ベッドの中で瞼を持ち上げると、目の前に直樹がいた。
作業着のまま椅子に座って、本を片手に私を見つめる、その愛おしい瞳。
東扇島
ガレージ
13時16分
「お前はよくこんなうるせぇとこで寝られるな」
私の髪を優しく撫でる、大きな手。
彼に髪を撫でられるのが好きだ。
眉を落として口角を少しだけ上げて笑うその仕草は、きっと私しか知らないはず。
「……うるさくないよ、落ち着く」
微睡みながら、その大きな手に触れて、手の甲にキスをする。
「この音、直樹の音だ——って思う」
その手が、そっと私の頬を撫でた。
私はもう一度、眠りに落ちる。
——漂ってくる優しいコーヒーの匂いで目が覚める。
眠たい目を擦りながら、階下の簡素なキッチンへ。
「……やっぱり起きてきたな」
二つのカップにコーヒーを注ぎながら、直樹が振り向く。
「直樹のコーヒー、美味しいんだもん」
頬をその広い背中に押し付けて、彼の柔らかい体温に微睡む。
「おい、そこで寝るなよ」
「寝てなーい……」
「上持っていってやるから」
「もう起きたもん」
「じゃあソファで待ってろ」
高い窓から午後の優しい日差しが差し込むガレージ。
鋭い金属音が終始響くこの場所での時間は、驚くほど穏やかだ。
「今日海の公園行こうよ、テラスでピザ食べるの」
「もう暗くなるぞ」
「夕暮れが良いんじゃん」
「じゃあ、行くか」
海の公園
19時36分
「夜の海って綺麗だよね」
食事の後、暗く畝る海に惹かれて海辺まで砂浜を歩く。
「直樹はさ、向こう行ってた時に綺麗な海あった?」
「コロンビアの離島はやばかった」
小さな、沈黙。
「おい、聞いといて黙るなよ」
「……やっぱ知らない直樹がいるのやだな」
拗ねた顔を見られたくなくて、直樹の胸に顔を埋める。
直樹の大きな手が、髪をくしゃくしゃと撫でる。
「俺もやだよ。見ない内にお前はすげぇ綺麗になっててさ……誰がこいつのことこうしたんだよ!って」
「……私だよっ」
彼を見上げて頬を膨らますと、
直樹は笑って私の頬を優しく抓る。
「……知ってるよ。だから好きなんだろ」
突然の「告白」に、自分の耳の端が赤くなるのがわかった。
「……っはは!お前のそのびっくり顔、傑作だな」
「ちょ、びっくり顔って何!?」
「かわいーなー、俺の女は」
手を固く繋いで静かな砂浜を歩きながら、バイクへ戻る。
「あ、帰ったら金ロー観なきゃ。今日『さらば青春の光』だよ」
「ああいうバイクは趣味じゃねぇよ」
「えー、私はスーツ着て乗ってみたいなぁ」
「お前意外とヤンキーの素質あるよな」
「ていうか、家にウイスキーまだあったっけ?」
「買って帰るか」
バイクに跨り、幹線を走っていく。
全てが愛おしい、二人きりの金曜の夜。