西暦2035年4月13日
CERNにより何度目かのブラックホール生成実験が開始されようとしていた。
そのCERNの施設の中にある1室での会話。
「xx、準備は良いかい?」
「ああ、いつでも良い……これでオレ達の理論を実証出来るはずだ……」
「そうだな。『ダークマターは生物の意志に反応する』この理論が実証出来れば、人は新しいチカラを手に入れる事が出来る」
「新しいチカラか……神よ。我々を導き給え……」
「この研究が進めば、今にその祈ってる神に会う事も、生きながら天国にも行ける時代がくるさ」
「……そう……だな」
片方の男は怯えるもう1人の男を見て軽く溜息を吐くと、踵を返し周りに座る他の研究員へ指示を飛ばす。
「では、これよりブラックホール生成実験を始める。量子の加速を始めてくれ」
「「「はい」」」
この会話の1時間後、世界のルールは生まれ変わり、人の時代は終わりを告げたのだった……
10年後-----------------
ブラックホールを人為的に作り、ダークマターを人の意志で操作を試みる実験より10年の月日が経った。
かつては100億に届こうかと思われていた人類も今では1/50まで減らして、今現在 記録にある世界の人口は1.7億程度となっている。
10年前に何が起こったのか……今となっては詳細な記録も失われ、当時を知る者も極僅かになってしまった。
1つだけ言える事は、あの実験は成功して、人は新しいチカラを手に入れたという事だ……魔物と呼ばれる異形の存在との共生を代償にして。
実験の後、先ずはCERNのあったヨーロッパが魔物に飲み込まれた。そして水が溢れるかのように魔物の生息域は広がって行き、ユーラシア大陸全てが飲み込まれるのに1年とはかからなかった。
それからは地続きのアフリカ大陸が飲み込まれていくのは、必然だったのであろう……そして何と海を挟んでいたとしても魔物の脅威は完全に払しょくされるわけでは無かった。
日本や台湾、イギリスなどの島国は、この10年で徐々に魔物の汚染が進み、今では殆どの人が死滅したと言われている有様だ。
そして最後のフロンティアとして、世界中の金持ちが南北アメリカ大陸とオーストラリア大陸へと殺到したのは当然の結果だったのであろう。
今ではアメリカは大陸間弾道ミサイルを使い、CERNのあったヨーロッパを定期的に核攻撃している……何とかCERNを止め、ブラックホールを消し去るためだけに……
そう、未だに実験で作られたブラックホールは虚ろな穴を開け、魔物を垂れ流し続けているのだ。
この10年に渡る研究と潜入捜査で得られた事実は、残った人類に絶望を植え付けるには充分であった。
そして全てを知り絶望と希望を抱きつつ、対魔物の最前線基地の1つである日本へ渡った科学者イリュー・メイ・フォスターは、人の変革に希望を求めつつ自分の死に場所を探すためにこの地に降り立ったのである。
かつて極東と呼ばれた島国の片隅。
「おい、クロ。行くぞ。早くしないと置いてくぞ」
「待ってよ、ネズ兄ちゃん」
2人の子供がかつては世界有数の大都市だった街の中を、音を立てずにゆっくりと歩いて行く。
「ネズ兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫そうだ……」
そう話し合い、向かう先にはコンクリートジャングルだったこの場所に似つかわしくない大樹が生えていた。
不思議な事に大樹はボンヤリと優しい光を放ち、枝には美味しそうな実をたわわに実らせている。
ネズ兄ちゃんと呼ばれた子供はゆっくりと大樹に近づき、実を2つ取ると真っ直ぐに走って戻ってきた。
その素早さはどこか動物的であり、子供の走る早さにしては些か速すぎる。
直ぐに実をそれぞれが抱え、2人は何かから逃げるように来た道を走っていく。
かなりの距離を走り大丈夫と判断したのだろう、子供達は速度を落とし建物の残骸に身を隠すと、戦利品である実を嬉しそうに見つめていた。
そんな気を抜いた瞬間、ネズの視界の端に何かが横たわっているのが見え、反射的に距離を取った。
「クロ、離れろ!」
「う、うん」
ネズの言葉に続いてクロも飛びのいて離れると、横たわっている者の正体は直ぐに知れる事となる。
「人か……」
「ネズ兄ちゃん、動いた。生きてるよ、この人!」
「クロ、近づくなよ。それと実を絶対に離すな、良いな?」
「う、うん……」
「おい、お前は誰だ。何でこんな所にいる」
ネズは敵意をむき出しにして、動けずに横たわっている者に怒鳴りつけた。
「う、うぅ……な、何か……食べ物を……」
やっとの事で絞り出したのだろうが、声が掠れ過ぎて年齢どころか性別すら判断が出来ない。
「ネズ兄ちゃん、僕の分の実を半分あげても良い?」
ネズはクロの顔を呆れながら見て、溜息を1つ吐いた。
「半分は先にお前が食べろ。そうじゃなきゃ許さないぞ」
「……分かったよ」
クロはそう言って実に皮も剥かずに齧りつき、見る見るうちに半分を食べてしまう。
「ネズ兄ちゃん、ちゃんと半分食べたよ」
「本当は全部食って欲しいんだけどな……」
「それだと、あの人が死んじゃうよ」
ネズはそれこそが自分の願いなのだと口にしそうになったが、クロは一度へそを曲げると後が長い事を思い出した。
そうしている間に、クロはゆっくりと行き倒れに近づいていく……
「これ、食べる?」
クロの問いかけに、行き倒れはチカラを振り絞って言葉を発した。
「ありが……とう……可愛らしい……お嬢さん……」
「本当に助かったよ!君たちは命の恩人だ」
先ほどまで死にかけていたはずなのに、白人らしくやたらと高いテンションで話すのは、科学者であるイリュー・メイ・フォスターである。
普通、あそこまで衰弱していると、食事を摂ってもこんなに早く回復する事は無い。
イリューが半分になった何かの果物を貪るように囓ると、不思議な事に
こんなん書いてみますたー
うひょひょひょ