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3話 俺だけレベルという概念のある世界

「――なんか緊張する、ね」

 変な言い回し……。
 飯食って家に誘ったみたいな流れを完全に忘れさせようと思ったのに、その間もそわそわそわそわして、なんとなくなかったことにはできなかった。

 はぁ。とにかく家に上げないとだよな……。

「まぁ、あんまり片付いてないんですけど上がってください」
「……。お、お邪魔しま――」
「あれ……。あらあらあらこれってもしかして修羅場ってやつかしら?」

 姉ちゃん……。
 そういえば振られて同居じゃなくなったから、こっちに戻ってくるって言ってたっけ。
 まさかそれが今日だったなんて聞いてないし、驚きはしたけど……それはまぁいいというかむしろプラス。

 問題なのはその横にいる……ドラゴニュートだ。
 まさかそんな簡単にあれを倒して戻ってくるなんて思いもしなかった。
 こんなことならもう1匹くらい残しておけば……。

「遅かったですね、か・げ・や・ま・さん! あ、お姉さんも影山さんだから下の名前、緑(みどり)さんって呼んだ方がいいですよね」

 こいつ、俺の下の名前を……。
 確認してなかったが、テイムされた側と下側で情報が共有できるっぽいな。
 
 それでそれをいいことに俺を揶揄ってる、と。

「その、えっとあなたは……影山君のお友達、かしら?」
「お友達……。いいえ」
「それじゃあ、なに――」
「もっと深い関係です」

 空気が凍りついた。
 ただ1人、いや1匹ドラゴニュートを残して。

「……。課長、深い関係って言うのは別にそういうわけじゃ――」
「いいのいいの! 別に私にそんな気を使わなくても! そう、そうよね! 影山君に彼女さんがいてもおかしくはないわよね! いいんじゃない! この方、可愛くて胸も大きくて! もう! こんなに素敵な彼女さんがいるなら私なんて呼んじゃダメでしょ! あの、すみませんでした。私、帰ります」
「あ、姉崎さんのところの子だよね? ここに来るのは久々でしょ? お茶くらい出すけど――」
「いいんです! お気遣いありがとうございますお姉さん。それじゃあ!」
「ちょっと待ってくださいよ、俺の話も――」
「ばか」

 振り返った課長の手を取るとさっと振り払われた挙句俺にしか分からないくらいの声で罵声を浴びせられた。
 その声はどこか震えているようで……距離を縮めるのは良くないと思ってたけど、嫌われたいとは思ってなかったんだけど。

「あー、行っちゃいましたね」
「あらあら緑も振られちゃったかぁ。しかも、姉弟の私と同じで浮気が原因……嫌なところばっかり似るのってなんでなのかしらね?」
「姉ちゃん、浮気したのかよ……」
「だって私、かーなーりモテるから。私と付き合う人はしっかり束縛してくれないと駄目なのよ。ま、それはそれとしてアイちゃんのことちゃんと教えてもらってもいい? ここで一緒に暮らすんでしょ」
「暮らす!? ……。はぁ。説明するから中に入ろう。今日はちょっと疲れすぎたよ。主にメンタル面で」
「それはそれは可哀想ですね」
「……。お前――」
「険悪なムードになるのは分かるけど、ここじゃだーめ。全員ハウスよ! ハウス!」

 姉ちゃんに手を引かれて玄関を上がる。
 さぁ、ドラゴニュートの……自称『アイ』って言う名前の人間についてどう伝えるか……。

 というか、人間の姿に化けれるのかよ、こいつ。



「――ふーん。ホームステイね。それならそうって早く言わないと駄目じゃない、2人とも」
「すみません」
「……ごめん」
「とりあえず私の服とか貸しておいたけど、部屋の準備はできてないから今日は緑の部屋を貸すように! それと姉崎さんには自分からちゃんと弁解しておくのよ。あんなに綺麗な子をほっとくなんてとんでもないから。それじゃあ私はもう寝るわね。もう移動で疲れて疲れて……。あ、朝ご飯は暖かい味噌汁をお願いね」
「ちょっ! はぁ。相変わらずだなぁ。本当にモテるんだよな? あの人」
「人間の容姿どうこうというのはよく分からないけど、あのさばさばした性格は清々しくていいと思うわよ」
「……。敬語はもうなしか。とんでもない猫かぶりだな」
「まぁね。このくらい慣れたものよ」
「なんてことをしてくれたんだって、怒鳴ってやりたい気持ちもあるけど……。この家で暴れなかっただけよしとしてやるか」
「……。あんな力見せられた後で無茶苦茶できるやつがいるとしたらそれこそ異常よ。まさか《神子》の力を手に入れるのがこんなに困難で不可能なことだなんて思わなかった、な」
「あー、そのことなんだが……。いいやまずは俺の命令を言い渡す。お前、ドラゴニュートはその身をもって《神子》を守り通せ。また《神子》の正体を漏らす行為を禁じ、その脅威となる存在とは敵対しろ」
「え? 別に私が守る必要なんて――」
「簡単さ、俺は《神子》じゃない。《神子》はさっきの女性で、今後お前はあの女性、姉崎仁美課長を守ってもらう」
「……。……。……。えええええええええええええええっ!!! なに? っていうことはさっき大チャンスだったっていうの!!! うわっ!! まんまと騙されたわ!! 情報の共有とかいうシステムもあなたの都合がいいようになってたのね!!」
「いや、それはちょっとわからな――」
「ちょっと! あんた達! 盛り上がるのはいいけどそういうのは部屋でこっそりしなさいよね!! まだ姉崎さんと付き合ってないとはいえ、セフレがバレたら今度こそ終わりよ!」
「うるさいのはごめんだけど……。なんか微妙に緩いのな、姉ちゃん」
「それはそうよ! 弟が私の好みのタイプの巨乳外人さんとせっせとしてるところは見たいもの! ……。なによなによ! あんた達あんな声出してたのにそんな距離感でどうするの? 折角隣同士にしてあげたんだからもっとくっつきな、さいっ!」

 ほぼ強制的に姉ちゃんを向かいにして隣同士に座らせられていた俺と『アイ』の肩を無理矢理合わせる姉ちゃん。

すると……。

『スキル選択ウィンドウ展開。情報の共有内容ウィンドウ展開。ドラゴニュートの状況、テイム状態と……【同種族強制呼び出し中】』

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