これまで、
中国の剣と刀。
矛・戈・戟。
弓と弩。
と紹介してきました。
しかし中国武術の武器には、もう一つ非常に面白い一群があります。
刀でもない。
槍でもない。
弓でもない。
「鞭」「鎖」「錘」といった武器です。
そして『維新示現』で最も目立つ中国武器の一つ、
白燕華――血の燕の九節鞭
も、ここに入ります。
中国武器の「鞭」は、革のムチとは限らない
日本語で「鞭」と書けば、革製のムチを想像しがちです。
ところが中国武器の「鞭(biān)」には、かなり違ったものがあります。
たとえばメトロポリタン美術館には、清代の18~19世紀に作られた中国製のBaton (Bian) が残っています。
長さは約99センチ。
材質は鉄で、装飾に銀・金・トルコ石・珊瑚などまで使われています。つまりこれは柔らかいムチではなく、硬い鉄製の打撃武器です。
さらに同じ時代の中国製「Mace」も多数残っています。
長さ50センチほどのものから80センチを超えるものまであり、鉄や鋼で作られていました。
要するに中国武器で「鞭」と呼ばれるものを、
西洋映画に出てくる革のムチ
だけで考えると、かなり違ってきます。
棒状の鉄鞭もあれば、鎖状の鞭もある。
ここが面白いところです。
そして「鎖鞭」
さらに形が変わります。
硬い一本の棒ではなく、
複数の金属部分を輪でつないだ武器
が登場します。
メトロポリタン美術館にも、18~19世紀の中国製**Whipping Chain(鎖状の鞭)**が現存しています。
全長は約109センチ。
材質は鋼。
重量は約1.4キロあります。
1.4キロの鉄の鎖を振り回す。
想像するだけでも、かなり危険です。
こうした軟兵器の特徴は、刀や棒とはまったく違います。
刀なら、
刃の位置が分かる。
槍なら、
穂先の位置が分かる。
しかし鎖状武器は、
振ったあとに先端がどこへ飛ぶのか、軌道が大きく変化する。
円を描く。
巻き付く。
方向を変える。
障害物の向こう側へ回り込む。
その代わり、扱いを誤れば自分を殴ります。
つまり、
強いから難しい
というより、
構造そのものが難しい武器
です。
九節鞭
現在、中国武術でよく知られているのが九節鞭です。
文字通りなら、金属製の節を連結した鞭。
ただし、ここは少し注意が必要です。
歴史資料では「鎖鞭」「鉄鞭」など似た形の武器があり、博物館にも清代の鎖状武器は現存していますが、すべての時代・地域で厳密に九つの節を持つ規格武器だった、とまでは言えません。
ですから、
鎖状の軟兵器そのものには歴史的実物がある。
一方、「九節鞭」という現在よく知られた形式や呼称を、そのまま古代から固定された規格と考えない。
くらいが安全だと思います。
『維新示現』では、燕華の武器を明確に九節鞭としています。
血の燕の視覚記号も、
白い笑い面
白衣
呼吸音
そして両手の九節鞭
の組み合わせです。
なぜ九節鞭を選んだのか
これは史実考証だけではなく、漫画原作としての理由があります。
九節鞭は、
攻撃そのものより「軌道」が見える武器
だからです。
刀なら一閃。
槍なら一直線。
しかし九節鞭は、
円を描く。
蛇行する。
身体の周囲を回る。
一度外れた先端が別方向から戻ってくる。
漫画では、その軌跡自体が画面を作ります。
さらに燕華は一本ではなく、左右二本。
二本の軌道が交差すると、
人物が動くのではなく、画面全体が動いて見える。
その効果を狙っています。
『維新示現』では、清軍側からも燕華は単に「女」ではなく、**「九節鞭の娘」**として認識される構想になっています。 維新示現第6話以降
つまり武器そのものが、人物を識別する記号になっています。
「錘」という武器
もう一つ、中国武器で忘れられないのが錘――重い金属を使った打撃武器です。
単純な棍棒とは違い、先端や全体に重量を集中させ、
刃で切るのではなく、重量そのものをぶつける。
鎧や防具を相手にした場合、刃が通らなくても衝撃は伝わります。
清代の中国製メイスが実際に多数残っていることからも、こうした重量打撃武器が19世紀まで存在していたことが分かります。
中国武器の面白いところは、
切る
突く
射る
だけではありません。
殴る。
巻く。
絡める。
引く。
遠心力を使う。
武器の設計思想そのものが非常に多彩です。
『維新示現』の武器
『維新示現』では、登場人物ごとに戦い方をなるべく変えています。
刃なら、刀・長巻と示現流。
公孫炎なら、大型の長柄武器。
蓮なら、釵。
時雨なら、暗器。
そして燕華なら、九節鞭。
同じ「強い人間」でも、
持っている武器が違えば、戦う距離も、動きも、画面も変わる。
そこを大切にしています。
特に血の燕については、
白い笑い面の女が、二本の鉄の鞭を振り回す。
その時点で、
「普通の剣士ではない」
と分かるようにしたかった。
実際、中国には刀剣以外にも、こうした奇妙で魅力的な武器文化が存在しました。
明日はさらに形の変わった、
鈎・叉など――「斬る」より「引っ掛ける」「受ける」ことを重視した中国武器
を見てみたいと思います。