「調律師」を再投稿しました。
この話、もともとボツ案があった。
夫を亡くした女性・サツキが、記憶の施術を受ける話。書いてはみたものの、当時の「調律師」とは雰囲気が合わなくて、お蔵入りにしていた。
なぜボツにしたのか。たぶん、消される記憶がしょぼいほうが怖い、という感覚があったからだと思う。三ヶ月の失恋に二十年払う、そのスケールのアンバランスが第二話の肝で、夫を亡くした女性の話は理由が重すぎた。
……というのが今の解釈で、当時の自分がそう考えていたかどうか、正直よく覚えていない。調律師に施術されたみたいで、ボツにした理由が思い出せない。
それを今回、第一話にした。
並べてみたら、むしろサツキの話を先に置いたほうがいいと気づいた。失うものの重さを最初に感じてから、第二話の「いい客だった」を読む。ボツ案が構造の核になった。
ボツにしたものが、こうやって息を吹き返すことがあるんだな、と今回思った。
と同時に、昔なんの迷いもなく捨てたボツ案のことも思い出した。あのとき取っておけばよかった。