「なあ、俺たちもそろそろ地上に出て《神子》を探さないか? いつまでもこんなところで特訓していてももう実力が大きく変わることはない。それどころか同族が増えすぎたせいで共食いなんていう事例まで発生しているんだぞ」
「でもなあ、地上からビンビン感じるあの魔力……。今の俺たちがどうこうできる域を出てる。いつかチャンスが来たときのために今は少しでも力を蓄えるのが利口な考え方だと俺は思うぞ」
「利口なもんか! いいか、地底にある食料はそのほとんどを大国に奪われて……。早ければ一年もせずにこの国は亡びる! もう悠長にしている場合じゃないんだ!」
「と、言われてもな。この国の民は臆病者の集まり。お前や俺がはやし立てたところで、そんな簡単に全員が地上進出に意欲的になるなんてこと――」
「「「上! 上! 上! 上! 上!」」」
「おいおいおいおい! どうしたんだこれは!」
「ほら見ろ! 俺と同じことを感じて民も地上を目指し始めてくれたんだ!」
「そんな馬鹿な……」
「この勢いがあれば《神子》探しどころか、そのまま地上を支配できるかもしれない! みんな俺についてこい!」
「ちょ、ちょっと待てって!」
地底に生まれ早10年。
地底国でも最弱といわれるこの国をどんな国よりも反映させるため、トップまで上り詰め噂に名高い《神子》を探そうと声を上げ続けてきた。
だがそんな努力も虚しく、国民は怯え、俺は毎日若干の魔力が含まれる土くれやミミズを頬張りながらただただ鍛錬の素振りだけをする日々を送っていた。
それが、まさかこんな急に国民が発起してくれるなんて、それだけで涙が溢れそうになる。
「――まさかこんな日が来るなんて夢のようだ! だが夢はそれだけで終わらせない! こっそり掘っていた地表までのルート、ここをあと少し上れば地表だ、みんなっ! 人間とかいう弱小種族なんか俺たちのこの爪で引きちぎってやろうぜ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
仲間たちのけたたましい声が響くと、遂に日の光が射し始めた。
この日差しこそが栄光の輝きへと変わるのだ!
「出たぞ! 地表に! さぁ人間! 我らに怯えろ! 我らはもう臆病者ではない! 事故の種の反映を求め勇猛果敢に挑む気高き地底人の一種、『土竜人(もぐらびと)』だ!」
「うわ……。きもっ。それにうじゃうじゃうじゃうじゃうじゃ……。まぁ都合はいいけど。なんかこの武器生成には一つの素材だけじゃ駄目みたいで、地底人の血か魔界の生き物の血か魚人の血が大量に必要らしいんだ。だから……折角出てきて悪いけど、お前ら全員死んでくれ」
ありえない程の殺気。魔力。余裕。
駄目だ。こいつには勝てない。見た目は大したことないのに。俺達よりも小さいのに。なんで俺はこんな存在と遭遇するというリスクを忘れて地上何か目指してしまったのだろう。
死。死死死死死死死死死死死死死死、死にたくない。死にたくないよ!
「うっ。うう……。お前たち、逃げ――」
「「「あああああああああああああああああああああっ!!」」」
殺気にあてられた仲間たちがこの名も分からない人間に襲い掛かり始めてしまった。
駄目だ。俺達じゃどうにもならな――
「上級魔法『針槌(ニードルスタンプ)』」
人間の生み出した巨大な槌が仲間を潰す。
しかもその先についた針で串刺しにしながら……。
「あーあ。俺なんで地上何か目指しちゃったんだろ……。こんな化け物がいるなら先に教えてよ」
「化け物に化け物呼ばわり、か。ま、武器作り協力感謝するよ」
痛みも感じず、何も感じられないまま視界は暗く暗く……もう何も考えられ――