これは第14話 赤根村の異変の下書きの際にボツにした内容です。
「アレン坊、あんた何を仕出かしたんだい?」
「えっと・・・・・・どういうことですかね?」
王都へ到着した事により少しの間、個人行動出来る時間が取れたので、俺は一週間ぶりに俺は異世界渡航のスキルを使って赤根村までやって来た。
8月も中旬に差し掛かる赤根村は、青々とした自然と照りつける太陽が美しく、セミの大合唱も最盛を迎えているところだった。
この前から少し間が空いたので、赤根村の人たちに挨拶でもしようかと厳児爺さんの家に向かってみれば、周囲には黒光りした高級車が何台も停まっていた。
それは厳児爺さんの家だけでなく、村の郵便局や以前庭の草むしりのお手伝いをしたタエ子さんの家にも同じ高級車が停まっている。パッと見だけで、十数台も長閑な雰囲気の赤根村に似つかわしくない高級車が停まっていた。
何事だと、思い近くを通りがかった顔見知りの婆さんに話を聞くと、俺が居なくなってから数日経った辺りで黒ずくめの集団がこの赤根村を訪れて俺を探しているという。
その異様な光景に赤根村に住む人達は全員驚いていたようだった。
「・・・・・・すいません、ご迷惑をおかけしたようで」
これは村の人達に迷惑を掛けたなと思い、心配してくれる婆さんに謝罪をしつつ周囲を散策する。
話を聞けば、彼らは夕方になれば赤根村から出ていくそうだが、朝になれば隣町からやってきてはずっと聞き込みをしているそうだ。
お盆のシーズン、忙しいところもある中でこれは不味いと思い、路地に止められていた一台の黒の高級車にコンコンとノックして中にいる人に合図をする。
「・・・・・・アンタ、もしかして」
俺が運転席側の窓をノックしたことで、車のパワーウィンドウが作動し窓が開かれる。
車内から心地のよい涼しい風を感じながら、サングラスで目線は見えないものの声質からして訝しげに問いかけてくる女性が俺に反応した。
「もしかして、アンタがアインっていう男性かい?」
「はい、その通りです」
夏場でもしっかりとと着こなされた黒いスーツにサングラス、掠れるような大人な女性のハスキーボイスが凄い様になる女性は、装着していたサングラスを少し外して俺の顔を確認してくる。
「とりあえず外は暑いだろう、車内に入りな」
黒服の女性がそう言うと、タクシーのようにガコンと音がなると後部座席が自動で開かれる。
日本で暮らしていた頃に比べて、随分と身長も高くなってしまったので、車内は少々手狭な感じはするが、冷房の効いた車内は涼しく、包み込むように柔らかな上質な座席なので結構快適だ。
『―――はい、こちら三号車の北添です。――えぇ、該当の人物と接触しました。相方の別府は他の班に回収させ―――――はい、そのまま向かいます』
運転手の女性は、サイドブレーキの近くに設置されている無線機を使って、誰かと連絡をしている。会話の内容からしてこの黒服の集団が探していた人間はやはり俺のようだった。
車内を見ていたら、少しの返答があった後にガチャリと無線機を元に戻して、後部座席に居る俺の方へ顔を向けた。
「よし、アンタの確認が取れた。とりあえず隣市まで行くよ」
ハスキーボイスが特徴的な女性は、端的に語ると俺の有無を言わずに車を発進させ、赤根村の隣町まで車を走らせた。
赤根村の隣町である最羽町には、越美南線が通っており商業施設こそ少ないものの、住宅街が多く、人口は一万人を少し超える程度になる。
最羽町駅前には、何処か懐かしさを感じる商店街が並び、町へやってきたビジネスマン向けのホテルや会館も存在し、無料の立体駐車場も存在する。
(すげーな本当に、ある意味漫画みたいな光景だわ)
といいつつも、平日の昼間に町を歩く人は少なく、駅前で停まっているタクシーの運転手も何処か暇そうに自販機で購入した缶コーヒーを飲んでいた。
そんな変哲の無い場所の一角に、まるで永田町や歌舞伎町にありそうな威圧感のある黒塗りの高級車が何台も停まっていた。
それだけで異様な光景であり、数少ない町を行き交う歩行者も何事かと遠目からこちらを見ていた。
「降りてください、目的地はこの会館の5階です」
「わかりました」
運転手の女性がそう言うと、後部座席の片側のドアが自動で開く。
俺が降りた場所からすぐ側に、会館の中へと向かう入口があり、近くにはやたらとガタイの良い黒服の男が2人立っていた。
見る人が見ればヤ○ザの会合かなんかだと思うが、入口で待機している人達の胸には西王と書かれたバッジが身につけられている。
「どうぞこちらへ、会長がお待ちしております」
冷房の効いた車内から出ると、ムワッとむせ返るような熱気が襲いかかってくるが、出入り口で待っていた黒服の男たちに連れられて中へ入る。
(会長・・・・・・ってことは多分だけど、西王寺の両親だよな?)
まず間違いなく、今の状況を引き起こした原因は先日、赤根村の郵便局から送った手紙だろう。
送り主の住所すら書いていないのに、一週間そこらで特定されるとは思いもしなかったが、手紙の送り主である西王寺が何の理由もなく問題ない、と言っている辺り、彼女は俺が置かれている状況を想定していたのだと思う。
「――――はい、既に会館内へ入り会長の元へ案内しているところです」
俺の前を歩く黒服の男は、耳に装着した無線機を使って何やら連絡を取っていた。
居心地の悪さを感じつつ、案内された場所は建物の最上階にある広い会議室だった。
実務的な飾り気のない広々とした会議室には、等間隔に長机が設置されており、正面の部分にはプロフェクターも存在する。
「龍幻会長、例の人物を連れてまいりました」
龍幻会長・・・・・・俺を会議室まで案内した黒服の男は、直立不動の状態で会議室の出入り口から一番遠い場所、最羽町が一望できる窓際で景色を堪能している男性に話しかけた。
逆光で姿は分かりにくいものの、龍幻会長と呼ばれた男性の身長は170センチより少しあるぐらいだろうか?パッと見では少し痩せ気味にも思える体格に、紺色のスーツを着ていた。
「・・・・・・君が、私の娘の手がかりを知る唯一の人間は」
黒服の男に呼ばれて、身体を翻して俺を見るのはパッと見で40歳程の壮年の男性だった。