー・リタ
 洋画でよく出てくる、おバカなサイドキッカーの三人組を女性版でやりたかったんです。
 トリッシュとリタには取り立ててモデルというモデルはいないのですが、ミッキーだけは『フルハウス』のキミーがモデルになっています。

ティム
 ブラッドリーとは違い、男性性の厭な部分を集めた男です。もっといろいろやれたと思うのですが、尺がね。厭なものをながながと読者も読みたくもないだろうと思いまして、そこまで深くは掘り下げませんでした。
 外見上のモデルは役所広司です。

ガロ
 当初はサハウェイの若いころの行きつけの飲み屋の店主に彼のポジションを任せていました。なり上がっていくサハウェイをそばで見ているという役割ですね。しかしこれも長編になるにつれ、造形に深みがあるキャラクターにする必要があったので、彼を再登板させその役割を担ってもらいました。男女の関係ではないけれどどこかでつながっている、そういう男と女になにか今風で言うところのエモさを感じる著者です。
 外見上のモデルはジェイソン・ステイサムです。……ファイザーとかぶっとるな。

サマンサ
 今回はベトナムの武術・ボビナムを駆使するサマンサです。クロウと違ってアクションが分かりやすいし多様なので書いてて楽です。クロウは剣術の描写が読者に伝わってるのかいつも不安になるので……。しかも殺っちゃうし。
 さて、彼女とクロウとの会話に、“かの組織”とか“あの一件”とか出てきますが、実は第三部は第二部との間に少し時間が空いています。時系列的には、二部、あの一件、三部となっています。“あの一件”は、ファントム・クロウの構想上、また別シーズンの話になりますのでちょっと飛ばさせていただきました。何より、おさまりがそのほうがいいということで。

 最後にご愛読いただいた皆様へ、連載中は本当に心強かったです。ハートを頂けるどころか、PVが一つ増えるだけで心が弾んでいました。皆様に可愛がっていただいたファントム・クロウは、大きな転機が訪れれば再開すると思います。
 その機会までしばしのお別れです。さようなら。