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第二部 あとがき

 『ファントム・クロウ~転生者の娘~ 第二部 生者に花束を、然らずば死者に約束を』にお付き合いいただき誠にありがとうございます。この話を以て一旦ファントム・クロウはお休みとなります。またのファントムの登場をお待ちください。

作品解説
 テレビシリーズ『ふたりはプリキュア』の最初期のコンセプトが「女の子だって暴れたい!」というものらしいのですが、このファントム・クロウのコンセプトはそれに習うところがあます。ずばり「女子だってハードボイルドしたい」というものです。表情ひとつ崩さずに荒野を行く無頼者、敵と見れば情けをかけず切り伏せて、生易しい友情に妥協せず異性の誘惑も袖にする、そんなハードボイルドの王道的主人公を女性でやってみようと試みたのが本作になります。そのため、女子だからといって恋愛要素だの女性特有の優しさだの弱さだのスキのある萌えポイントといったものを描くのも避けてあります。いい加減、それが女子の特有のものって時代でもないでしょう。なので、クロウの女性要素は「自分を女だと思っている」ことと「バーで男にからまれる」こと、そして「テストステロンが男性の平均値より低い」ということだけになっています。

 さて、第二部となる今回は、結構前回でやりたいことをやってしまったこともあり、ハードボイルド作品の王道というか、基本的な展開をあれこれ模索することから始まりました。そんな中、思い浮かんだひとつが「友との約束を果たす」という展開です。それもただの約束ではなく、身を危険に晒してまで守らなくてもいい約束であり、さらに存在するかどうかも危うげな約束で、下手をしたら果たしたところで徒労になるかもしれない、そんな約束を果たそうとすることこそがハードボイルドの王道的展開ではないだろうか、そう確信してプロットを練り始めました。そして物語のゴールは旅の結末に呆然と川辺の風景を見つめる主人公と友の忘れ形見、このシーンから逆算して今回の物語の執筆を続けてきました。実は当初の構想ではラストにおけるラガモルフの登場はなく、ジュナタルもないままに虚しく終わる、というものだったのですが、作者としてそれだと主人公に(今回も)厳しすぎるし、何より読後感悪すぎやしないかと思い、救いではないのですが、単純な虚しさよりも別の味わいや余韻を残すラストにしたわけです。ご都合主義と思われないかが不安でしたが、二十三時の少年さんのコメントで救われた感がありました。
 余談ですが、ラストにはジョー山中さんの「The Loner」を流しながら読んでいただくと雰囲気出ます。

登場人物紹介

クロウ
 Siaの『Alive』の歌詞を地で行くような主人公です。思い入れが強いせいでしょうか、この曲を聴いたとき「まんまやん!」と衝撃受けました。
 前回はほぼクロウの一人称で書かれていましたが、今回はひとつを除いて三人称になっています。理由としては、物語の構成上そうしなければ話を作れないことと、前回辛かったのですが、戦闘描写を詳しくすればするほど一人称だとクロウが「見えている」ことになり、結果として彼女が達人になってしまい苦戦する要素がなくなってしまうということがありました。ハードボイルド小説といえば一人称的なところがあるので、人称の問題はこれからの課題になると思います。
 彼女の剣術に関しては、今回も古武術や時代劇の殺陣やアクション映画を参考にしています。そして戦闘描写で違和感を持たれた読者もおられたかもしれませんが、戦闘シーンで改行が多い場合と全くない場合があります。これは、改行が多い場合は映画の『ボーン・アイデンティティ』シリーズのような、カメラワークが激しく切り替わるアクションを意識していて、逆に改行がない場合は時代劇やカンフー映画のような長回しのアクションシーンをイメージしていたりします。申し訳ありません、独りよがりですよね。

マテル
 ラガモルフはオリジナル獣人になります。マテルは前回ジュウクで上手くできなかった天然ジゴロを意識してみました。モデルというか甥っ子の所作を参考にしてるところがあります。物語の最後にクロウと合流しますが、ブラックジャックでいうところのピノコみたいなものだと思ってください。

レグ
 元々、兎獣人の気高き戦士みたいな感じで、鎧を着た兎のギミックを考えていたんですが、ファントム・クロウのアクションはリアリティ重視なところもあり、ウェイトカテゴリーを意識したら剣を持つ兎が強いわけがないということでこういう感じになりました。その後も、マテルとは血が繋がっていないものの奥さんの遺言で拾ったマテルを育てていたといった、普通の良い人設定を考えていたのですが、ちょうどドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の二週目を読み終えたあたりで作品に影響されて、人物の深みを出すためにああいった設定になりました。そして今回登場する三人の父親の中で、彼は“子によって救われる親”という役割を担っています。親から子へ与えるものもありますが、子が親へ与えるものも大変多いのではないでしょうか。

モーリス
 物語を盛り上げるためにはまずヴィラン、というエンタメ観があるので、この物語を本格的に執筆し始めたのはモーリスのキャラクターが固まってからでした。前回のバクスターとはまた違った趣の悪役にしなければならないので、バクスターがダークナイトのジョーカーだとして、今回は「サイコ」や「アメリカン・サイコ」のような闇を抱えた殺人鬼にしてみました。闇を描いてる途中に段々と可哀想になってしまったのが難点ですね。ちなみに彼とアリアのエピソードを執筆中に、夢で彼らの絡みを見てしまいました。もう大概です。
 外見上のモデルは「アメリカンサイコ」の時のクリスチャン・ベイルです。

ファイザー
 モデルはジェイソン・ステイサムです。声も専属声優の山路和弘さんの声で当てていただけるとしっくりくると思います。
 前回ああいう形でバクスターを退場させたのがもったいない気がしていたので兄を登場させました。弟のバクスターが最狂のゴブリンだったので、兄は最強のゴブリンにしてみました。彼の戦闘スタイルは松濤館空手や琉球空手の動きをモチーフにしていますが、文章だと再現が難しくて苦労しました。
 
ダッチ
 キャラクターのモデルはストリートファイターシリーズのバーディーです。鎖を使って戦うところとかそのままです。ゴブリンとバディを組むオーク、というギミックを思いついたので登場させました。彼が度々口にするアンチェインとクロウの因縁は……果たして書くのかどうか……。

ネス・ダニエルズ
 ハンサム、優しい、面白い、しかも王子という属性がそろってますが、父親が弱点というスキもしっかり備えています。金持ちで役人と、便利なキャラクターなのでまた使いたいのですが、当面予定がありません。モデルはマイケル・B・ジョーダンです。

ギル・ダニエルズ
 厳父を地で行く男です。この物語には三人の父親が登場し、各々役割が違いますが、特にギルは後述のモーリスの父・エミールと対をなすキャラクターとなっています。なぜそうしたのかというと、そこには厳父という存在の難しさがあります。おそらくエミールだけを描いてしまうと、厳しい父親はろくでもないという描写になりかねません。なので、ふた組みの親子を描くことで、その存在の光と影を描くようにしました。あくまで私見ですが、結局のところ親子というのはクロウがそうであったように、相性の部分もあると思います。モーリスが父親似であったらば、あのような悲劇は起きていなかったでしょう。もちろん相性以外にも、余裕のある父と余裕のない父であるギルとエミールの差はとても大きいものがありますし、自分にないものを望む父というのもよろしくはないでしょう。他にも様々な要素があると思いますが、いずれも絶対の正解ではないのが親子の難しさなのではないでしょうか。
 外見上のモデルはクリストファー・ジャッジです。「スターゲイト ティルク」で検索するとドンピシャなのが出てきます。

ケリー
 ネスに振り回される相方で登場し、本来はソントンの役回りを彼女が演じる予定だったのですが、急遽河原での激しい立ち回りを描きたくなり、そのため彼女を現場に向かわせ、結果キャラクターにも変化が出ました。ネスとバディもののスピンオフとかやりたいですけど、まぁ需要があるかどうかですね。
 外見上のモデルはナタリー・エマニュエルです。

エミール
 ギルで言及したのであまり書くことはありませんが、外見上のモデルはチャールズ・ダンスです。

リザヴェータ
 以前より、破天荒なクロウをサポートする常識人のキャラクターを考えていたのですが、ディアゴスティーノのビジネスがあれだけ大きくなったら、クロウに頼まれた仕事を自分でやるわけがないと思い、今回がその機会だと登場させました。テコ入れキャラクターでもあります。
 キャラクターコンセプトとしては、見た目はデスメタ中身は女子アナです。

アリア
 少年を惑わす無自覚なファムファタールというコンセプトです。書いてる間、ケモナーになりそうなほどにエロティックさを重視しました。ラウルフは頭に猫耳が付いてるだけで後は人間と同じフェルプールと違いガッツリ犬です。

ホワイト
 モデルはジョン・グッドマンです。

 最後に、応援していただいたりコメントくださったり、新しい話あげたら三十分くらいで読んでいただいていた読者の皆様ありがとうございました。皆様の存在だけが執筆の糧でした。

次回予告
※千葉繁さんのナレーションで再生ください

 権力を掌握し運命を支配する女がいた! 仲間と助け合い運命に抗う女がいた! 刃を手にして運命を切り開く女がいた!
 宿場町の支配を目論む娼館の支配者と、それを阻止せんと立ち向かう女たち、一触即発のその街にファントム・クロウが現れる!
 多くの血と涙の果に生まれた“女の街”アズガルド、そこで語り継がれるファントムの伝説が今明かされる!

 ファントム・クロウ~転生者の娘~
 第三部
 It's A Woman's Woman's Woman's World

 乞うご期待!

※設定は変更される可能性があります

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