『ある祝祭』は、ワンシチュエーションスリラーと文芸SFを掛け合わせ、とある家族に訪れる不条理を淡々と描いた作品です。自分の作風の中でも、かなり実験色の強い一本になりました。
今回は、海外短編映画のような質感を小説で再現できないか、という意識が強くあります。
影響源としては、ワンシチュエーションものの発想にミヒャエル・ハネケ監督『ファニーゲーム』、作品全体の乾いた空気感にはジョナサン・グレイザー監督『関心領域』から大きな影響を受けています。
「厭(いや)な話」ではあるけれど、露悪そのものには寄りすぎないこと。瞬間的な刺激として消費されるスリラーではなく、読後に“処理しきれない気まずさ”だけが残るような感触を目指しました。
作中の謎やSF設定については、裏側ではある程度定義しています。ただ、本作の核は“世界の仕組み”ではなく、説明不能な状況の中で「不条理に不条理で返される人間模様」をテーマとし、「祝祭」という儀式を介して粛々と地獄へ向かっていく。という設えです。
そのため、何と戦争しているのか、境界域とは何なのか、といった部分は、あえてほとんど説明していません。読者ごとに、それぞれの距離感で受け取ってもらえればと思っています。
今回は、自分の「語りたがる癖」をかなり意識的に削りました。
感情や背景を説明するのではなく、ただ状況だけを静かに置いていく。
その実験が、どう読まれるのかを見てみたい作品です。