「ありやざしたぁああっ!!!! ……。……。……。ヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!! ヤバいって……。今日何人来た? 5人? 6人? は、ははは……。めちゃくちゃ減ってるんですけど!!! また来るとか言ってくれた常連客の皆さんどこ行ったんだよ!! 今週誰も来ないじゃねえかよ!!」
死んだ親父の店をリニューアルオープンさせてから2週間。
最初の数日はそこそこ来てくれてたのに、今やこの様。
俺だって10年間いろんなところに修行に出て腕を磨いたってのに、親父の作る飯と何がそこまで違うってんだよ。
そもそもこの店が盛り上がったのって俺修行に出てからで……親父の料理が覚醒してからは一口も食ってないし、ってか親父の料理の覚醒時期遅すぎない? これもう晩成型ってレベルじゃねえぞ、おい。
まったく俺のいない間、50過ぎの親父に一体何があったてんだよ……。
亡くなった理由も店での転倒による頭部のダメージって……この店段差全然ないし、歳だったからって言われてもなんか納得できなくて……。
そんでもって再婚したとかいう嫁さんはどこ行った?
まだ俺会ってすらいないんだけど。
「最悪だ。何もかも。はぁ……。……。常連客が駄目なら新規のお客さん呼ぶしかない、か。こうなったら親父は親父の俺は俺のやり方で戦――」
――ピコーン。ピコーン。ピコーン。
店のSNSに反応があったのか。
俺のスマホに通知が。
もしかしたら今日アップした画像がバズったか?
期待を膨らませ内容を確認するとそこには想像と違った反応があった。
『この炒飯ギトギトでまずい』
『先代のは美味かったのにな』
『卵スープ格安の業務用。このセットぼったくりだぞ』
「……。あんのクソ常連共があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
明らかに常連客だと分かるアカウントからの批判リプ。
駄目だ。もう精神ダメージが許容限界を超えてる。
明日は休みにしよ。
そんでもって今日は暴飲暴食してやるからな。
俺は一呼吸すると地下の食料庫へ向かう。
昔は誇りをかぶっていて、掃除するのも面倒とほったらかしにされていた地下の小さな部屋だったが、忙しくなり場所が必要になったことで何時の間にやら食料庫として使用されていた。
食料庫には主に長期保存が可能な酒類や熟成肉用の冷蔵庫があり、親父の仕込んだ熟成肉に関しては経った日にちが日にちだったため、俺のまかないように消費されているといった具合だ。
正直今の食料庫は俺の飲み食いのためだけにあるもので、俺ですら3日に1回くらいしか利用していない。
「この調子だと肉がなくなり次第元通り埃まみれで使われない部屋に戻……ってこれなんだ? 前来たときはなかったぞ」
食料庫に足を踏み入れると、そこには1つの扉があった。
鍵が掛かってるのか押しても引いても開かないが、多分このドアノブに掛かってる袋に鍵とかも入っているのだろう。
どういう仕組みか分からないが、わざわざ鍵を扉と同じように、普通じゃない方法で保管してたってことは、親父は扉が誰かに見つかることを嫌がったのかもしれない。
「というか、どうなってんだよこの扉? 魔法? それとも光の反射で今まで見えなかったとか……いや、それはないか。だとしたら本当に魔法で? ……。とにかくこの袋をっと……。ん? 手紙?」
『これを読んでいる人へ。ま、おそらくは忠利(ただとし)だろうが……。この扉は危険だ。だから俺は鍵を壊そうと、扉を壊そうとした。だが、鍵も扉も処理することはできなかった。しかもどういうことか、鍵は扉を見つけて欲しいと言わんばかりに俺の目の前に現れて・……。多分今度はこれを読んでる奴の目の前に嫌でも現れるようになったはず。だからといって俺みたいに扉は開けるな。憑りつかれたのは俺が最初で最後でいい』
「親父、だな。えっと、まだ続いてるな」
見覚えのある親父の汚い字。
俺はそんな文字を目を細くして読み続ける。
『この先の【ダンジョン】は宝の山。しかし、その反面危険が――』
「宝の山、親父の覚醒……。……。……。なるほど。じゃあ俺がこの扉を開けないわけないよなあ! ファンタジー? フィクション? そんなもんはなあ、ゆとり教育でゲーム漬けになった俺とっては余裕で順応できるんだよ! 危険? 知るかそんなもん! 明日の飯も用意できなくて死ぬかもしれないって今のがよっぽど危険で怖いんだよ!」
途中まで読むと、俺は親父の手紙をポケットにしまい、早速扉に鍵を差し込んだ。
カチッと音が鳴ると木製の扉は1人でに開き、そして……。
「ごが?」
「……。おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい! だからってこれは初見殺しすぎないか?」
俺の目の前には馬鹿でかい1羽の鳥、モンスターが佇んでいたのだった。