久々の番外更新です。
公募に出してるので本編には投稿できないため、近況ノートにて番外を更新します。
最近男性向けラノベの更新をしていますが(あまり書いたことがないので手探り)、書いている間に異世界恋愛ファンタジーネタ(女性向け)が降ってきたので、いろんな人に『朝霧いお』を知ってもらうために、他に書いていたネタより先にそちらを執筆するか悩んでおります。
投稿した際はよんでいただけると嬉しいです。
では、早速番外スタートです!
■□■
それはイザベラ様が、用事で席を外していたある日のことだった。
俺とノクス先輩は、マリーさんに相談を受けていた。
「イザベラ様は、もしかしたら私に興味がないのかもしれません」
「え? なんでそう思ったんですか?」
有り得ないマリーさんのお悩みに、俺はすぐさまそう尋ねた。
だって、イザベラ様がマリーさんを目に入れても痛くないほど愛しているのは、俺には明らかだったからだ。
「実は、先日二人でお出かけしたのですが――……イザベラ様、私が『どうでしょう? これ、素敵だと思いませんか?』って尋ねたら、『ええそうね』って仰ったんです」
「? それの何が問題なんですか?」
可愛らしい二人の会話だ。
可愛い可愛い百合の恋人たちが、可愛い言葉を口にしている――それだけで俺にとって幸せ空間なのは間違いない(いやでも可愛い言い過ぎて俺のなかでゲシュタルト崩壊してきた)。
「一度だけならいいんです! イザベラ様、私が何を話しても、同じように『ええ』とか『そうね』って仰るんです!!!」
「へ……へえ?」
マリーさんは、首を傾げて不思議そうな顔をしてしまった俺に熱弁してきた。
マリーさんはお怒りのご様子だ。
「せっかくイザベラ様のお時間をいただけて嬉しかったったのに……いっつも、同じ言葉ばっかりで……。しかも、『どれがいいと思いますか?』って私が聞いたら、いつも『全部買えばいいでしょう』と仰るばかりで……」
マリーさんの声からは、だんだん元気がなくなっていく。
俺は、なんとなく彼女がいわんとすることを察した。
「……ノクス先輩はどう思いますか?」
「どう、とは?」
そんな彼女を眺めつつ、俺はイザベラ様によく似た彼女の兄、ノクス先輩にこそっと聞いてみた。
「イザベラ様の、マリーさんに対する返答と行動についてです」
「別に、間違えてはいないだろう」
ノクス先輩はさらりと言った。
「相手が気に入っているなら全部買えばいい。それよりこの話、どうして店に足を運ぶ必要があるんだ? 家に呼べば良いだろう」
流石金持ち公爵家。トンデモ発言に、俺は顔を顰めた。
「これだから金持ちは」
「お前の家も伯爵家だろう」
「僕の家は、僕の生命維持のためにこれまでお金をつかってくれていたんです。目を覚ましてまで、僕は金食い虫にはなりたくないんです」
俺は、どちらかといえばマリーさん側の人間だ。俺が、貴方は何もわかってないなと溜め息を吐くと、ノクス先輩は首を傾げてこう続けた。
「お前の家が問題なら、私が買えば――」
「――ストップ」
俺は、ノクス先輩の顔の前に手を近づけて、彼の言葉を遮った。
「あのですね。貴方はお金が有り余ってるかもしれませんけど、普通友だちには、そう高いものはホイホイ買わないものなんですよ!」
「妹は彼女に買っているが?」
ノクス先輩は、不思議そうな顔をして俺を見た。
「いや、マリーさんはイザベラ様の恋人じゃないですか。恋人ならいいんです」
俺とノクス先輩はそういう関係じゃない。
「僕は、基本友達とは対等でいたいんです。貴方の気持ちがどうであろうと、物を買ってくれるからそばにいると周囲に思われたくない。僕は、貴方にたかるつもりはありません」
俺は頭痛がした。ノクス先輩は見た目と能力はあるのに、どうしてこうどこか1本頭のネジが抜けているような発言をするのだろうか。
「そういうのは、いつか恋人ができた時にしてください」
「……」
俺がそう言うと、何故かノクス先輩が俺のことをじっと見てきた。
……なんでこの人は俺のことを見てるんだ?
まあ、それは置いておいて――。
「でもまあ、いいですよね、なんでも買ってくれる人。マリーさんは困っているみたいですが、眺めるぶんには俺僕は好きです。愛を感じるというか、溺愛というか――もう、なんでも可愛くて仕方ないんでしょうね。適当に言っているのではなく、全部与えてあげたくなるんでしょう」
俺は腕組みしてウンウンと頷いた。素晴らしい百合だ。両思いの対等な関係もいいけれど、溺愛が過ぎる関係は別腹でおいしい!
「女性だけどスパダリ属性。これは『萌え』です!」
俺は、高らかに宣言した。
「もえ……?」
「最近流行ってるんですよ。女性スパダリ。ご存じではないですか?」
「知らない。というより――その、『すぱだり』とはなんだ?」
ノクス先輩は、いつものように俺に尋ねてきた。
「スーパーダーリン! 超カッコよくて、完璧な旦那様のことです!」
「だん……? なら、男ではないのか?」
「スパダリは、今や性別を超えた属性なんです! はあ……スパダリ悪役令嬢萌え。癒やされる……」
尊い。
俺は手を合わせて拝んだ。
現代日本で百合の存在を知ってから、『女子校って最高じゃん!』と思ったら、男の妄想とは違い女の園は美しくないと聞いて以来、諦めていた理想《はな》が今目の前に咲いている!
……まあ、イザベラ様はノクス先輩と似ていて言葉が足らないところがあるので、ちょっと失敗しているのは確かだが。
「……お前は本当に、妹にも彼女にも恋愛感情はないんだな」
「当たり前じゃないですか。僕は百合が好きなのであって、二人を恋愛的な意味で好きなのではないので。友人としては大切ですけど」
俺は、胸の前でバツ印を作った。
「百合の間に男が登場していいのは、片方の女性に思いを寄せていた男が、『君の本当の気持ちはわかってる。だから、僕は背中を押すよ。君の幸せを願っている』という、最後の一押しだけなんです。これなら百合画角に収まらずに済みます!」
「……」
ノクス先輩は『百合画角』ってなんだ、という表情をした。百合画角派百合画角である。男が存在しない二人だけの世界である!
「百合を眺めるつもりだったのに、あれえおかしいな? 真ん中にサンドされちゃったぞなどとのたまう自称百合男子は、百合よりも女体を選ぶクソ野郎です」
俺は、百合に挟まる男が嫌いだ。失恋しろ!
「百合に挟まる男は滅!!!!」
俺は、空中に五芒星を描いた。臨兵闘者皆陣列在前! オタクなら誰でも言える陰陽師の呪文もついでに心のなかで唱える。
「二人を眺めることができ、尊さを摂取しながらも、深くは関わらない――僕は百合男子の最も幸せな立ち位置は、百合の片方の兄の友人だと最近しみじみと思っています」
「つまり、今のお前の立場ということか?」
しばらく黙っていたノクス先輩はぽつり俺に尋ねた。
「いつもお世話になっております」
「つまりお前にとって私は、二人を眺めるための展望台というわけか……」
その声がなぜか少し悲しげに聞こえて、俺は慌ててフォローした。
「そっそんなことないですよ! それは、確かに二人のことがなかったら一生話さなかったかもしれないけれど、ノクス先輩のことは友達だと思ってますし!」
「……」
だが、彼の機嫌はなかなかなおらない。
一体何が不満なのか、俺には全くわからなかった。
「なんでそんな急に不機嫌になったんですか? もしかして拗ねたんですか?」
「拗ねてない」
「拗ねてるんじゃないですか!」
ノクス先輩の感情が、今の俺には手に取るようにわかった。
「違いますよ。冗談ですって! いつも勉強を見てもらっているし、おいしいお菓子を食べさせてくれるし、本当に感謝してるんですよ? ほら、この間はわざわざ僕が買えなかったって言った限定品のケーキを買ってくれてたりしたじゃないですか。ノクス先輩、反応が少ないから僕の話聞いてるのが謎な瞬間があるんですけど、ちゃんと聞いてくれてたんだって、そういうちょっとしたところで感じられたりして、妹思いのシスコンだし、情が深い人だって思うから、そういうところ、すごく好きだなって思ってるんですよ?」
「……妹たちのことがなければ、お前は私と関わろうとしなかっただろう?」
「それはそうかもしれない――……ですけど。でも、それはそもそも貴方と僕は年が違って、家格が違うからじゃないですか。それが、僕の好きなことによって今こうして関係を築けている現実を、今は喜ぶべきなのでは?」
ノクス先輩は、じっと俺の目を見つめてきた。
少しは彼の機嫌は直ったようだ。
「俺は二人の恋の橋渡しをしましたが、俺たちの関係を繋いだのも、あの二人ということです」
俺がそう言ってニコッと笑うと、ノクス先輩は、何故かはあああと深い溜息をついて頭を押さえた。
「……私はお前に、一生口で勝てる気がしない」
「僕は一生勉強では勝てる気がしないので、お相子ですね」
あははと笑いながら言うと、鋭いツッコミが返ってきた。
「それは努力しろ」
「努力はしてます。ただ限界はあるかと。でも、お互い苦手なところを補い合える関係も良いものでしょう? こう――背中を任せられる、みたいな?」
「……そうだな」
ノクス先輩は俺の言葉に、柔らかく微笑んだ。
最近たまに彼が見せるこの笑顔は、俺が知る限り、イザベラ様以外俺にしか向けられていない。
少しは好かれている、と自惚れてもいいのだろうか――なんて、俺が思っていると、俺たちにそもそも相談してきたマリーさんが、困ったという顔をして俺たちを見ていた。
「それで、お二人はこの件についてどう思われますか?」
■
このすれ違い事件については、俺の介入によってすぐ解決した。
イザベラ様に「マリーさん悩んでいるみたいですよ」と言うと、イザベラ様は鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしていた。
事件の真相――簡単に言うと、イザベラ様の中では、可愛い可愛い恋人のすべてが可愛くてどうしょうもなくて、自分に微笑みかける恋人を眺めているだけで幸せすぎて、語彙力と思考がゼロになっていたらしい。
『マリーはなんでも可愛い。全部可愛い! 欲しいものは全部与えてあげたいし、いっそマリーが好きな店ごと買い取ってしまいたい』というのがイザベラ様のお考えだったようだ。
間に入った俺は二人の和解を促し、マリーさんはイザベラ様に『大事に思って甘やかしてくれるのは嬉しいけれど、限度は守ってほしい』と伝えたようだった。
――そんなやり取りをしてから1週間後。
俺とノクス先輩は、マリーさんにイザベラ様からの贈り物を見せられてのろけられていた。
「イザベラ様が買ってくださったんです。全部私に似合うからって……本当にもう、困っちゃいますよね」
新しい髪のリボン。それを愛しそうに見つめるマリーさんはとてもかわいらしい。
俺は、そんな彼女の表情を見るのが嬉しくて、つい彼女に微笑んでしまった。
「二人が幸せそうで、僕も幸せだなって。やっぱりあの日、背中を押して正解でした」
「……レイさん」
すると、マリーさんがずっと俺を見つめてきて――それから俺は、何故かノクス先輩によって視界を塞がれた。
「ちょっ。なんでいきなり僕の顔を手で隠すんですか」
「妹の恋人を奪うつもりか。その顔で不用意に他人に微笑むな」
なにがしたいんだこの人。俺はノクス先輩が理解できなかった。
確かに、レイ・シルフィードの顔はいいほうだけれども! だからって、これはないだろう。
「こんなの横暴です!」