中国武器を調べていると、時々、
「なぜ、こんな形にしたのか?」
と思う武器に出会います。
今回取り上げるのは、
鈎(こう)と叉(さ)。
刀のように斬るだけでもない。
槍のように突くだけでもない。
相手の武器を引っ掛ける。
押さえる。
動きを止める。
そういう発想を持つ武器です。
双鈎――中国武器の中でも異様な形
中国武術の映像などで、とても目立つ武器があります。
双鈎(shuāng gōu/シュアンゴウ)。
二本一組で使われることが多い、いわゆるフックソードです。
形が変わっています。
普通の剣のような長い刀身。
ところが先端が大きく曲がって、鈎になっている。
さらに手元には三日月形の大きな鍔があり、柄尻まで尖っているものがあります。
つまり一本の武器に、
刀身
鈎
鍔
柄尻の尖端
という複数の攻撃・防御部分が付いています。
武術上は、
相手の武器を鈎で捕らえる。
刀身で斬る。
三日月形の鍔で受ける。
柄尻でも攻撃する。
といった、多彩な扱い方ができます。双鈎を二本つなぎ、片方を遠くへ振り出して間合いを伸ばす技法も知られています。
見た目だけなら、
「いかにも古代中国からありそうな武器」
です。
ところが、ここで話が面白くなります。
双鈎は本当に古代武器なのか?
実は、はっきりしません。
双鈎については戦国時代や宋代まで遡るという説もありますが、信頼できる古い実物や図像資料は少なく、現存品や確実な描写の多くは清代末期以降とされています。
さらに、正規軍の代表的な制式兵器として使われた証拠も乏しく、むしろ民間武術との関係が強かったと考えられています。
これは創作をしている側からすると、非常に興味深いところです。
中国武器というと、
「昔から戦場で大量に使われた武器」
のように語られるものがあります。
しかし実際には、
軍用兵器
民間武術の武器
護身具
演武用武器
が後世に混ざり合っていることがあります。
双鈎は、その境界が特に分かりにくい武器の一つです。
『維新示現』の時代は1877年。
ちょうど清朝末期へ向かっていく時期なので、双鈎を登場させること自体は年代的に不可能とは言い切れません。
ただし、
「古代から清軍が普通に使っていた標準武器」
として出すのは避けた方がよさそうです。
もし使うなら、
特殊な武術家や民間の達人が使う珍しい武器
くらいの位置づけの方が、私は面白いと思います。
叉――見た目は単純だが、考え方が違う
次は叉(chā/チャー)。
日本語なら「フォーク」「三叉槍」に近い形です。
中国の18~19世紀の実物も残っています。
メトロポリタン美術館には、中国製の18~19世紀の三叉武器が収蔵されており、ある個体は柄だけで約236センチ、頭部は約76センチもあります。
かなり大きい。
この武器の面白いところは、中央の刃だけではありません。
両側へ広がる部分によって、
相手を受け止める
武器を挟む
進路を塞ぐ
ことができます。
つまり槍が、
一点を刺す
武器だとすれば、叉は、
広い面で相手を止める
という性格を持っています。
虎叉――虎を止めるための武器
叉の中でも有名なのが、
虎叉(hǔchā/フーチャー)――タイガーフォーク。
名前の通り、虎など大型動物への対処に使われたとされる大型の叉です。
これは単なる伝説でもありません。
明代の文献『湧幢小品』には、虎狩りについて、
中央の一人が鉄叉を構え、虎が飛び掛かってきたところを受け止め、両側の二人が槍で仕留める、
という具体的な記述があります。
ここが非常に面白い。
一人の英雄が巨大な虎と戦うのではありません。
叉で止める者。
左右から槍を入れる者。
最初から集団戦です。
武器そのものが、戦術の一部になっています。
19世紀末には虎叉を持つ中国の兵士・巡察要員の写真も確認されており、少なくとも清末までこの種の武器が残っていたことが分かります。
「殺す」以外の機能を持つ武器
こうして見ると、
双鈎と叉には共通点があります。
もちろん危険な武器です。
しかし設計思想の中に、
捕らえる
受ける
引っ掛ける
止める
動きを制限する
という機能があります。
これは刀剣とはかなり違います。
刀なら、斬る。
槍なら、突く。
ところが中国武器には、
まず相手の自由を奪ってから攻撃する
という形の武器がいくつもあります。
だから中国武術の武器戦を見ると、
単純な、
武器対武器の打ち合い
だけではなく、
相手の武器をどう殺すか
という発想が出てきます。
武器を引っ掛ける。
軌道を逸らす。
動きを止める。
その瞬間に次の攻撃へ移る。
『維新示現』で面白いのも、そこです
『維新示現』では、強い人物全員に同じ刀を持たせるのではなく、
武器によって戦い方そのものを変える
ことを意識しています。
燕華の九節鞭なら、軌道と遠心力。
公孫炎の長柄武器なら、間合いと重量。
蓮の釵なら、受けと制御。
刃なら、示現流の一撃。
武器が違えば、
「どう勝つか」まで変わる。
双鈎や叉のような武器を見ると、中国武器の面白さは単に「形が珍しい」ことではないと感じます。
その形には、
どう戦うかという思想そのものが入っている。
それが、中国武器を調べていて面白いところです。
次回はさらに小さくなります。
暗器・鏢・飛刀など――手の中や衣服の中に隠れる中国武器。
中国武器編の最後は、「見えている武器」から見えない武器へ行ってみます。