外清内ダク

　本日、勇者の後始末人　第18話「愛の火を探して」が完結しました。
　前回の第17話が2020年6月の作品ですから、この1話を書くために丸1年の歳月を費やしてしまったことになります。元々遅筆な僕ですが、今回ほどの迷走はさすがに例が少なく、今後のための自戒という意味も込めて、制作苦労話などを記録しておこうと思います。

　第18話の内容にも触れるため、未読のかたはぜひ、先に本編をお読みください！

「勇者の後始末人」
第18話　“愛の火を探して”
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883238639/episodes/16816452221261103444



・なぜこんなに時間がかかったのか？

　第18話の基本的なプロットはかなり昔に考えたものですが、実際に執筆する段になるとまったく面白く仕上がらず……最終稿としたものは、書き直すこと実に40回目のバージョンでした。

　元々は、現在における緋女と師匠のやりとりをストーリーの本筋として、そこに断片的な過去の回想を挟む構成になっていました。最終稿の序盤～中盤にかけて展開される緋女の生い立ち～旅立ちまでの物語は、その回想の候補としていろいろ書いてみたものを時系列順に並べ替えて調整したものです。

　なぜこのような「現在＋回想」の話だったかというと、今回を緋女の内面を掘り下げるストーリーにしようと考えていたからです。奥義習得という具体的な課題と並行して、緋女の精神的な成長を描こう。そのために師匠との奥義伝授を巡る軋轢や対立を舞台として用意しよう、と考えていたのでした。

　ところがこれが、うまくいかない。
　書いたはいいものの全く面白くならないので、さまざまに設定を変えて書き直してみました。
　師匠が既に死んでいるパターン、生きているパターン、病で瀕死のパターン、師匠と戦うパターン、別の強敵と戦うパターン、師匠が残した試練に挑むパターン、師との関係を素直になれない親子として描くパターン、視点を師匠に置いたり緋女に置いたり別のある人物に置いたり……
　ほとんど考えうる全ての組み合わせを試してみましたが、どれひとつしっくりこず。

　しかたなく資料本を読み漁る日々。実在の剣豪にまつわる逸話、火に関する伝承をまとめた民俗学の本、仏教思想、ドイツ哲学、心理学、中世史、ファンタジー、仏教説話、白話小説、大量の剣豪時代劇……と、少しでもかかわりがありそうな本を読んでネタ探し。それらは確かにディテールアップに役立ってくれましたが、決め手にはならず。

　最終的に決め手となったのは、散歩中にフッと頭に浮かんだ、緋女のこの一言でした。

「それでもあたしは、この世界が大好きだ」

　これを思いついた瞬間に、「あ！　書ける！！」と確信しました。実際、そこからはほとんど迷いなく筆を進めることができ、3週間ほどで全体を仕上げることができました。

　要するに、僕は緋女の気持ちが分かっていなかったのです。
　緋女に戦う理由を与えるために、僕はいろんな試練を考え、緋女をそれに挑ませてみました。ですがそれは完全に的外れだった。試練など不要だった。緋女はもう、前回のラストでとっくに覚悟ができていた。どうして命をかけて戦うのか？　「この世界が好きだから」、そのシンプルな理由が全てだったんだ、ということに1年かけて気付いたのでした。

　僕自身がこの世界のことが嫌いすぎるために、「世界が好きだから戦う」という動機が、完全な盲点になっていたのでしょう。でも1年かけて緋女の気持ちを考え続けた結果、彼女自身がそっと秘めた思いを打ち明けてくれた……だから書けた。そんな気がした瞬間でした。

　ストーリーの要点がつかめてしまえば、あとは簡単でした。現在において葛藤させる必要がないなら、話の大半を過去の回想に費やす余裕ができる。となれば回想を挟む形式より、時系列順に事実を並べたほうが読みやすいし感情移入もしやすいはず……と判断して、最終稿の構成ができあがったのでした。



・伏線について

　今回登場した緋女の過去については、10年前、「勇者の後始末人」シリーズを書き始めた時から大まかに決まっていました。
　というわけで、第5話「邂逅」の中に、実は今回の伏線が貼ってあったりします。ほとんど10年越しで伏線を活かすことができました。

　さらに！　5年前に友人のmyzさん(カクヨムID @myz)に描いてもらった緋女のキャライラストにも、特にお願いして、今回登場した“折り合いの首輪”を描き入れてもらっていました。
　……というわけで！　先日追加された画像添付機能を早速試してみたいと思います！　myzさんのすばらしいイラストをご覧ください！　緋女ちゃんかわいい！！

myzさん(カクヨムID @myz)
https://kakuyomu.jp/users/myz