追記
2023年12月23日付けで一般公開に変更しました。
いつもギフトを支援戴き篤く御礼申し開けます。
第一話を公開時、編集段階で削った箇所を限定公開します。
今後、無料公開する可能性があります。予めご了承下さい。
『第1話 憂鬱な美少女生活 補足話』
学校内『君が抱く甘い想いは全て、最悪のトラウマへと変わるだろう』
から
自宅内『「ただいま」』
までの出来事です。
校舎裏から駐車場へ。
渡り廊下を抜け、グラウンド脇の街路樹へ。
走っていた。
いつの間にか。
後ろめたい気持ちを振り切るように。
脚力のバネは絶好調。
体がとても軽い。
スカートなので全力とはいかないが。
見えた。
正門の近くで見知った女子が数人。
その中の一人がコチラに気付くなり手を振ってくれた。
「栗田さん、走って来たの?」
「うん。待たせると悪いから」
首を捻る宇垣さんに、額の汗を拭いながら答えた。
「木村さん。栗田さんに、どういうメッセージを入れたの?」
「栗ちゃんには先に帰るって、送信しただけだよぉ~」
詰問を含んだ伊藤さんの視線に、木村さんは慌てふためきながら手を振った。
「私、少し離れた所にいたからさ。追いつくために走って来ただけ」
あらぬ嫌疑を晴らすため、念のためコチラからも一声添えた。
「ねぇ、栗ちゃん。走った理由は、それだけかにゃ~?」
思惑を含んだ笑みを口元に浮かべながら、木村さんが顔を寄せて来た。
「また男子に告られたんでしょ?」
「………なんで知ってんの?」
周囲に気取られないよう、細心の注意を払った筈なのに。
「木村ちゃんの情報網を舐めてもらっちゃ困るねぇ。今月に入って既に二人轟沈。もしかして戦果更新……かにゃ?」
好奇心で尻尾を振るが如く、早く教えるが良いと迫るクラスメート。
その脳天へ、背後から何かが振り下ろされた。
「ひゃいっ!?」
「あなた個人情報、詮索し過ぎ」
「痛ったぁ~いっ!! スマホで殴んなくても良いじゃんっ!」
「手で殴ったら私が痛いでしょ?」
涙目の抗議に、伊藤さんは飄々と答えた。
「それで、あの、その、栗田さんは、どうなされたんです?」
恐る恐る上目使いな宇垣さん。
丁寧な口調とは裏腹に、興味津々ですとばかりに頬がうっすら上気していた。
「歩きながらで良いかな?」
どこで聞き耳を立てられてるか判ったもんじゃないから。
「では、行きませうっ!」
皆さん付いて来てくださいよと、先陣を切る木村さん。
はいはいと、眼鏡の蔓を持ち上げながら後に続く伊藤さん。
じゃぁ行きましょうと、なぜか並んで歩きたがる宇垣さん。
ここ最近、気付くとこの面子で行動していた。
不思議な縁だなと思いながら。編入した時は、友達なんて出来ないだろうと思っていたから。
「結論から言うと、振った」
学校の長い壁の端。角を曲がったと所でさっさと告げた。もったいぶっても何一つ得にならないから。
「ですよねぇ♪」
予想的中と、先頭が笑顔で振り向いた。
「木村さん。他の人には言わないように」
「判ってます。判ってますよぉ~」
そう言いながら『メールなら良いですよねぇ』とか、思っていそうだな。コイツは。
「今回の人は、何がいけなかったのですか?」
さらりと深掘りして来る宇垣さん。ゴシップ好きなのではと内心疑っていた。
「私、単純で頭の悪い人は苦手だから」
「すると。告白されたの、嫌でした?」
大人しい顔でグイグイ迫るな、この子。
「それが嫌じゃなかった。不覚にも胸が時めいた」
本当に不覚にも、だ。
「栗ちゃん。それって相性が良いって事ではないのかにゃ?」
それは聞き捨てなりませんねぇ、木村さんから鋭い突っ込み。
「肉体的にはね」
ポツリと返した一言に、約二名の表情が凍り付いた。
「精神的には嫌いでも、体は別って事」
「そ、そ、そ、それって、どどどどういう意味でしょうかっ!?」
多少は狙ったけど。一本釣りが如く、お隣が激しく食い付いた。
「はい、はい。宇垣さん、ちょっと落ち着こうね」
もしかしたら、コイツが性格的に一番アレかもしれない。
「恋愛って何のためにすると思う?」
「へ?」
教師に突然質問された生徒のように、宇垣さんは目を丸くした。
「栗ちゃんは、たまに哲学的な事を言いますにゃぁ~」
器用に後ろ歩きをしながら、首を捻る木村さん。
それらを興味深げに、そしてどこか楽しそうに伊藤さんは眺めていた。
「えっと。恋愛とは、その、生涯の伴侶を見付ける……ため?」
お隣が赤面しながらのご回答。
さすがに子作りとは、口に出せなかった模様。
「あぁ、そういう事ね」
今まで黙っていた伊藤さんが、突然口火を切った。
「たとえ相手が好みじゃなくとも、子孫を残すのに相応しい場合、本人の意思とは無関係に肉体が反応する。精神的な思考は、器である肉体の都合によって幾らでも左右され得る。栗田さんは、そう言いたいのかしら?」
「ご名答」
考察していた内容を見事に言い当てられ、苦笑しながら頷いた。
男子から告白されて胸が熱くなる。
理由があるとしたら、それしか考えられなかった。
「伊藤さんは、いつも指摘が鋭いね」
他の女子とは別格というか、精神年齢が大人に近い気がした。
「あら。栗田さんには負けると思うけど。私よりも色々な経験をしていそうだし」
微笑みながら探りを入れるような視線。この子が最も油断ならない。
何か気付いているのではと、いつも冷や冷やしてしまう。
「ところで皆さん、このお時間はありますか? わたくし、カラオケで歌いたいのですが」
「この間、二人で行ったばかりでしょ?」
木村さんの提案を、伊藤さんがたしなめた。
「いやぁ、あの時は喉の具合がいまいちでして。本日は絶好超ゆえ、リベンジでありますっ!」
そういう問題じゃないと、深い溜息が漏れ聞こえた。
カラオケか。
良いなぁ。たまにはストレス解消に、心ゆくまで歌いたいけど。
「ゴメン、私は行けない」
一抜けと頭を下げた。
「今晩の夕飯を作らなきゃ、いけないから」
きっとマイクを握ったら、二時間くらいは止まらないだろう。
「進んで家の手伝いですか。栗ちゃんは良い子ですにゃぁ」
「いや、私ってお荷物だからさ」
含みなしに答えたつもりだが、気まずそうな顔で木村さんは目を逸らした。
「あの、栗田さん。お買い物くらいのお時間はございますか?」
宇垣さんが下から目線でお伺い。
「先週に教えて戴いた珈琲豆、とても美味しかったです。もし他にもお勧めがあれば買ってみたいのですが」
「買い物くらいなら大丈夫」
我が家の備蓄もそろそろ底を突く頃だった。
「栗ちゃん、それって商店街のお店です?」
「うん。そこの角を曲がった先のね」
対向車線側、遠くに見える通りの入り口を指差した。
「では、車がいない内に渡っちゃいましょうっ!」
そう言うやいなや、木村さんは歩道から車道へ。
「待った」
咄嗟に手を掴み、小柄な体を力付くで引き戻した。
「もう少し先に、横断歩道があるでしょうが」
「あそこ? 信号ないから、すぐに渡れないのでは?」
市内を東西へ横断する道路だけに、通行量は格段に多いのだが。
「車なら止まる。絶対に」
「本当に?」
首を捻る友人の手を引き、歩く事、約一分。
四人が横断歩道へ立つと同時に、走行中の車が行儀良く白線の手前でピタリと停車した。
「止まりますねぇ」
あら不思議と驚きの声。
「横断歩道で人が待っている場合、自動車は止まらないと交通違反になる」
道路を渡りながら種を明かした。
「栗ちゃんは物知りですにゃぁ~」
「まぁ、勉強する機会があったから」
約数ヶ月ほど、みっちりと。
「何か理由があったの?」
私とても気になりますと、伊藤さんからの問い掛け。
「別に。役に立つかなと思って憶えた」
あの時の知識や技術。有効に使う機会は今後暫くないだろう。